025 依頼達成となんとやら……
日が暮れ始める前にムルージュ村へと到着した俺たちはその足で冒険者ギルドに来ていた。
屋根の上では、ドラゴンのようなモスキートを模した風見鶏が、風に合わせてカタカタと回っている。
俺は勢いよくスイングドアを押し開けた。
「バーン!」
うん。今日もスイングドアの立て付けは絶好調だ。
「うおっ!?」
目の前にいた男が慌てて飛び退く。
「あっ、ハゲ丸くんだ。」
「誰がハゲ丸くんだ!? ああん!?」
目の前には顔を真っ赤にしたハンスが立っていた。
「朝はテメェのせいで親父に殴られたじゃねぇか!」
「……」
俺は詰め寄ってくるハンスを無視してギルドの中へ足を踏み入れた。
「おい! 無視してんじゃねぇ!」
ハンスが怒鳴りながら追いかけてくる。
その瞬間、俺は振り返ってスイングドアを勢いよく押し開いた。
「バーン!」
「ぶごっ!?」
スイングドアがハンスの顔面に直撃した。
「て、てめぇ……! ぶっ殺す!」
「えいっ!」
「ふごっ!?」
俺は構うことなく、ハンスの顎を必殺の右フックで撃ち抜いた。
まともにくらったハンスは白目をむいて崩れ落ちる。
俺は気絶したハンスの足を掴むと、前回と同じ外廊下の隅っこまでズルズルと引きずっていく。
戻ってくると、リーナ達3人組は揃ってドン引きしていた。
「またやったん?」
「大丈夫大丈夫。バルガスさんから、うざ絡みしてきたら容赦なくやっちゃっていいって言われてるから」
「そ、そうなん……?」
「それにギルドの中で喧嘩しちゃダメなんでしょ? 今回はちゃんと外だから問題ないよ」
リーナ達は呆れたような顔をしていたけど、横ではティアがクスクス笑っていた。
そんなこんなで、俺は何事もなかったかのようにギルドの中へ入った。
ギルドの中は朝と比べるとかなり空いていた。
酒場スペースに冒険者が数組いるくらいで、受付カウンターにも余裕がある。
「じゃあ、あとでね」
「うん」
ティアと短く言葉を交わし、俺達はそれぞれ空いているカウンターへ向かった。
「あれっ? まだクラリスさんいないのか」
カウンターの奥を軽く見回してみたけど、クラリスさんの姿はない。
ふと朝の受付嬢さんの方を見ると、目が合った。
受付嬢さんはなんとも言えない苦笑いを浮かべている。
「依頼の納品をしたいんですけど」
「お、お疲れ様です。では冒険者タグをお預かりします」
受付嬢さんは営業スマイルを浮かべているけど、どこかぎこちない。
……まだ俺にビビってるのかな?
別に取って食ったりしないんだけどなぁ。
俺は気にせず冒険者タグを渡した。
受付嬢さんはそれを魔導板へ差し込む。
すると、魔導板の表面に受注している依頼内容が表示された。
「ラフムン肉10個の調達依頼ですね」
「はい」
「納品物はどちらにありますか?」
「ここにあります」
俺は背嚢をポンポンと叩いた。
「ラフムン肉10個……ですよね?」
「はい」
「かなりの量になると思うのですが……」
「えっ? この背嚢に入ってますけど」
受付嬢さんは少し訝しげな表情を浮かべたあと、カウンターの上へ大きなトレイを差し出した。
「では、こちらへお願いします」
「はい」
俺は背嚢に手を突っ込み、ラフムン肉を取り出していく。
1個。
2個。
3個。
4個。
5個。
ここまでは受付嬢さんも普通に見ていた。
6個。
7個。
8個。
「え……?」
受付嬢さんの表情が変わった。
9個目。
10個目。
「えっ……どうなって……」
受付嬢さんが小さく声を漏らす。
目の前にはラフムン肉が山積みになっていた。
受付嬢さんは肉の山と俺の背嚢を何度も見比べている。
ほら、ちゃんと入ってたじゃん。
俺は気にせず最後までトレイの上へ積み終えた。
1、2、3……よし、10個あるな。
まだあるけど、残りは干し肉にするのとドナテロさんへのお土産に取っておこう。
「こ、これ全部その中に入っていたんですか……?」
「はい。それとラフムンの他のドロップアイテムの買取もお願いします」
「えっ? あ、あのちょっと……」
受付嬢さんの返事を待たずに、俺は背嚢から素材を取り出し始めた。
20匹分なので、さすがに結構な量だ。
トレイやカウンターの上には、次々と素材が積み上がっていく。
「……」
受付嬢さんは完全に固まっていた。
んっ?
そんなに驚くことかな?
そう思っていると、隣のカウンターの方から視線を感じた。
「えっ? まだ入っとるん?」
リーナが目を丸くしている。
「あれって……」
クリフが呟く。
「収納スキル」
ブラが短く言った。
すると、リーナがティアの方を見る。
「ティア、知っとったん?」
「ううん……知らなかった……」
ティアも驚いたように首を振っていた。
もしかして収納系のスキルって珍しいのかな?
あちゃー、悪目立ちしちゃったか……
まぁー、いつかばれることだし、別にいいか。
近くにいた冒険者達も、いつの間にかこちらを見ていた。
ラフムン20匹分の素材が山積みになったカウンター。
固まったままの受付嬢さん。
そして、それを見ている冒険者達。
なんだか変な空気になってるけど、まぁー、買取はしてもらえるよな?
「あっ、ついでにハシュラファも討伐したので、ドロップアイテムの買取をお願いします」
「……はい?」
受付嬢さんが今度こそ完全に停止した。
俺は背嚢の中をガサガサと探る。
ハシュラファの素材は……っと。
逆鼈甲は防具に使えそうだから取っておくとして。
念のため普通の鼈甲と牙も1つずつ残しておこうかな。
あとは全部売っちゃっていいか。
俺は残りの素材をカウンターへ並べていった。
「す、すみません、少し手伝ってください!」
ようやく動き出した受付嬢さんが、近くにいた手の空いていそうな受付嬢さんへ声をかけた。
山積みになった素材を見た別の受付嬢さんも、慌てた様子でこちらへやって来る。
そこからカウンターの奥は急に慌ただしくなった。
素材の確認。
魔導板への入力。
重量測定。
鑑定作業。
受付嬢さん達が忙しそうに動き回っている。
ギルド内のざわつきもなかなか収まらない。
しかし、ラフムン20匹分にハシュラファ1匹分か。思ったより大漁だったなぁ。
というか、そもそもこの依頼って1人でやるもんなのかな?
ラフムン10個だけでも結構な量だし、みんなどうやって運んでるんだろう?
俺はそんなことを考えながら、しばらく暇そうに待っていると、少し疲れた顔をした受付嬢さんが戻ってきた。
「お、お待たせしました。ラフムン肉10個の調達依頼の報酬、ラフムン素材の買取、ハシュラファ素材の買取を合わせまして、こちらの金額になります」
◇アイテム買取金額
・土魔核極小×20 = 200ラグバ
・ラフムンの皮×18 = 180ラグバ
・ラフムンの冠角×10 = 150ラグバ
・ラフムンの厚皮×7 = 140ラグバ
・ラフムンの骨髄×5 = 150ラグバ
・ラフムン肉×10 = 200ラグバ
・土魔核小×1 = 50ラグバ
・ハシュラファの鼈甲×2 = 160ラグバ
・ハシュラファの牙×1 = 80ラグバ
・ハシュラファの尻尾×1 = 150ラグバ
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小計 1460ラグバ
手数料 -146ラグバ
合計 1314ラグバ
◇依頼達成報酬
・ラフムン肉調達依頼×1 = 40ラグバ
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小計 40ラグバ
手数料 -4ラグバ
合計 36ラグバ
◇支払い金額合計
1350ラグバ
提示された金額を見て、思わず頬が緩む。
おお、結構な金額になったな。
ほっ、これでしばらく宿代の心配はしなくて済みそうだ。
俺はホクホク顔で報酬の入った革袋を受け取った。
「ありがとうございます」
「は、はい……お疲れ様でした」
受付嬢さんはまだ少し呆然としていた。
まぁー、無事に納品も買取も終わったし、いいか。
俺は革袋をしまうと、ティア達の方へ向かった。
「お待たせ」
「なんか……いろいろすごかったね……」
「お兄さん、それ鉄等級の冒険者が1人で稼ぐ金額ちゃうやろ……」
「あはは、そうかなぁ」
ティア達はそれぞれなんとも言えない顔をしていた。
「それじゃ、せっかくだしダヴィデ亭で打ち上げしよっか。ラフムン肉もあるしさ」
そう言って俺は背嚢を軽く叩いた。
「うん! みんなもいいよね?」
ティアがリーナ達に振り返る。
「ええんか!? やったー!」
「楽しみです」
「お肉。お肉」
リーナ達も嬉しそうな声を上げる。
「いっぱいあるから気にしなくていいよ」
依頼も達成したし、思ったより稼げた。
それに、せっかく一緒に帰ってきたんだから、このまま解散するのも味気ない。
ドナテロさんならきっと美味しく料理してくれるだろう。
そう思いながら、俺はギルドを出ようと歩き始めた。
……と、その時だった。
カウンター奥の扉が勢いよく開いた。
思わず振り返ると、そこにいたのはクラリスさんだった。
「あれっ?」
その姿は、初日に見たドレス姿ではなく、軽装の鎧の上に外套を羽織った冒険者姿だった。
受付嬢だった時とは違って、凛とした雰囲気をまとっている。
クラリスさんは真っ直ぐこちらへ歩いてくると、柔らかく微笑んだ。
「あらっ? カトル、ずいぶんと冒険者らしくなったわね。よく似合ってるわ」
「あははは、そうですか? ありがとうございます。というか、クラリスさんもよく似合ってますよ」
「ふふっ、ありがとう」
そう言ったクラリスさんは、ティアの方へ視線を向けた。
「ティア、ちょっと外してもらえるかしら?」
「う、うん……」
ティアは少し不思議そうな顔をしたあと、小さく頷いた。
「あっ、ちょっと待って」
俺は背嚢の中からラフムン肉の入った袋を取り出すと、クリフに手招きした。
「これ、ダヴィデ亭まで持っていってくれる?」
「ぼ、僕ですか?」
「クラリスさんの話が終わったら俺も行くからさ。ドナテロさんに2つ渡して残りは料理してもらっといてよ。先に食べちゃってていいからさ」
「わ、わかりました。うわっ!? 重っ!」
クリフはよろけながらもラフムン肉の入った袋を受け取ると、大事そうに抱えた。
「それじゃカトル、先に行ってるね」
「うん。先行ってて」
リーナ達は軽く手を振ると、そのままスイングドアの向こうへと出ていった。
それを見送ったクラリスさんは、改めて俺へ視線を戻した。
「カトル、ごめんなさいね。少し確認したいことがあるの」
「確認ですか?」
「黒怪鳥についてよ」
次回は8月11日午前8時20分の投稿です。
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