029 モグラ退治下となんとやら……
さっそく俺たちは依頼書に書かれていた村はずれのガジャイモ畑へきていた。
一面に広がる畑には見るも無惨に食い荒らされたイモが散乱している。
さらに地面には至るところに穴が空いていて、それらを繋ぐようにあちこち土が盛り上がっていた。
「思ってたより酷いね……」
ティアが表情を曇らせる。
「こら、めちゃくちゃやな……」
リーナも気の毒そうに辺りを見回す。
そんな惨状を横目に進んでいると、畑の真ん中に1人の男がぽつんと立っていた。
麦わら帽子にオーバーオール姿。
ヒゲ面の中年のおじさんだ。
「あそこに立ってるのが依頼人のカールさんかな?」
見た目だけなら、何処ぞのスナック菓子のおじさんそっくりだ。
おじさんは鍬を片手に持って、目を閉じたまま静かに佇んでいる。
……なんか考え事でもしてるのかな?
――と思った、その瞬間だった。
おじさんはカッと目を見開いた。
「キェェェェェェーー!! オラの畑がぁぁぁぁぁーー!!」
突然、鍬を振り回しながら奇声を上げ始めた。
「オラのガジャイモを食いやがってぇぇぇーー!!
今日こそミンチにして畑の肥やしにしてやるべぇぇぇーー!!」
「「「「「うわっ!?」」」」」
俺達は一斉に肩を跳ねさせた。
「す、すごいね……」
ティアが呟く。
「……めっちゃ怒っとる」
リーナが顔を引きつらせる。
「依頼主……ですよね?」
クリフがおそるおそる聞く。
「危険人物」
ブラがバッサリ。
うん。みんなの気持ちもよくわかる。
あれは完全にサイコパスだ。
しばらく俺達が見ていると奇声を上げ続けていたおじさんは、ぴたりと動きを止めて、ゆっくりと俺達の方を向いた。
目が合う。
その目は狂気に満ちている。
おじさんは鍬を担いだままこちらへ近付いてきて……にぱっと笑った。
「おおっ! 依頼を受けてきてくれただべか!? オラが依頼人のカールだべ!」
……えっ? 急に普通のおじさんになった。
「は、はい。ジャッフルの討伐にきました」
「よろしく頼むだべ! メッタメッタのギッタギッタのグチャグチャにしてくれだべ! ふっふっふっ……ふわははははは!!」
……やっぱり普通じゃなかった。
……選んだ依頼間違えたかな?
みんなもそう思ったのか、俺たちは顔を見合わせた。
俺は気を取り直して畑全体を見回す。
穴は思っていた以上に多い。
「ちょっとみんな手伝って。まずは穴が繋がってるか確認したいから畑の中に散らばってもらってもいい?」
ティア達はうなずくとそれぞれ別々の穴の前へ向かう。
「こんな感じ?」
「うん、そのままで」
俺も近くの穴の前へしゃがみ込むと、中へ向かって大きな声を張り上げた。
「おーい! 聞こえるかー!」
「カトルー! 聞こえるよー!」
穴を通してティアの声が聞こえてくると、続けてみんなの声も聞こえてきた。
やっぱり穴は地中で繋がってるみたいだな。
「よし。これなら上手くいきそうだ」
俺は立ち上がると、みんなを呼び寄せた。
「昨日も言ったけど、今日は俺のウェポンを使って試したいことがあるんだよね」
そう言って俺は意識を集中する。
光の粒が集まり、一匹のブタが姿を現した。
「これが俺のウェポンだよ」
「えっ!?」
リーナが目を丸くする。
「これがウェポンなん!?」
「ブタ……ですか?」
クリフも固まっている。
「煙出てる」
ブラが頷く。
ティアは興味深そうに蚊遣り豚を見つめていた。
「これが……カトルのウェポン……」
「そうそう。ほら、ここから煙が出てるでしょ?」
俺は蚊遣り豚を指差した。
「この煙って毒なんだ」
「「「「えぇっ!?」」」」
みんなが一斉に後ずさる。
「ちょっ!? そんな危ないもん出さんといて!」
リーナが慌てて叫ぶ。
「あははは、大丈夫大丈夫。モスキートにしか効かない麻痺毒だから、人には害はないよ」
「なんや、びっくりしたぁ……」
「作戦は簡単」
俺は畑を指差す。
「煙を穴の中へ流し込む」
「煙?」
ティアが首を傾げる。
「そう。ジャッフルは臭いに敏感なんだろ?」
「依頼書にもそう書いてあったね」
「だから煙が嫌なら、自分から出てくるんじゃないかと思って」
「なるほど。確かに理にかなっていますね」
クリフが納得したように頷く。
「みんなはそれぞれ穴の前で待機」
「出てきたら叩くだけやな?」
「そういうこと」
俺は蚊遣り豚を持ち上げる。
「名付けて! モグラ退治大作戦!」
一瞬の沈黙。
「名前まで付けとるんかい!」
リーナのツッコミが綺麗に決まった。
「いいのいいの。こういうのは勢いが大事だから」
「絶対そこちゃうやろ」
「それじゃあ、行くよ!」
「「「「おー!」」」」
みんなはそれぞれ穴の前へ散っていった。
俺は畑の中央付近へ蚊遣り豚を置いた。
蚊遣り豚の口から輪っか状の煙がゆっくりと吐き出される。
そして、その煙は風に流されることなく、まるで吸い込まれるように穴の中へ入っていった。
「おぉ……」
これは思ってた以上だ。
ちゃんと中へ流れてる。
リーナは腕を組んだまま、その様子を眺めていた。
「でもなー、そんなんでほんまに出てくるん?」
その瞬間だった。
ポコッ。
「きゃぁぁぁっ!!」
リーナの目の前の穴から、茶色いジャッフルが勢いよく飛び出した。
「うわっ!?」
驚きながらも、リーナは装備している鉄の爪を反射的に振る。
ドゴッ!!
ジャッフルはそのまま地面を転がって動かなくなった。
「ほ、ほんまに出た……」
ポコッ。
ポコッ。
ポコポコッ。
あちこちの穴から次々とジャッフルが飛び出してきた。
一斉にその場が騒がしくなる。
よし、狙い通り。
しかも煙の麻痺毒が効いているのか、飛び出してきた後の動きは鈍い。
さあ、モグラ叩きの始まりだ。
「でやあっ!」
ティアの声が響く。
飛び出してきたジャッフルをバンカーで斬り伏せる。
その横ではリーナも景気よく一匹を叩き飛ばす。
「これ、めっちゃ面白いやん!」
ブラも黙々とメイスで殴り飛ばしていく。
クリフも最初のうちは順調だった。
「よしっ!」
クリフが槍でジャッフルを突き貫く。
ところが……
ポコッ。
「また!?」
クリフの近くの穴から、またジャッフルが飛び出した。
ドゴッ!
だがそれで終わらない。
ジャッフルは次から次へと飛び出してくる。
ポコポコッポコッポコッ……
「ええーっ!? なんで僕のところにばっかり出てくるんですかー!?」
「クリフ、モグラに大モテやん!」
リーナが吹き出す。
「違いますって!」
クリフが叫びながら次々と叩き落とす。
そこへティアも駆け寄った。
「クリフ! 右!」
「はいっ!」
「次は左!」
「えぇっ!?」
俺も加勢しながら声を飛ばす。
「一匹ずつ片付けていこう!」
気づけば、俺が指示を出し、ティアが援護し、クリフが仕留める流れが出来上がっていた。
「ほんま全部クリフんとこやん!」
「僕が聞きたいですよ!」
「モグラホイホイ」
ブラがぽつりと呟く。
「なんですか!? モグラホイホイって!」
その後もクリフの近くの穴ばかりからジャッフルが飛び出し続けたが、みんなで協力して片っ端から片付けていく。
その横では、ピートンがドロップした魔核をせっせと拾い集めていた。
そうこうしているうちに、飛び出してくるジャッフルもまばらになってきた。
ポコッ。
「はあっ!」
クリフが槍で勢いよく突き貫く。
ジャッフルは光の粒となって消え、その場に魔核だけを残した。
「終わった……かな?」
「たぶん」
俺は辺りを見回した。
もう穴からジャッフルが飛び出してくる気配はない。
ふと、俺達の戦いを見守っていたカールさんが、ピートンの集めた魔核を数え始めた。
「10……20……30。さ、30個あるべ……」
一瞬、全員が固まる。
「えぇぇぇぇぇっ!?」
「30匹いますよ!?」
クリフが目を丸くする。
「こんなにいたんだ……」
ティアも驚いている。
「大漁」
ブラが短く呟いた。
カールさんは頭を掻きながら苦笑いした。
「オラ、10匹くらいだと思ってたべ……」
依頼書に書かれてたのは10匹だったのに、結果は30匹。
そりゃこんなにいたら畑も穴ボコだらけになるわ。
まぁー、これでこの畑も大丈夫だろう。
そう思った矢先だった。
突然、足元から鈍いしんどうが伝わってきた。
ゴゴゴゴゴゴッ……
「なんや!? なんやねん!」
ドォォン!!
直後、目の前の穴から大きなジャッフルが飛び出した。
今まで倒してきた奴の倍はありそうだ。
こいつがボシ・ジャッフルか。
「みんな退がって!」
俺は腰のポーチへ手を伸ばし、シェルを装填しようとするが、それよりも早くピンク色の影がものすごい勢いで真横を駆け抜けた。
「ブヒィィィッ!!」
ピートンの体当たりがボシ・ジャッフルへ炸裂。
ドゴォォン!!
ボシ・ジャッフルは地面を何度も跳ねながら吹き飛び、最後はぴくりとも動かなくなった。
「……はい?」
思わず間の抜けた声が漏れた。その直後、ガジャイモ畑にピートンの勝利の雄叫びが響き渡った。
その後、めちゃくちゃカールさんに感謝された俺達は、お礼にもらった大量のガジャイモをかつぎながら冒険者ギルドに向かって歩いていた。
ピートンも尻尾をぶるんぶるん振りながら歩いている。
……たまにかついでいるガジャイモをチラチラ見てるけど、もしかしてそれが目当てでついてきたのかな?
ガジャイモは背嚢に入り切らないくらい大漁にもらったし、ダヴィデ亭に帰ったらたくさん食べさせてあげよう。
「今日はピートンにおいしいとこ全部持ってかれたなぁ!」
リーナがニヤニヤしながらクリフを見る。
「僕も頑張ったんですけど……」
「いや、クリフもかなり助かったよ」
俺が笑うと、
「うん! クリフがいなかったら大変だったもん」
ティアも笑顔で頷いた。
「ティアさん……」
クリフが少し照れくさそうに笑う。
「モグラホイホイ」
ブラがぼそりと呟く。
「だから何なんですか!? それ!」
何はともあれ、モグラ退治大作戦は大成功。
ウェポンを試すこともできたし、ガジャイモもたくさんもらった。
文字通り収穫の多い一日だったな。
うん。満足、満足。
本日8月20日はワールドモスキートデーです。
蚊の予防対策には、こまめに汗を拭いて体温を下げると良いようです。
次回は本日午後8時20分の投稿です。
応援、お願いします。




