006 墓参りとなんとやら……
主人公の息子とその娘の話です。
「ふぅー、こんなもんかな。案外、汚れてたな」
この墓にきたのは母さんの一周忌以来か。
もう少しマメにこれればいいんだけど、カナダからだといろいろと難しいんだよね。
「おーい。お花とお線香持ってきてー」
「はーい!」
この子ももう8歳になるのか。大きくなったなぁ……
そういえば、父さんが死んだのって俺が8歳の時だったな。
この子のためにも俺は絶対に長生きするぞ。
「パパ、どうしたの? お花とお線香持ってきたよ」
「んっ? ああ、世界一可愛い娘のためにも長生きしないとなぁ――って思ってたところ」
「あははは! そんなの当然でしょ? パパはワタシと結婚するんだもん! だからいっぱ――い長生きしてね!」
「あははは。そうだね。そうだったね。それじゃ、お線香に火を付けるから、お花は半分に分けて花立てに生けといてね」
カナダ人の妻と離婚したのは、今から6年前。
この子がまだ2歳の時だった。
離婚の原因は妻の浮気。
それからは、俺が一人でこの子を育てている。
親バカながら本当にいい子に育ってくれたもんだ。
「はい、火を付けたから気を付けてね。そんじゃ、お爺ちゃんとお婆ちゃんにご挨拶しよっか?」
「はーい!」
父さん、母さん、ひさしぶり。
あまり会いにこられなくて、ごめんね。
俺は元気でやってます。
うちの子もこんなにいい子に育ってます。
男手一つで大変なこともいろいろあるけれど、これからも天国から見守っていてください。
それと、兄さんたちからも聞いてると思うけど、実家を燃やした犯人は捕まったので、もう心配しないでください。
それじゃ、またきます。
「さてと、そろそろ行こうか?」
「ねぇ、パパ。グランパがグリズリーを倒したって本当なの?」
「んっ? 急にどうしたの?」
「この前ね。グランパがグリズリーをパンチで倒したってお友達に話したら嘘つきって言われたの。そんなことできるわけないって……だから本当なのかなって思っちゃったの」
「正しくはグリズリーじゃなくて、大きなツキノワグマだけどね。本当だよ。パパもお爺ちゃんの倒した熊を見たからね」
実際、父さんの倒れていたところから少し離れた場所に、鼻先が完全に陥没した熊は死んでいた。
警察の検視によると、死に物狂いの父さんから受けたであろう凄まじい一撃が致命傷になったとのことだった。
俺は普通だなんて言いながら、なんだかんだいつも破天荒なことばかりしてる人だったから、警察の人からその話を聞いた時は家族全員が納得してたっけ。
ただ悔しいのは、父さんが前日にギックリ腰をしていたこと。
医者からは1週間は安静にしていろって言われてたのに、
「山菜の神様が俺を呼んでいる!」
なんて意味不明なことを言って、油の切れたロボットみたいな動きで山菜採りに出かけちゃったんだよね。
もし万全の状態だったら普通に熊を仕留めて、その晩は父さんの採ってきた山菜を摘みながら、その武勇伝で盛り上がってたんじゃないかな。
「本当?」
「うん。本当だよ。お爺ちゃんはパンチで熊を倒したんだ」
「やっぱり本当なんだ!」
「そうだね。お爺ちゃんはとっても強かったんだよ」
「オクラットも倒せるかな?」
「オクラット? 確かオクラットはイヌイットの伝承に出てくる大きな怪物だったっけ?」
こういう時に軽々に嘘をつくのは教育上よろしくないんだよな。
うーん、さすがの父さんでも怪物を倒すのは無理……
うっ、なんか期待の眼差しが痛いぞ。
うーん、でもあの父さんならもしかしたら……
「うん。お爺ちゃんなら倒しちゃうかもね。そういえば、兄さんが父さんの倒した熊の写真を持っていたような……」
「見たい! 見せて!」
「それじゃ、これから兄さんの家に行くから見せてもらおうか?」
「うん! ……あっ! パパ、見て見て! あの雲、ブタさんみたい! なんかお口からプカプカって煙吐いてる! 変なのー!」
「んっ……? 本当だ。ブタさんみたいだね」
というか、アレはブタさんというより蚊遣り豚じゃないか?
蚊遣り豚か……懐かしいな……
そういえば、実家にあった蚊遣り豚ってどうしたんだろう?
母さんの遺品整理の時に誰かが引き取ったのかな?
母さん、父さんが死んでからもアレだけはずっと大切に使ってたもんな。
昔一度だけ兄さんが勘違いで捨てた時なんて、母さんメチャクチャ怒っちゃって、兄さんと俺で不燃物回収車を追いかけ回したっけ。
なんか思い出したら気になってきたぞ。
熊の写真ついでに、蚊遣り豚のことも聞いてみようかな……




