028 モグラ退治上となんとやら……
「どりゃあ!」
俺は一気に踏み込んで、火花を散らすカブ改を鎧人形へ振り下ろした。
刃が胴体へ食い込んだ瞬間、唸りを上げたエンジンが炸裂する。
ドゴォン!!
鎧人形は土台ごと宙を舞い、勢いそのままに訓練場の端まで吹っ飛んだ。
舞い上がった土煙を眺めながら、痺れた手を軽く振ると、少し離れた場所で見ていたバルガスさんが髭を撫でながら頷いた。
「ふむ。だいぶ様になってきたな。今日はここまでだ」
「ありがとうございました!」
俺はカブ改を鞘へ戻すと、吹っ飛ばした鎧人形を元の位置へ運び始めた。
カブ改を売ってもらってからというもの、毎朝ここへ通うのがすっかり日課になっていた。
まずはタイミングの合わせ方や踏み込み、反動の逃がし方なんかを叩き込まれて、最後はシェルを使った実践練習。
朝からみっちり身体を動かすのは気持ちいいし、カブ改もようやく身体に馴染んできた気がする。
「あっ、そうだ。バルガスさん」
「ああ?」
「昨日シェル使い切っちゃったんで、また売ってもらえます?」
バルガスさんの髭を撫でていた手が止まる。
「むっ? もう使い切ったのか? 昨日売ったばかりだろ」
「いやぁー、楽しくてついつい使いすぎちゃうんですよね」
「はぁー……」
バルガスさんは、心底呆れたようにため息を吐いた。
「お前も頭のネジが飛んでるイカれた冒険者だったか……」
「それって褒めて……」
「いない」
「ですよね」
「お前、その調子じゃすぐ財布が空になるぞ」
「ですよね。あははは」
まぁ、シェルが財布に優しくないのは事実なんですけどね。
極小シェル1発30ラグバ、小シェル1発50ラグバ。安宿なら1泊できるお値段である。
バンカーって、思ってた以上に金食い虫なんだよなぁ。
ちなみに朝練で使っているシェルは、正規品を作る過程で出る魔核カスを利用して、バルガスさんが作った練習用シェルらしい。
おかげで朝練の分はタダ。
ありがたやありがたや。
俺が代金を支払ってシェルを受け取っていると、店の方からいつもの怒鳴り声が聞こえてきた。
「カトル! 今日こそぶっ殺してやる!」
振り返ると、ハンスがすごい勢いでこちらに突っ込んでくる。
こいつ、本当に毎朝元気だな。
どうやらティアと仲が良いのが気に食わないらしい。
ハシュラファのお礼にティアがお弁当を作ってくれるようになってからは、さらに酷くなった。
まぁー、それを自慢したのは俺なんだけどね。
「うるさい!」
次の瞬間、バルガスさんが手に持っていたハンマーを放り投げた。
「そう何度も食らってたまるか!」
ハンスは背中に背負っていた盾をすかさず構える。
ガキィィン!!
飛んできたハンマーを見事に受け止めると、得意げに笑った。
「ハハハハハハ! 見たか、クソ親父! 俺だってちゃんと学習して――」
「……」
バルガスさんは何も言わず、どこからともなく馬鹿でかいハンマーを取り出した。
側面には大きく『教育用』と刻まれている。
「ちょっ――!?」
ブォン!!
ドゴォォン!!
ハンスは盾ごと工房の壁まで吹き飛ばされ、そのままズルズルと崩れ落ちた。
ピクリとも動かない。
うん。今日も平和だなぁ。
そんなわけで、朝練を終えた俺はバルガス工房を後にした。
すっかり歩き慣れたムルージュ村の通りを進みながら、ここ数日のことをぼんやり思い返す。
朝はバルガス工房で朝練。その後は冒険者ギルドで依頼を受けて、夜はベッチと酒を飲む。
気づけば、この生活にもすっかり馴染んでいた。
ブブカ茸を採ったり、キペンベを倒したり、雑務を手伝ったり。
昨日はケンゲ討伐へ行ったら、まさかボシ・ケンゲが2匹も出てくるとは思わなかったけど、おかげで冒険者としての生活にもすっかり慣れてきた気がする。
それに、この数日はウェポンもあれこれ試していた。
黒怪鳥の時は咄嗟に投げただけだったけど、あれこれ試しているうちに、ちょっと面白いことを思いついたんだよね。
今日はちょうど試せそうな依頼があったからティアたちと受ける予定だ。
さてさて、上手くいくかな。
「おっ、着いた着いた」
冒険者ギルドの前に到着する。
スイングドアを押し開けて中に入ると、ギルド内は朝から相変わらずの賑わいだった。
酒場スペースでは朝っぱらから酒を飲んでいる冒険者がいるし、掲示板の前では依頼書を見ながらあれこれ相談している冒険者たちもいる。
うん。今日も通常営業ですね。
「あっ、カトル!」
掲示板の近くにいたティアが、こちらに気づいて手を振った。
その側にはリーナ、クリフ、ブラの姿もある。
足元ではピートンが耳をピコピコ動かしていた。
「みんな、おはよう。ごめん、待った?」
「ううん! 私達も今来たところだよ」
「おはようさん」
「おはようございます」
「おはよう」
「ブヒッ」
「あれ? 今日はピートンもいるんだね」
「うん。なんかついてきちゃった」
「ブヒッ」
挨拶を済ませた俺達は、そのまま掲示板の前へ向かった。
「カトル、今日受けるのって昨日言ってた依頼だよね?」
「うん。残ってればだけど……」
難易度1の掲示板へ目を向ける。
「あったあった」
目的の依頼書は、昨日と変わらず貼られたままだった。
◆依頼名 ジャッフル討伐依頼
◆難易度 1
◆達成報酬 50ラグバ
◆エリア ムルージュ村近郊ガジャイモ畑
◆依頼主コメント
オラのイモ畑を食い荒らす憎きモグラどもを駆逐するべー!!
◆依頼詳細
ジャッフル10匹を討伐せよ。
カテゴリー1の地中棲モスキート。地中に巣を作り群れで生活する。臭いに敏感でガジャイモを好む。ボス個体『ボシ・ジャッフル』が生息する群れも確認されている。
よし。やっぱりこれだ。
臭いに敏感で、普段は地中暮らし。
試すには、これ以上ない相手だ。
「昨日言うとった、試したいことやな?」
リーナがニヤッと笑う。
「うん。上手くいくかは、やってみないとわかんないけどね」
「結局、何するの?」
ティアが不思議そうに首を傾げる。
「それは現地に着いてからのお楽しみ」
「また勿体ぶるぅー」
「いや、俺も半分くらい実験だから」
「実験なんですか……」
クリフが苦笑いを浮かべる。
まぁ、実験なのは間違いない。
成功する保証なんてどこにもないけど、試してみる価値は十分ある。
「それじゃ、この依頼で受付してもらおうか」
俺達は依頼書を持って受付カウンターへ向かった。
「クラリスさん、おはようございます」
「おはよう。あら? 今日はみんなで依頼を受けるのね」
「はい。この依頼でお願いします」
クラリスさんは依頼書に目を通すと、嬉しそうに微笑んだ。
「ジャッフルの討伐依頼ね。助かるわ。この依頼、ずっと塩漬けになっていたのよ」
「へぇー、そうなんですか」
なるほど。
地中暮らしの相手じゃ、普通に探すだけでも一苦労だ。
そりゃ、みんな敬遠するよな。
クラリスさんは俺達の冒険者タグを預かると、手早く手続きを済ませていく。
「そうそう。モネの森の立ち入り制限についてだけれど、ベスターからは聞いているかしら?」
「いえ、何も聞いてません」
「そうなの?」
「あははは。バカ話ばっかりしてるもんで……毎晩、すいません」
「飲み過ぎもほどほどにね」
「はい……」
クラリスさんの笑顔が優しい。
優しいんだけど、なんかほんの少し圧がある。
なんで俺まで緊張してるんだろ。
「モネの森の立ち入り制限は、3日後に解除することになったわ」
「おおっ、それじゃベンジョン草も取り放題ですね」
「フフッ、そうね。期待してるわ」
「はい。手続きは終わったわ。冒険者タグを返すわね」
クラリスさんから冒険者タグを受け取った、その時だった。
「おっ!? カトちゃん、これから依頼か?」
奥の扉からベッチがひょっこり顔を出した。
いや、ひょっこりって言うにはデカすぎるんだけどね。
壁が歩いてきたのかと思ったわ。
「おはよう、ベッチ」
「おう。今日は何の依頼だ?」
そう言いながら、ベッチはクラリスさんの手元にあった依頼書を覗き込んだ。
「ジャッフルか。面白そうだな。俺も行こうかな」
「「「「えっ!?」」」」
ティアたちが一斉に目を丸くする。
まぁ、そりゃそうだよね。
ギルドマスターが難易度1の依頼に付いてくるって言うんだから。
俺としてはちょっと見てみたい気もするけど。
白金等級がモグラ退治か。
畑をまるごと掘り起こしそうだ。
「ベスター」
「あっ……」
「ギルドマスターのお仕事は?」
「いや、その……」
「昨日も書類、全部残したままだったわよね?」
「……」
「誰がやるのかしら?」
「……俺です」
「そう」
ベッチは大きな肩を落として、受付の奥へ戻っていった。
ギルドマスターって、もっと威厳あるもんだと思ってたんだけどな。
「尻に敷かれとるなぁ……」
リーナが小声で呟く。
俺は思わず苦笑いした。
うん。
あれは完全に敷かれてるね。
しかも、かなり綺麗に。
こうして俺達はジャッフル討伐へ向けて出発した。
次回、8月20日はワールドモスキートデーということで、一挙3話投稿です!
時間は午前8時20分、午後8時20分、午後10時20分の投稿です。
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