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056 スズメバチとなんとやら……

 少し待っていると朝練も終わり、リーナたちは予定していた依頼へ向かうため、一足先に工房をあとにした。

 残ったのは俺とティア、ハンス、それからバルガスさん。

「それじゃ、こいつ返しますね」

 腰に下げていた借り物のカブを外して、バルガスさんへ差し出す。

「そこへ置いとけ」

「はーい」

 言われた通り、カウンターの上にカブを置く。

 これにて無事返却……じゃなかった。

 1本目は白双蛇とやり合ったときに折れたから、このカブは2本目だったっけ。

「そういえば、この前折っちゃったのって、本当に弁償しなくていいんですか?」

「いい。ハンスに払わせる」

「えっ!? なんでオレ!?」

 横にいたハンスが素っ頓狂な声を上げた。

 その伸びた髪は邪魔になったのか、今は襟足のあたりで1つに束ねられている。

「お前を助けに行って折れたんだ。文句あるか?」

「いや、それは……」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

「アニキー!」

 ハンスには気の毒だけど、ここはありがたく甘えさせてもらおうっと。

 最近、何かと入り用で財布の中も寂しいしね。

「少し待っていろ」

 バルガスさんはそれだけ言うと、工房の奥へ引っ込んでいった。

 

 しばらくティアと一緒にハンスの愚痴を聞き流していると、バルガスさんが戻ってきた。

 その手には長い布に包まれたバンカーらしき物が握られている。

 おおっ。

 なんかずいぶん厳重だな。

 バルガスさんはそれをカウンターの上へ置くと、包んでいた布へ手を掛けた。

 ゆっくりと布が外され、その下から1本のバンカーが姿を現す。

「おおおっ!」

 思わず声が出た。

 目の前には見たことのないバンカー。

 赤みがかった銀灰色の剣身は、金属らしい鈍い光沢を帯びている。

 その剣背から根元にかけては重量感のある複雑なエンジン機構が鎮座し、そこから伸びる4本の細い排気管は1本の太いマフラーへと繋がっている。

 うんうん。

 カブ改の小ぶりなエンジンもいいけど、やっぱりこういうデカいエンジンってのは男心をくすぐりまくるよねぇ。

 ……って、あれ?

「俺のカブ改は?」

「そこにあるだろ」

「えっ?」

 バルガスさんが顎で示した先を見る。

 そこには今しがた布を外されたバンカー。

 よく見れば、使い込まれた柄の握り部分には見覚えがある。

 間違いない。

 まだ短いとはいえ、この世界に来てから苦楽を共にしてきた相棒のものだ。

「……いやいやいや、全然違うじゃん!」

「元はお前のカブ改だ」

「元は!?」

 元って何!?

 修理に出したはずなのに、なんで過去形みたいになってるの?

 ちょっと見ない間に、相棒がゴリマッチョになって帰ってきたんですけど!

「鞘と握りはそのままだ」

 そう言いながらバルガスさんはカウンターの下からくすんだ深緑色の鞘を取り出した。

 カブ改の鞘だ。

「それだけ!?」

「使えるもんは残してある。だが、それ以外はほとんど替えた」

「ほんとだ。鞘と柄はそのまんまだね」

 ティアもカウンターの上のバンカーを覗き込む。

「それ、修理って言います?」

「最初は修理するつもりだった」

 最初は。

 なんか変なこと言い出したぞ。

 バルガスさんはカウンターの上のバンカーへ手を置くと、こっちを見た。

 

「前にカブ改が壊れたとき、お前のスキルも関係してるかもしれんと言っただろ」

「言ってましたね」

 カブ改が調子を崩したとき、バルガスさんは俺の使い方だけが原因とは限らないと言っていた。

 俺の『蚊遣り豚の本懐』も、故障に関係しているかもしれない。

 ただ、その時点では可能性があるってだけで、断定まではしていなかったはずだ。

「あの時はまだわからんかった。だが、この前、お前があの白いのとやり合うのを見て確信した」

「何をです?」

「お前の一撃はカブで出せる威力じゃない。見た感じじゃ、少なくとも2割は増してやがる」

 バルガスさんがカウンターの上の借り物のカブを指先で叩いた。

「スキルでエンジンの出力が上がってるってことですか?」

「ああ。スキルの話を聞いたときはまさかとは思ったが、単純な攻撃力だけじゃない。最高出力が上がってる」

「なるほど」

「しかも、あの無茶な戦い方だ。カブの性能の限界を超えた状態でシェルを連発しやがる。そりゃ、壊れるってもんだ」

「必要だったんですって」

「普通の奴は必要でもやらん」

「えぇ……」

 そう言われてもなぁ。

 いつも必要に迫られて使ってるだけなんだけどな。

 ……まぁ、調子に乗って使いすぎることはあるか。

 

「ともかく、お前があの使い方を続けるなら、元と同じように直してもまた壊れる」

「それは困ります」

「だから作り直した」

 バルガスさんの話では、まずエンジンを別の物に載せ替えたらしい。

 ところが、新しいエンジンでは元のフレームの強度が足りない。そこでフレームを補強すると、今度は駆動部に無理が出る。さらに弾倉も排気も、そのままじゃ使えなくなった。

 そんなこんなでどんどん魔改造してったら、最終的にこんな風になったらしい。

「なかなか骨が折れたぞ」

「そ、そうですか……ちなみにこの剣身は?」

「ああ。ついでだ」

「ついでの範囲が広すぎません? というか、全部変わってるじゃないですか!」

「だから鞘と握りは残ってると言っただろ」

 それだけじゃん!

 そう思ったところで、ふと引っかかった。

「……だからこの間、パシャの素材よこせって言ってきたんですか?」

「そうだ。牙もフレームの補強に使ってる」

「やっぱり!」

 てっきり修理のついでに何かに使うのかと思っていたけど、最初からこいつのためだったのか。

 なるほど。それならパシャの素材を欲しがってたのも納得だ。

 

「……もうカブ改じゃないですよね、これ」

「だから名前も変えた」

「名前まで!?」

 バルガスさんは当然のような顔で、新しくなったバンカーを持ち上げた。

「ホーネットだ」

「ホーネット……」

「スズメバチって意味だ。甲高く唸って、何度も襲いかかる。こいつにはちょうどいいだろ」

 思わず、もう1度バンカーを見る。

 ホーネット。

 ……名前までカッコイイじゃん。

 見た目だけじゃなく、名前まで俺好みだ。

「持ってみろ」

「はい!」

 すぐに手を伸ばす。

 柄を握った瞬間、手の中に馴染みのある感触が戻ってきた。

 ここはカブ改のままだ。

 だけど、握りから先にあるのは、まったく別物に生まれ変わったバンカー。

 ……いいな、これ。

 そのままステータスを表示してみる。

 

◇名前 ホーネット

◇攻撃力 230

◇斬れ味 160

◇エンジン

 火属性4ストロークDOHC

 4バルブ直列4気筒249cc長剣型

◇最高出力 375

◇対応シェル&倍率

 ・小 ×1.25

 ・中 ×1.50

◇装弾数 4発

 

 ……攻撃力230!?

 思わず表示へ顔を近づける。

 いやいや、待って。

 カブ改って100だったよね?

「倍以上になってんじゃん!」

 しかも斬れ味は60から160。

 最高出力も220から375。

 装弾数なんて1発だったのが4発になっている。

「斬れ味160!? 何したら60からそこまで上がるの!?」

「剣身には属性鉱石の中でも良質なものを使ってる」

 ヤバい。

 数字を見れば見るほど、とんでもないバンカーになってる。

 そこで、もう1つ気づいた。

「……あれ? 極小シェルは?」

「使えん。小か中を使え」

「いやいやいや! それ、めちゃくちゃ金かかるじゃないですか!」

「そんなもん必要ないだろ」

「ありますよ! 財布に!」

 普段の依頼で毎回小シェルなんか使ってたら、いくら稼いでも足りないぞ。

「……ちょっと待ってください」

「今度は何だ?」

「これ、絶対に最初に聞いてた修理代じゃ足りませんよね?」

「足りんな」

「ですよね。じゃあ差額は――」

「ハンスに払わせる」

「またオレ!?」

「そんじゃ、お言葉に甘えて」

「いやいやいやいや! またオレ!?」

「うるさい。命の恩人にはきっちり礼を返す。それがドワーフの男ってもんだ」

「そんなぁ……」

 ハンスが情けない声を漏らす。

 するとバルガスさんは、呆れたように息を吐いた。

「別に金で全部払えとは言っとらん。その分、工房で働け」

「結局こき使うんじゃねぇか!」

 

 まぁー、でも。

 ぶっきらぼうな言い方だけど、これがバルガスさんなりのお礼なんだろう。

 ハンスを助けたのは、別に何か返してほしかったからじゃない。

 それでも、こうして形にしてくれたことは素直に嬉しかった。

「ありがとうございます、バルガスさん」

「礼はまだ早い」

「えっ?」

 バルガスさんはニヤリと笑うと、訓練場のほうに向かって顎をしゃくった。

「説明だけ聞いててもわからんだろ。試しに振っていけ」

「おおっ! やります!」

 それを聞いた瞬間、自然と口元が緩んだ。

 こいつがどんな一撃を出すのか、楽しみで仕方ない。

 俺は足取り軽く、訓練場へと向かった。

 

 訓練場へ出ると、ハンスが奥に並んでいた鎧人形の1体を中央まで押してきた。

「アニキ、準備できましたよ」

「ありがと」

 着せられた鉄鎧はボロボロで、胸当ては錆びついて、所々へこんでいる。

 朝練に通っていた頃、何度もカブ改を叩き込んだ見慣れた練習用の的だ。

「なんか懐かしいなぁ。朝練のときはお世話になったっけ」

「アニキ、毎朝こいつぶっ叩いてましたもんね」

 そういやハンスも、あの頃はなんだかんだ絡んできながら、俺の朝練を見てたもんなぁ。

「これを使え。小シェルだ」

「おっと」

 バルガスさんが放ったシェルを片手で受け取る。

 ……ああ、そうか。こいつ、極小シェルは使えないんだっけ。

 小シェルを弾倉へ押し込む。

 シュコッ――カチン。

 おおっ。

 この音、この感触。

 いい感じだ。

 

「それじゃあ、いきますよ」

「おう」

 ホーネットの柄を両手で握ると、カブ改のまま残された握りがしっくりと手に馴染む。なのに、その先に収まっているエンジンは完全に別物だ。

 スターターへ手を掛け、一気に引いた。

 ギュルルルルッ――ヴォン!

「おおおっ!」

 腹の底へ響く始動音。

 次の瞬間、柄を通して細かな振動が掌へ伝わってきた。

 フォォォォォォン――!

「うおおおおっ! 何この音!」

 高い。

 でも軽くない。

 カブ改みたいにドッドッドッと脈打つ振動じゃない。

 もっと細かく、密な震えが一定の間隔で掌に響く。

 まだアクセルには触れていないのに、エンジンが回っている感触が手首から腕までしっかり伝わってきた。

 マフラーから吐き出される熱い排気が頬を撫でる。

 何これ。

 めちゃくちゃカッコイイんだけど!

「カトル、顔すっごいニヤけてるよ」

「仕方ないじゃん! こんなのテンション上がるって!」

「アニキ、わかります! この音すごいですね!」

「お前まで騒ぐな」

 バルガスさんだけは相変わらず落ち着いていた。

 いやいや。

 こんな音を聞いたら、テンション上がるに決まってるでしょ。

「音に聞き惚れとらんで、さっさとやれ」

「はい!」

 

 鎧人形へ向き直る。

 ホーネットを右側へ引き、腰を落とす。

 握りは手に馴染んでいる。

 重心も悪くない。

 前より少し重いはずなのに、構えたときの収まりはむしろいい。

 そして何より、柄の中から伝わってくる細かな振動がたまらない。

 よし。

 いける。

「ふぅー……」

 短く息を吐き、アクセルを握り込む。

 バァンッ!!

 腹へ響く重い炸裂音。

 同時に、掌へ伝わっていた振動が一変した。

 キィィィィィン――!!

 エンジンが甲高い唸りを上げ、出力が一気に跳ね上がる。

 振動はさらに密度を増し、手首から腕まで細かな震えが駆け抜けた。

 マフラーから真っ赤な炎が噴き上がり、熱気が腕を舐める。

「はやっ!?」

 思わず声が漏れた。

 カブ改の感覚で音と振動を読むつもりだったのに、もう出力が乗ってる。

 早い。

 こいつ、立ち上がりがとんでもなく早い!

「っ、なら!」

 一歩踏み込む。

 腰を回し、横薙ぎに振り抜く。

 甲高いエンジン音と、掌へ伝わる密な振動。

 驚いたのはほんの一瞬。

 身体はもう、そのタイミングに合わせていた。

 刃が鉄鎧の胸元へ叩き込まれる。

 ドゴォォォォォンッ!!!

 振り抜いた一撃に、エンジンの力が強烈な衝撃となって一気に上乗せされた。

 柄が激しく震え、手首から肘、肩へと重い衝撃が突き抜ける。

「うおおおおおっ!!」

 次の瞬間。

 バギャァァァンッ!!!

 鉄鎧の胸元が内側から爆ぜるように大きく弾けた。

 鎧をまとった上半身が耐えきれず、木片と鉄片を四方へ撒き散らしながら粉々に吹き飛ぶ。

 ほんの一瞬だった。

 振り抜き終えたときには、台座の上に残っていたのは下半分だけ。

 カラン。

 カンッ。

 遅れて落ちてきた鉄片が、乾いた音を立てて地面を跳ねる。

 少し離れた場所には、砕けた木片と千切れた鎧の破片が散らばっていた。

「うおおおおおっ! すっげぇぇぇぇっ!!」

 思わずホーネットを持ち上げる。

 すごい。

 これ、想像してたよりずっと上だぞ!

「カトル! 今のすごかった!」

「でしょ!? いや、俺じゃなくてこいつがすごいんだけど!」

「スゲェー……粉々だ」

 ハンスは鎧人形の残骸へ駆け寄ると、足元に散らばる破片と残った下半身を見て目を丸くしている。

 お亡くなりになった鎧人形くんはあとできちんと弔ってあげよう。

 

「バルガスさん、最高です!」

「騒ぐな。そいつの本領はたかが1発打ったくらいじゃ見れん」

「本領ですか?」

 思わずホーネットへ目を落とす。

「ああ。そいつには高回転まで回るエンジンを積んでやった。アクセルを握れば、あっという間に出力が跳ね上がる。だが、本領はここからだ」

 バルガスさんが前に出した手を握り込む。

「普通のバンカーなら1発目のシェル斬撃後は多少なりとも出力が落ちるもんだが、そいつは落ちねぇ。2発目、3発目と出力を維持したまま、シェル斬撃を連発できる。いや、維持ってのは語弊があるな。むしろ、2発目、3発目とさらに出力が上がっていく」

「連撃すると威力が上がるってことですか?」

「ああ。当然、お前のスキル効果による上昇幅も織り込み済みだ」

「おお……」

 そこまで俺の戦い方を計算に入れて作ってあるのか。

「前に言っただろ」

 バルガスさんがニヤリと笑う。

「シェルを何発も炸裂させながら戦うなんざ、頭のいかれた冒険者ぐらいだとな」

「……言ってましたね」

 覚えてますとも。

「まさか本当に目の前におるとは思わんかったがな」

「誰のことです?」

「お前以外に誰がいる」

「ですよねー」

 まぁ、否定はできない。

 バルガスさんは楽しそうに鼻を鳴らすと、俺の手にあるホーネットへ目を向けた。

「どうだ? お前にはぴったりだろう」

 俺も手元のホーネットへ目を落とす。

 1発でも十分すぎる威力がある。それだけじゃなく、俺の連続攻撃を重ねるほど力を引き出せる。

 ……うん。

 めちゃくちゃ嬉しい。

 ここまで俺に合わせて仕上げてくれたんだ。

「……言い方はともかく、最高です」

 

 

 それから、鎧人形くんを片付け終えた俺は、ティアと一緒にノーラさんの防具屋へ向かっていた。

 ちなみにハンスもついてこようとしたんだけど、バルガスさんに耳を引っ張られ、そのまま工房の奥へ連行されていった。

 ……頑張れ、ハンス。

 

 今日は、この前ノーラさんに頼んでおいたインナーが出来上がる日だ。

 エクレアさんのチャックも付いてるし、どんな感じになったのかちょっと楽しみなんだよね。

 ふと隣を歩くティアの手元へ目をやる。

 はめているグローブはかなり擦り切れていて、見るからにくたびれていた。

「それにしても、ずいぶんボロボロになったね、それ」

「うん。ついつい楽しくて、シェル使って練習しすぎちゃってさ」

「ああ……なるほど」

 ジャズの出力が急に上がったときのことか。

 

 それがわかったのは、南の遺跡から戻った翌日の夜だった。

 その日の依頼を終えてダヴィデ亭へ帰ると、店へ入った途端、ティアが待ってましたと言わんばかりに駆け寄ってきた。

「カトル! ジャズがなんか変なの!」

「変って、どうしたの?」

「変っていうか、強くなってるの!」

「えっ? ジャズが?」

「うん。今日の朝練でいつもみたいに使ってたら、明らかにいつもより威力が出ててさ」

「へぇー……でも、ジャズは何もいじってないんだよね?」

「うん。だからバルガスさんにも見てもらったんだけど、ジャズ自体は何も変わってないって」

「それは変だな……」

「でしょ? それでバルガスさんと話してたら、最近変わったものってこれじゃないかって」

 そう言ってティアが胸元から取り出したのは、銀色のペンダント。

 ハンスが誕生日に贈った、あのペンダントだ。

「これ?」

「うん。これを着け始めたくらいしか思い当たらないんだよね。それで、カトルなら観察眼で何かわかるんじゃないかと思って」

「ああ、なるほど」

 それで俺の帰りを待ってたのか。

「じゃあ、ちょっと見てみるね」

「お願い!」

 ティアからペンダントを受け取って、手のひらの上で眺める。

 銀色の丸い部分には、細い継ぎ目のような線が入っていた。

「ん? これって開くの?」

「うん。そこに水晶が入ってるよ」

「へぇー」

 丸い部分へ指を掛ける。

 カチッ。

 蓋が開き、中から小さな水晶が姿を見せた。

 なるほど。ハンスが採りに行ってたのは、この水晶か。

 真ん中では、黄色い花びらみたいな光がくるくる回っている。

 ……キレイだな。

 っと、見惚れてる場合じゃないか。

 水晶へ意識を向ける。

 すると、目の前に情報が表示された。

 

◇名前 雷花水晶(らいかすいしょう)

◇レア度 4

 水属性の魔力を雷属性に変換する。

 

「雷花水晶……」

「何かわかった?」

「水属性の魔力を雷属性に変換する……らしい」

「水を雷に?」

「そうみたい」

 表示されているのはそれだけで、ジャズの威力や出力が上がるとは書かれていない。

 だけど――

「これじゃないかなぁ」

「やっぱり?」

「たぶんね。この水晶がティアの水属性の魔力を雷属性に変えて、それがジャズに流れてるとか」

「じゃあ、このペンダントのおかげで、今までより出力が出るようになったってこと?」

「ジャズ自体は何も変わってないみたいだし、たぶんそうなんじゃない?」

 ティアはペンダントを受け取ると、しばらく水晶を見つめた。

 そして――

「やったぁ!」

「うおっ!?」

 次の瞬間、ティアが勢いよく抱きついてきた。

「これでやっと、ジャズをちゃんと使えるようになるんだ!」

「た、多分ね。まだ本当にこれが関係してるかは――」

「でも、きっとこれだよ!」

 そう言って、ティアは嬉しそうに笑う。

「そういや、このことハンスにも教える?」

「……」

 ティアは少し考えてから、首を横に振った。

「……黙っとこ」

「なんで?」

「だって、絶対調子に乗るじゃん」

「……ああ」

 それは否定できない。

 ハンス、お前の好きな女の子はなかなか手強いぞ。

 

 そこまで思い出したところで、ティアのボロボロのグローブへ目を戻す。

「で、調子に乗ってシェル使ってたら、こうなったと」

「調子に乗ってないもん!」

 ティアがグローブをこっちへ向ける。

「そのグローブ見ながら言われてもなぁ」

「だって、どのくらい出せるのか試したくなるでしょ?」

「まぁ、それはわかる」

 俺もホーネットを手に入れたばっかりだしね。

 人のことは言えません。

「だから今日は、いいのがないか見てみようと思って」

「なるほどね」

 俺もちょうどノーラさんの店へ行くところだったし、タイミングは良かったわけだ。

「グローブかぁ……」

 そういや俺のも結構使ってるし、この際新しいのを見てみようかな。

「丈夫なのが見つかるといいね」

「うん!」

 そんな話をしながら歩いていると、やがて通りの先に『ノーラの防具屋』の看板が見えてきた。


次回は11月3日8時20分投稿です。

この日は文化の日ということなので、3話投稿になります。

応援、お願いします。

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