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022 卵泥棒となんとやら……

今回は途中でティアの一人称視点が入ります。

「おほほっ、うまそー!」

 魔導コンロの上でラフムン肉がジュウジュウと音を立てている。

 ここは草原の中で見つけた古い遺跡跡みたいな場所だ。

 とは言っても、転がっているのは崩れた石材や石柱くらいで、目ぼしい物は何もない。

 昼飯を食べるにはちょうどよかったので、ここで休ませてもらっている。

 

 あれから、俺はラフムンを狩りまくった。

 たぶん20匹近く狩ったんじゃないかな?

 途中、ラフムンの群れに囲まれたり、なかなかラフムン肉がドロップしなかったり、いろいろあったけどバンカーの練習にもなった。

 その結果、ラフムン肉14個ゲット。

 調達依頼は10個納品だから、ノルマも達成済みだ。

 ってなわけで、せっかく肉も多めに手に入ったので肉を焼いております。

 

「おっ? そろそろ、いい感じじゃないか? いただきます!」

 俺はこんがり焼けたラフムン肉にかぶりついた。

「うめーー!! なんじゃこりゃあーー!?」

 思わず声が出た。

 肉へ再びかぶりつく。

 ジュワッと溢れる肉汁。

 噛むたびに広がる旨味。

 香ばしい肉の香りにスパイスの風味が合わさる。

「ヤバい。止まらん」

 もう一口。

 さらにもう一口。

 気づけば夢中になって肉を頬張っていた。

「これ、ドナテロさんがくれたスパイスのおかげだな」

 そうして最後の一口を飲み込んでから満足げにうなずく。

「ごちそうさまでした」

 ふぅー。

 食った食った。

 腹をさすりながら立ち上がる。

 余った分は干し肉にでもするか。

 それとも何か別の食べ方もあるのかな?

 今度ドナテロさんに聞いてみよう。

 それに今日の依頼でいくらくらいになるんだろう?

 楽しみだなぁ。

 そんなことを考えながら片付けを始めた、その時だった。

「きゃああああっ!!」

「んっ?」

 俺は顔を上げた。

 今の悲鳴か?

 風に乗って聞こえてきたのは、どう考えても女の子の声だった。

 耳を澄ませる。

 すると――

「うわあああっ!!」

 今度は別の声。

「おいおい……」

 嫌な予感しかしない。

 絶対面倒事だろ。

 でもまぁー、聞いちゃった以上は放っておけない。

 俺は手早く荷物をまとめると、カブ改を担いだ。

「面倒事じゃありませんように」

 そんな願いはたぶん無駄だろうなと思いながら、悲鳴の聞こえた方角へ走り出した。

 

◆◆◆

 

「よかったぁ……」

 私は抱えていた卵を見ながら大きく息を吐いた。

 依頼達成だ。

 ハシュラファの卵を4個。

 依頼に必要なのは3個だから1個余っちゃうけど、ギルドで買い取ってもらえばいいよね。

 私達は卵を抱えながら、ハシュラファの巣穴を静かに進んでいた。

 出口まではあと少し。

 もう薄っすらと外の光も見えている。

 よかった。

 これでもう大丈夫そう。

 そんな風にホッとしていた。

「やったやん!」

 リーナが満面の笑みを浮かべる。

「うん」

 私も思わず笑顔になった。

 クリフもホッとしたように頷く。

「思ったより簡単だったな」

「うん」

 ブラも小さく頷いた。

 本当によかった。

 ハシュラファはぐっすり眠っていたし、ここまで来ればもう大丈夫だと思っていた。

 だから――

 油断していたんだ。

「なぁ!」

 その時だった。

 リーナが私の肩を掴む。

「やっぱティアもパーティー入ろうや!」

「あうっ」

 また始まった。

 リーナは会うたびに私をパーティーへ誘ってくる。

 リーナ、クリフ、ブラの3人で活動しているパーティー『聖なる故郷』。

 昔からの友達で、こうして時々一緒に依頼を受けることもあるんだけど……

「で、でも……」

「大丈夫やって!」

「でも私そんなに強くないし……」

「そんなん関係ないって!」

 リーナはニカッと笑う。

「ティアと一緒の方が絶対楽しいやん!」

 うぅ……

 そう言ってくれるのは嬉しい。

 嬉しいんだけど。

 でもやっぱり迷惑掛けちゃうかもしれないし……

「リーナ」

 クリフが呆れた顔になる。

「声大きい」

「え?」

「大きい」

 ブラも頷く。

「かなり」

「えー?」

 リーナは不満そうに頬を膨らませた。

 でも。

 本当に大きい。

 というか――

 今はまずい。

 すごくまずい。

 だってすぐ近くには――

 ピクリ。

 何かが動いた。

 私の背筋が凍る。

 全員の表情が固まった。

 ゆっくりと振り返る。

 そこにはゴツゴツした巨大な甲羅があった。

 六本の脚。

 二本の牙。

 そして――

 開いた瞳。

「うそ……」

 思わず声が漏れた。

 ハシュラファだ。

 眠っていたはずの親が、こちらを見ていた。

 私達の抱えている卵を。

 じっと。

 じっと。

 見ていた。

 嫌な沈黙が流れる。

 そして次の瞬間。

「グオオオオオオオオオオオッ!!」

 草原を揺るがす咆哮が響き渡った。

「に、逃げるよ!!」

 私が叫ぶより早く、みんな一斉に駆け出していた。

 

◆◆◆

 

「あっ!」

 聞き覚えのある声がした。

 俺は声のした方へ目を向ける。

 すると、草原の向こうからティアと新人冒険者3人組が全力で走ってくるのが見えた。

「ティア!?」

「カトル!?」

 ティアが目を丸くする。

 いやいやいや。

 こっちが驚いてるんだけど!?

 それよりも――

 俺はティア達の後ろへ視線を向けた。

「おおぅ……」

 思わず変な声が出た。

 デカい。

 とにかくデカい。

 ゴツゴツした巨大な甲羅。

 二本の牙。

 どう見ても普通の亀じゃない。

「なんだありゃ……ガメラか?」

 いや、ガメラって足6本もあったっけ?

 しかも、めちゃくちゃ速い。

 デカい亀がドドドドドッ!! と砂煙を巻き上げながら向かってくる。

「カトル! 逃げて!」

 ティアが叫ぶ。

「いやいや! それ俺が言う台詞だろ!?」

 とりあえず並走する。

 ティアも全力。

 俺も全力。

 後ろの亀も全力。

 何この状況。

「とりあえず逃げながら話せ!」

「う、うん!」

 俺は後ろを振り返りながら観察眼を発動した。

 

◇名前 ハシュラファ

◇識別 モスキート

◇脅威度 カテゴリー2

◇属性 土属性

 

「カテゴリー2ぃ!? 待て待て待て!

 ギルドの依頼書だと難易度1だったよな!?」

「う、うん!」

「なんでカテゴリー2に追いかけられてるんだよ!?」

「依頼自体は簡単なんだよ!

 寝てる間に卵を持って帰るだけだから!」

「あっ、それギルドで見たやつだ!

『罪悪感? そんなもん捨てちまえ! 卵泥棒求む!』

 とか書いてあったアレだ。

 じゃあなんで起きてんだ!?」

 全員の視線が1人へ集まった。

 とんがり帽子の女の子だった。

「えっ?」

「声」

 眼鏡の男の子が短く言う。

「大きい」

 三つ編みの女の子も頷いた。

「かなり」

「あっ……えへへ……いや、その……ごめんごめん……」

「お前かーい!!」

 思わず叫んでしまった。

 いやいやいや!

 完全にやらかしてるじゃないか!

「でも普通は起きへんねんで!?

 だってぐっすり寝とったし!」

「知らんがな!」

 そんなやり取りをしている間にもハシュラファはどんどん距離を詰めてくる。

 見た目だけなら完全に鈍重な亀なのに、六本脚で地面を叩くたびにドドドドドッ!! と地響きのような振動が足元から伝わってくる。

 見た目に反してかなり速い。

「まずいな……」

 このままだと普通に追いつかれる。

 ふと俺の視線がティアの抱えていた卵に止まる。

 

 だったら……!

「ティア!」

「な、何!?」

「それ貸せ!」

「えっ?」

 俺は返事を待たずにティアの卵をひったくった。

「あっ! カトル!?」

「ここは俺が引きつける!」

 卵を頭上へ掲げる。

 すると――

 ハシュラファの目がギラリと光った。

「おっ、やっぱりか」

 俺は卵を見せびらかすように振る。

「ほーらほーら! 欲しいんだろ!? この欲しがり屋さんめ!」

「グオオオオオオオオオッ!!」

「おおっ、食い付きがいいな!」

 ハシュラファがさらに速度を上げた。

 完全に俺を狙っている。

「よし!」

 俺は進路を変えた。

「先に帰ってろ!」

「ちょっ! カトル!」

「大丈夫だって!」

 そう言い残して全力疾走。

 ハシュラファも迷わず俺を追いかけてくる。

 後ろからティアの叫ぶ声が聞こえた。

「カトルー!!」

 俺は振り返らず手だけ振った。

 さて、まずはみんなから引き離さないとな。

次回は8月4日午前8時20分と午後20時20分の2回投稿です。

応援、お願いします。

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