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024 大当たりとなんとやら……

 耳の奥に残っていたエンジンの唸りが、少しずつ遠のいていく。

 吹き荒れていた熱風も収まり、岩場には焼けた砂と焦げた草の匂いだけが残っていた。

 俺は痺れの残る手でカブ改を握ったまま、ゆっくりと顔を上げた。

 砕けた甲羅の破片。

 抉れた地面。

 黒く焦げた岩肌。

 そして、その向こうに転がる動かなくなったハシュラファ。

 ……勝った。

 勝ったぞ。

「よっしゃあーー!!」

 思わず拳を突き上げる。

「わははははっ!! 見たか! このカメ野郎! ざまぁーみろ!!」

 俺の声が岩場に響き渡った。

 てか、バンカー最高すぎるだろ! いや最高のその先行っちゃってるよ!

 完全に最後のなんて必殺技じゃん! やべっ、脳汁めっちゃ出てる……!

 身体の奥を駆け回る興奮が、まだ収まりそうにない。

「カトル!」

 聞き慣れた声に、はっと我に返る。

「大丈夫!?」

 ……ティアだ。戻ってきちゃってたのか。

「ああ、大丈夫大丈夫。ほら、卵は無事だよ」

 俺は岩陰へ駆け寄ると、隠しておいた背嚢から卵を取り出した。

 よしよし、傷1つないぞ。

 それにしてもデカい卵だな。

 目玉焼きにでもしたら何人前になるんだろう?

「そこじゃないよ!」

 ティアが慌てたように声を上げる。

「カトルは大丈夫なの!?」

「んっ?」

「怪我してない? 痛いところない? 回復薬飲む?」

「あー、そっちね。全然、大丈夫だよ」

 そう言うと、ティアはようやく肩の力を抜いた。

「よかった……」

 胸に手を当てて、ほっと息を吐く。

 その顔を見る限り、本気で心配してくれていたらしい。

 そのまま逃げてもよかったのに、わざわざ戻ってきてくれたんだもんな。

 ここまで誰かに心配されるのって、なんだか久しぶりな気がする。

「でも、また助けてもらっちゃった……」

「助けたっていうか、俺が勝手に首突っ込んだだけだし」

「でも……」

「そもそも昨日バンカー買えてなかったら、こんなの倒せなかったよ」

 俺はカブ改を軽く持ち上げる。

「昨日いろいろ付き合ってくれただろ? これもティアのおかげだよ」

 ティアが少しだけ目を丸くした。

「でも……」

「だからそんな気にしなくていいって」

 しばらく黙っていたティアは、小さく頷いてから微笑んだ。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 その場に少しだけ穏やかな空気が流れる。

 ……と思った次の瞬間。

「いやいやいや!!」

 突然、横から大声が飛んできた。

 

「そんな場合ちゃうって!! お兄さん強すぎるやろ!?」

 とんがり帽子の女の子が勢いよく俺を指差していた。

 えーと、名前なんだっけ?

 朝聞いたんだけど、確かアリーナ……いや違うな。

 ああ、リーナだ。

 なんだ? 朝はめっちゃよそよそしかったのにグイグイくるな。

 というか、この世界にも関西弁ってあるんだな。

「そう?」

「そうやない!」

 リーナが全力でツッコむ。

「お兄さん、鉄等級なんやろ!? 鉄等級の冒険者が1人でハシュラファ倒すなんて聞いたことないわ!」

「普通は逃げます」

 眼鏡の男の子……クリフが冷静に言う。

「そもそも、鉄等級が1人で相手にするモスキートじゃないです」

「1人は聞かない」

 続けて、三つ編みの女の子……ブラがうなずく。

「いやー、でも結構骨が折れたぞ」

「どこがやねん!」

 リーナが再び叫ぶ。

 いやいや。

 実際かなり大変だったんだけどな。

 結局、最後はハシュラファが自滅したわけだし。

 そんな中、クリフの視線が俺の持っているカブ改へ向いた。

「それって……カブですよね?」

「そうだけど?」

「その割に、僕の知っているカブとはまるで威力が違うような……」

 おっと? メガネくん、キミもバンカーいける口かね?

 ふふん、それなら説明してあげようじゃないか。

「バルガスさんのところで買ったやつなんだけど、改造品でさ」

 俺はカブ改を軽く持ち上げる。

「ボアアップしてて小シェルまで使えるんだよね」

「そうなんですか?」

 クリフは驚いたように目を見開いた。

「それでも、あの威力は説明がつかないような……」

「最後のアレ、完全に爆発しとったやん!」

「普通じゃない」

 ブラも頷く。

「えっ? そうなの? ふーん……」

 言われてみれば、いくら小シェルが強いからって、せいぜい威力は極小シェルの1.5倍。

 それにしちゃあ、あの最後の一撃は強すぎる気がしないでもないな。

 んっ? 待てよ。

 そういや、ラフムンに極小シェルを使った時も威力が出てたな。

 てっきり、エンジンとタイミングが噛み合ってるからだと思ってたけど、それだけじゃ説明がつかなそうだ。

 もしかして、蚊遣り豚の本懐のおかげかな。

 モスキート相手だと攻撃力と防御力がほんの少し上がるって書いてあるし。

 どれくらい効いてるのかはわからないけど、今回もそのせいかもしれないな。

 まぁー、倒せたからいっか。

 

 そんなことを考えていると、ふいにハシュラファの身体が淡く光り始めた。

「あっ」

 ティアが声を上げる。

 巨体だったハシュラファの身体は少しずつ崩れ、光の粒へと変わっていく。

 無数の粒子がきらきらと宙を舞い、やがてその場には素材だけが残された。

「そういや、ドロップ確認しないとな」

 俺は観察眼を発動した。

 

◇名前 土魔核 小 ×1

◇レア度 2

 土属性の魔力を秘めた不思議な石。

 

◇名前 ハシュラファの鼈甲 ×3

◇レア度 2

 頑丈な甲羅の破片。

 

◇名前 ハシュラファの逆鼈甲 ×1

◇レア度 3

 めったに採れない腹甲。

 

◇名前 ハシュラファの牙 ×2

◇レア度 2

 岩をも砕く頑丈な牙。

 

◇名前 ハシュラファの尻尾 ×1

◇レア度 2

 滋養に優れた尻尾。

 

「おっ?」

 レア度3が混じってるじゃん。

 ハシュラファの逆鼈甲か。

 普通のはいかにも亀の甲羅って感じだけど、これは半透明の緑色でキレイだな。

 俺が逆鼈甲を日に透かして見ていると、小さな影がやってきた。

 んっ?

 ブラか。こうして見ると、ティアよりちっちゃいな。

「どうしたの?」

「逆鼈甲」

「ん? これ知ってるのか?」

「めったに落ちない」

「えっ、マジ?」

 リーナが驚く。

「初めて見ました」

 クリフも目を丸くしている。

「そんなに珍しいの?」

「うん」

 ブラは頷いた。

「かなり」

「いくらくらいするの?」

「わからない」

 少し考え込む。

「高いと思う」

 少し間を置いて。

「良い防具になる」

「防具か……」

 俺はインナーの少し煤けた袖を見た。

 うん。いいこと、思いついた。

「こりゃ当たりだな」

「大当たり」

 ブラはぐっと親指を立てた。

「おっし!」

 俺は素材を背嚢へしまいながら立ち上がる。

「暗くなる前に帰りますか!」

「うん!」

 ティアが元気よく頷く。

 三人組もそれに続いた。

 

 草原を吹き抜ける風が火照った身体に心地いい。

 ついさっきまであんな派手な戦いをしていたとは思えないほど、空は穏やかだった。

「でもお兄さんがおらんかったら、うちら終わっとったわ」

 リーナが苦笑する。

「本当に助かりました」

 クリフも頭を下げる。

「ありがとう」

 ブラも小さく呟いた。

 隣を見ると、ティアもどこか嬉しそうに笑っていた。

 楽しそうな声が風に流れていく。

 みんなが笑っているのを見ていると、ようやく肩の力が抜けていく。

 ……そういや、これギルドになんて報告するんだ?

 卵泥棒を助けようとしたらカテゴリー2を倒しました……とか?

 またクラリスさんに無茶するなって怒られるかなぁ……。

 そんなことを考えながら、俺はみんなと一緒にムルージュ村へ向かって歩き始めた。


次回は8月7日午前8時20分の投稿です。

応援、お願いします。

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