050 湖畔のキャンプ上となんとやら……
「いやぁー、いい天気だなぁー!」
両手を大きく広げて、雲ひとつない青空を見上げる。
目の前には、太陽の光をキラキラと反射する大きな湖。
周囲をぐるりと囲む森の緑も、水面を渡ってくる風も実に爽やかだ。
木々の間から小鳥の鳴き声が聞こえて、湖の端では小さな魚が時折ぴょんっと水面を跳ねている。
うーん。
空は青い。
湖も青い。
吹いてくる風は涼しいし、聞こえてくるのは鳥の声とみんなの楽しそうな話し声。
何日か前に嘆きの滝で傷だらけになりながらパシャ・ケンゲと殺し合っていたのが嘘みたいだ。
いやぁー、素晴らしい。
やっぱり人生、たまにはこういう日がないとね!
ここはモネの森の中にあるジヴェルニ湖。
前にピートンと来たときも綺麗だと思ったけど、こうして晴れた日にみんなで来ると、また全然違って見える。
一緒に来ているのは、俺、ティア、リーナ、クリフ、ブラ、ケーシーくん、エクレールさん、それからピートン。
あと、ギルドの仕事が片づいたらベッチも合流する予定になっている。
そもそもこの日帰りキャンプ、俺の銅等級昇級祝いも兼ねていたりする。
しかも昇級祝いはこれで3回目。
1回目ならわかる。
2回目も、まぁー、まだわかる。
3回目ともなると、そろそろ何を祝っているのかわからなくなってくるけど、みんなが楽しそうなので細かいことは気にしない。
祝われる側としては、飯が食えて遊べるなら何回でも歓迎だ。
銅等級への昇級試験にも無事に合格。
途中で試験官の指示を無視して勝手に走っていったことについては、エクレールさんから散々小言を言われたけど、実力については問題なしということで合格になった。
めでたしめでたし。
ちなみに、ハンスも誘おうと思ったんだけど、バルガスさんに聞いたら、草原の遺跡へ採掘に行ったまま、まだ帰ってきていないらしい。
昔からふらっといなくなっては何日か帰ってこないこともあったそうで、バルガスさんは全然心配していなかった。
まぁー、あのハンスならそのうち元気に帰ってくるだろう。
「カトルー! そっち魚いるー!?」
湖畔からティアの声が飛んでくる。
「いるいる! ケーシーくんと結構捕まえたよー!」
「ほんと!? いっぱい捕ってきてねー!」
「任せとけー!」
ティア、リーナ、ブラの3人は、持ってきたテーブルや椅子を並べたり、食材や調理道具を出したりしてバーベキューの準備中。
ティアが何かを手伝おうとするたびに、リーナとブラがさりげなく別の仕事へ誘導しているのが少し気になるけど……
まぁー、理由は聞かなくてもわかる。
その足元では、ピートンが食材の入った籠を気にしてブヒブヒ鳴いている。
こらこら、つまみ食いするんじゃありません。
少し離れた大木には、エクレールさんが背中を預けて腕を組んでいた。
誘ったときは「誰が遊びになんか行くか。……護衛が必要なら付いていってやる」なんて言ってたけど、どうやら本気だったらしく、たまに森の方へ鋭い視線を向けている。
でも、さっきティアたちが湖を見てはしゃいでいたとき、一瞬だけ口元が緩んでいたのを俺は見逃していない。
本人には絶対言わないけど。
「カトルさん! いました!」
「おっ!」
少し離れた水面からケーシーくんが顔を出す。
両手には銀色に輝く魚が1匹。
太陽の光を反射してピチピチ暴れている。
「やるねぇー! これで何匹目?」
「7匹目っす!」
「負けてられないな!」
俺も大きく息を吸って、そのまま水の中へ潜る。
ひやりとした水が全身を包んだ。
最初に入ったときは冷たくて声が出そうになったけど、慣れてしまえばむしろ気持ちいい。
透明度も高く、水の中でもかなり先まで見える。
水草の間を小魚の群れがすり抜けて、底に転がる丸い石の間では少し大きめの魚がのんびり尾びれを揺らしていた。
おおっ。
いたいた。
岩陰へ逃げ込もうとしていた1匹を見つけて、両手で挟み込むように追い詰める。
よしよし。こっちだぞー。
逃げるなよー。
あと少し……
魚が急に向きを変える。
負けるか!
こっちだって、前世では川遊びくらい何度もやってるんだからね!
バシャッ!
「よっしゃあ! 捕ったどー!」
水面から顔を出して、捕まえた魚を高く掲げる。
「おおっ! カトルさんもデカいっすね!」
「これで8匹目! 大漁! 大漁!」
「さすがっす! でも、あっちの人はまだ0匹っすよ」
ケーシーくんが顎で岸の方を示す。
そこではクリフが岩に腰かけて、真剣な顔で釣り糸を垂らしていた。
背筋を伸ばして、両手で釣り竿を持って、浮きから一瞬たりとも目を離さない。
俺とケーシーくんが魚を次々捕まえている間も、ほとんど同じ姿勢のままだ。
浮きもピクリともしない。
「……釣れてないね」
「全然っすね」
「真面目にやってるのにな」
あれだけ粘っているのに、釣果は今のところ0匹。
そんなクリフを眺めていると、ふとケーシーくんと目が合った。
「……」
「……」
俺は水の中へ手を入れて、人差し指と中指を自分の目へ向ける。
続いてクリフを指差す。
最後に両手をわきわき。
どう? 伝わる?
ケーシーくんは一瞬だけ首を傾げたあと、ニヤリと笑って親指をグッと立てた。
俺たちは音を立てないように水へ潜って、ゆっくりとクリフのいる方へ近づいていった。
岩のすぐ近くまで来たところで、水中のケーシーくんと目を合わせる。
3、2、1――
ザバァァンッ!
「ダッダーン!」
「うわあっ!?」
俺とケーシーくんが同時に水面から飛び出す。
クリフが飛び上がるように驚いて、釣り竿を抱えて後ずさった。
「ボヨヨンボヨヨン! アーアアー! ダッダーン!」
「ダッダーン!」
「ななな、なんですか!?」
答えない。
俺とケーシーくんは真顔のまま、変なポーズを取りながら少しずつクリフへ近づいていく。
「ボヨヨンボヨヨン!」
「ダッダーン!」
「だから、なんなんですか!? ダッダーンって!」
あと少し。
クリフが逃げようとした瞬間、俺は右足を、ケーシーくんは左足を掴んだ。
「せーの!」
「っす!」
「えっ?」
ザバァァァンッ!
「うわあっ!?」
クリフの身体が湖へ落ちる。
よし、成功!
俺とケーシーくんが笑いながら顔を見合わせた、その直後。
「うわあっ!? ぼ、僕は泳げない……!?」
「……えっ?」
「泳げないんすか!?」
クリフが水面をバシャバシャと叩きながら沈んでいく。
えっ?
待って。
マジで?
「やべっ! 溺れちゃった!」
「やばいっす! 早く助けないと!」
「クリフ! 落ち着け! 今助けるから!」
「ブクブクブク……!」
「沈んだぁー!」
慌てて水中へ手を突っ込んで、クリフの腕を掴む。
ケーシーくんも反対側から身体を支える。
だけど溺れている人ってこんなに暴れるの!?
助けようとしてるのに、手も足も無茶苦茶に振り回してくる。
「クリフ! 暴れないで!」
「カトルさん、足! 足が顔に!」
「あべしっ!?」
クリフの踵が顎に直撃して、思わず掴んでいた腕を離してしまう。
反対側で支えていたケーシーくんも耐えきれずに手を離すと、クリフはそのまま水の中へ沈んでいった。
「何があった!? モスキートか!?」
「……っ!」
背後から怒鳴り声。
振り返ると、エクレールさんが腰のバンカーに手を掛けながら全速力で駆けてきていた。
さっきまで木にもたれていたとは思えない速さだ。
護衛として来たっていうのは伊達じゃなかったらしい。
モスキートじゃありません。
完全に俺たちです。
「いや……その……」
「カトルさんが先にやろうって誘ったんすよ!」
「いやいや、ケーシーくんもさっきノリノリだったじゃん!」
「オレは止めた方がいいと思ってたっす!」
「嘘つけ! めちゃくちゃいい笑顔で頷いてたじゃん!」
「なんの話してやがる!」
そのとき。
ぷかぁー……
「……あっ」
「……クリフ?」
さっきまで暴れていたクリフが、仰向けになって水面へ浮かんできた。
動かない。
やばい。
エクレールさんの額に青筋が浮かぶ。
「テメェら……紛らわしい真似してんじゃねぇ!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 悪気は――」
エクレールさんがバンカーのアクセルを握った。
「歯ぁ食いしばれ!」
「ちょっと待って!」
「反省しやがれ!」
ズバァンッ!
バンカーが俺たちのすぐ横の水面を叩くと、その周囲へ白紫の雷が一気に走った。
バリバリバリバリッ!!
「ぎゃあああああああっ!!」
「し、痺れるっすぅぅぅぅ!!」
ガガガッと頭蓋骨の裏側まで凄まじい衝撃が突き抜けて、身体中の筋肉が勝手に跳ねる。
痛いっていうか、もはや熱い!?
昔、ゲーセンでやった電流イライラ棒なんて目じゃないぞ!
「アババババババッ!」
俺とケーシーくんの間から変な声。
そこでは浮かんでいたクリフまでビクンビクン震えていた。
口からは面白いように水がピュッピュッと飛び出ている。
しばらくして雷が収まって、俺たち3人は岸へ引き上げられた。
「けほっ……けほっ……」
「クリフ、大丈夫?」
「な、なんで……僕まで……」
「いやぁー、結果的に目が覚めてよかったじゃん」
「よくないです!」
「カトルさん、髪すごいことになってるっすよ」
「ケーシーくんもね」
お互いの頭を見る。
見事なアフロになっていた。
隣のクリフも同じ。
うん。
3人並ぶと、完全にドリフの雷様だ。
太鼓がないだけまだマシ……なのか?
「何やっとるん、兄さんら……」
「アホ」
リーナとブラが呆れた目を向けてくる。
ティアも腰に手を当てて頬を膨らませた。
「もう! せっかく遊びに来たのに、怪我したらダメでしょ!」
「ごもっともです」
「元はと言えばテメェらがふざけるからだ!」
「エクレールさんも十分ふざけた攻撃してませんでした?」
「ああん!?」
「なんでもありません!」
危ない危ない。
もう1発食らったら、今度こそ髪型が戻らなくなるかもしれない。
俺たちは大人しく捕まえた魚を持って、バーベキューの準備へ戻った。
大きな金網の上では、切った野菜や肉がジュウジュウと音を立て始めていた。
香ばしい匂いが煙と一緒に鼻へ入ってくる。
うん。
いい匂い。
湖で遊んで腹も減ってる。
テーブルの端には、小さな樽型のエールサーバーも置いてある。
もちろんジョッキも準備済み。
しかも、冷えたエールまで待っている。
さっきまで感電してたことなんて、すっかり頭から吹き飛んだ。
我ながら現金なもんだね。
「ケーシーくん、魚お願いしていい?」
「任せてくださいっす!」
ケーシーくんが袖をまくって、慣れた手つきで魚の鱗を取って腹を開いていく。
さすが料理人見習い。
包丁が魚の上を滑るたびに、あっという間に下処理が終わっていく。
「ティアも味付けする!」
「ティアちゃん、ちょっと待つっす! 何持ってるんすか!?」
「砂糖だよ?」
「魚に砂糖はかけないっす!」
「でも、甘い方がおいしくない?」
「塩で十分っす!」
ケーシーくんが慌てて砂糖を遠ざける。
うん。止めて正解。
あの弁当の黒い何かを思い出すと、ここはケーシーくんに任せた方がいい。
「もうっ!」
不満そうなティアには、皿とコップを並べてもらうことになった。
これで胃薬を飲まなくても良さそうだ。
「兄さん、これどこ置けばええ?」
「んっ?」
リーナに呼ばれて振り返る。
その足元には俺たちが持ってきた荷物。
背嚢の横には、鞘に収まった赤いバンカーが立て掛けてある。
普段使っているカブ改のくすんだ深緑色とは全然違うので、並べて見なくても別物だとわかる。
それを見たクリフが首を傾げた。
「カトルさん。今日はいつものカブじゃないんですね」
「ああ、これ? バルガスさんに借りてきたんだよ」
「借りた?」
「うん。昨日、依頼でカブ改を使ってたら途中から妙に調子が悪くなってさ」
「昨日?」
「帰りにバルガスさんのところへ持っていったら、エンジンがオーバーヒートしてるって言われた」
「壊れたん!?」
リーナが大きな声を上げる。
ブラまで赤いカブへ目を向けた。
「バンカーって、そんな簡単に壊れるもんなんすか?」
魚をさばいていたケーシーくんまで手を止めた。
「簡単に壊れるわけねぇだろ」
エクレールさんが木のそばから鼻を鳴らした。
「嘆きの滝であれだけ使ったんだ。今朝、工房に寄ったときも、バルガスの親父がよくここまで酷使したなってぼやいてたぞ」
「まぁー、あの状況じゃ使わないわけにもいかなかったですしね」
「……それはアタシもわかってる」
昨日の依頼でも最初は普通に動いていたから、まさか途中で止まるとは思っていなかった。
ところが途中からエンジン音にガラガラと変な音が混じり始めて、最後にはシェルを装填してスターターを引いてもエンジンが動かなくなったんだよね。
さすがにこれはまずいと思ってバルガスさんに見せに行ったら、見事に入院決定。
代わりに貸してくれたのが、この赤い普通のカブだ。
当然カブ改ほど無茶はできないけど、素手で森を歩き回るより何百倍もありがたい。
それにしても、いつも腰にあった物が変わるだけで妙に落ち着かない。
早く元気になって帰ってこいよ、カブ改。
「ただ、バルガスさんが言うには、原因はそれだけじゃないかもしれないらしくてさ」
「他にもあるんですか?」
「うん。俺のスキルも影響してる可能性があるんだって」
「んっ?」
リーナが目を丸くする。
「兄さん、収納スキル以外にもスキルあったん?」
「リーナ。スキルの詮索はマナー違反ですよ」
「あっ……せやった」
リーナが気まずそうに口を閉じる。
ああ、この世界だとそういう扱いなんだっけ。
考えてみれば、戦い方や能力に直結するものも多いんだから、勝手に根掘り葉掘り聞かれたくない人がいるのも当然か。
俺の場合は、あんまり秘密にしている意識がないんだけどね。
それに、背嚢の件はとっくに怪しまれてるし。
「あははは、別にいいよ。大したもんでもないし」
「ええん?」
「いいよいいよ」
魚に塩を振っているケーシーくんも、ティアたちも、なんとなくこっちへ視線を向けている。
エクレールさんは腕を組んだまま。
でも、しっかり聞いている顔だ。
「バルガスさんが関係あるかもって言ってたのは、『蚊遣り豚の本懐』ってスキル」
「……蚊遣り豚?」
クリフが聞き返す。
ほらね。
やっぱり名前で引っかかるじゃん。
初めてステータスで見た俺ですら「何これ?」ってなったんだから仕方ないけどさ。
「モスキートと戦ってるときに、攻撃力と守備力がほんの少し上がるんだよ」
「めっちゃええやん!」
「いいなぁー!」
「欲しい」
「それでも戦闘中に自動で強くなるなら十分すごいですよ」
「羨ましいっす!」
「いやいや、ほんの少しだぞ? どれくらい上がってるのかもわからないし」
「上がるだけええやん!」
「名前も微妙だしさ」
「名前は関係ないです」
クリフに即答された。
そうかなぁー。
蚊遣り豚の本懐だぞ?
初めて見たときなんて、完全にゴミスキル扱いしてたけどね。
だって、モスキートと戦ってるときだけ。
しかも「ほんの少し」。
ゲームだったら説明文を読んで、そのまま倉庫の奥へ放り込みそうな響きだ。
「……だからか」
ぼそりとエクレールさんが呟く。
「何がです?」
「パシャとやってたときだよ」
そう言って、大木から背中を離して俺を見る。
「テメェのカブが普通のやつと違うのはわかってた。それにしたって、あのときは妙に威力が出てやがったんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。特に最後の方だ。小シェル使ってたとはいえ、あそこまで出るかって思ってた」
「へぇー」
「自分のことだろうが!」
「いや、普通のカブ使ったことないから、実際どのくらい違うのかわからなくて」
「カトル、ティアとバンカー買いに行ったときはカブ改しか試してないもんね」
「そうそう」
カブ改は、小シェルを使えるようにエンジンをボアアップした改造品だ。
その分、普通のカブより攻撃力も最高出力も高くなっているらしい。
バルガスさんも、蚊遣り豚の本懐が関係している可能性はあると言っていた。
あの戦いで小シェルまで使って、機関を限界近くまで酷使したこと。
それに加えて、モスキート相手では俺自身の攻撃力も上がっていたこと。
そういうものが重なって、普段以上の負荷が機関に掛かった可能性がある――というのがバルガスさんの考えだった。
そもそも「ほんの少し」がどのくらいなのかもわからないし、スキルがどこまで関係しているのかまでは、バルガスさんも断定してなかったけどね。
「そういや兄さん」
「んっ?」
「いつもぎょうさん背嚢から荷物取り出しとるけど、アレもスキルなん?」
「だからリーナ!」
「いいっていいって。あれは過積載っていうスキル」
「過積載?」
「指定した積載器具の最大積載量が3倍になるんだよ」
「3倍!?」
「あっ……そういや昨日たまたまスキル見てたら、いつの間にか5倍になってたんだっけ」
「5倍!?」
「うん。なんでか知らないけど」
「やっぱりスキルやったん!」
「便利」
「どこが大したことないんですか!」
「そうかなぁ?」
5倍って言っても無限に入るわけじゃないからね。
異世界物でよくある、別空間へなんでもポンポン放り込める収納スキルと比べたら、そんなに大したものじゃない気がするんだけど。
まぁー、実際かなり助かってるんだけどね。
「……テメェ」
「はい?」
低い声。
エクレールさんを見ると、こめかみに青筋が浮かんでいた。
「やっぱりスキルだったのかよ! 試験中に聞いたとき、秘密とか言ってやがっただろ!」
「ああー、言いましたっけ?」
「言った!」
「いやぁー、あのときは試験中でしたし?」
「関係ねぇだろ!」
「あははは」
「笑って誤魔化すな!」
やっぱり覚えてたか。
あのときは、そもそも話す気がなかったんだから仕方ない。
「ちなみに、もう1個あるよ」
「まだあるん!?」
「観察眼っていうスキル」
「あっ! だからカトルさん、初めて見るモスキートでも名前とかカテゴリーがわかってたんですね!」
クリフが納得したように身を乗り出す。
「そうそう。対象を観察すると簡単なステータスが見えるんだよ。モスキートなら名前とかカテゴリーとか属性とかね」
「他にはどんなもんが見れるん?」
「人のステータスとか、アイテムとか、バンカーも見れるよ。ただ、わかるのは簡単な情報だけだけどね」
「マジ!? 兄さん、それ商人になれるやん!」
「あははは。でも、人とか他人の物は勝手に見ないようにしてるよ。自分だって勝手に覗かれたら気持ち悪いでしょ?」
「そりゃそうやなぁー」
「それも便利すぎますよ!」
「そう?」
「そうです!」
なんか全員から責められている気分になってきたぞ。
俺としては、どれも便利ではあるけど、そんなに羨ましがられるほどのものかなぁ?
「ってことは、兄さん今スキル3つ持っとるん?」
「今のところはね」
「普通は1つ持ってるだけでも十分すごいんですよ」
「へぇー、そうなんだ」
自分のことなのに、いまいち実感が湧かない。
その間にもケーシーくんが焼いてくれた魚から香ばしい匂いが漂い始めていた。
「そういや兄さん」
「今度は何?」
リーナが赤いカブへちらりと目を向ける。
「カブ改の修理代って、結構かかるんちゃうん?」
「ああー……見積もりは結構高かったよ」
まだ修理は終わってないけど、その見積もり額がカブ改を買ったときの値段を超えてたりする。
修理代の方が本体より高いって、なんか納得いかないよね。
「やっぱりなぁ。でも兄さん、こないだので結構稼いどったやろ?」
「まぁーね」
試験のあとにかなりの報酬が入ったことくらいは、みんなもう知っている。
そもそも今回の昇級試験は、途中から普通の試験どころじゃなくなってしまった。
試験中に倒したモスキートのドロップアイテムは、基本的に受験者のものになるらしい。
もちろんギルドの手数料は引かれるけど、残りは受験者の取り分になる。
ただし――
今回の戦いで大量のケンゲを倒したのは、俺1人じゃない。
むしろ数だけで言えば、エクレールさんの方が遥かに多かったくらいだ。
それなのに全部「試験中に出たから俺の物です」で受け取るのは、さすがに違う気がした。
直接半分渡そうとしても、エクレールさんならたぶん、
「いらねぇ」
の一言で終わる。
というわけで、クラリスさんへ相談。
売却分の半分相当を、ギルドを通してエクレールさんの試験官としての依頼料に上乗せしてもらった。
これなら俺が直接渡すわけじゃないし、ギルドからの支払いなら受け取ってもらえる。
我ながらいい作戦だったと思う。
ちなみにパシャ・ケンゲの素材は珍しかったので、いくつか売らずに手元へ残してある。
その一部を使って、新しい防具用のインナーを作ってもらう予定だ。
「だからまぁー、見積もり分を払っても困るほどじゃないよ」
「ならええけど」
リーナが納得したように頷く。
そこで横から低い声が飛んできた。
「……テメェ、余計なことしてねぇだろうな」
「なんのことでしょう?」
「目ぇ逸らすな」
怖い怖い。
この話は終了!
「よし! そろそろ食べられるっすよ!」
「待ってました!」
ケーシーくんの声に救われるように、俺はさっさとテーブルへ向かった。
次回は10月13日20時20分投稿です。
応援、お願いします。




