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021 ラフムン狩りとなんとやら……

 見上げれば雲一つない青空が広がり、その下には風に揺れる草原が地平線の彼方まで続いている。

 遠くで揺れる草の波を眺めていると、世界の広さを嫌でも実感させられる。

 

 冒険者ギルドを出た俺は、依頼を受ける時に買った地図を片手にムルージュ大草原の南側へ向かっていた。

 ちなみにこの地図、お値段30ラグバ。

 広げてみれば、地図のほとんどがムルージュ大草原だった。

 唯一まともに描かれているのは東側のモネの森くらい。

 西には「バフル海」。

 南には「ルブアル砂漠」。

 北には「ハジャル連峰」。

 ……とだけ書いてある。

 いや、書いてあるってなんだよ。

 地形を描けよ。

 しかも目印も適当だ。

 木とか岩とか、そんなの草原中にあるだろ。

 その上、よくわからない印まで書かれているし。

 ちなみに今から向かうラフムンの生息地について受付嬢さんに聞いたら、

『この辺りです』

 そう言って指差された場所は、村から地図上で1ミリくらいしか離れていなかった。

 いや待て。

 俺の爪の方が長いんですけど?

「こんなので30ラグバもしたのかよ……」

 思わずため息が漏れる。

 ただでさえ昨日はカブ改やら何やらで財布が軽くなったばかりだ。

「本気で稼がないとヤバいな……」

 気分転換にステータスでも見てみるか。

 

◇名前 カトル

◇識別 人間

◇年齢 20歳

◇属性 か属性

◇職業 冒険者(鉄等級)

◇スキル

 ・観察眼

 ・過積載

 ・蚊遣り豚の本懐

◇ウェポン

 ・第1解放 蚊取り線香

◇装備

 ・カブ改

 ・樹甲獣(ジャダル)の革鎧

 ・水蜥蜴(ケンゲ)のインナー

 ・角犬(キペンベ)のグローブ

 ・砂翼魚(ライハ)の背嚢

 ・トレッキングシューズ

 

 ちなみに昨日手に入れた装備の詳細ステータスはこんな感じだ。

 

◇名前 樹甲獣(ジャダル)の革鎧

◇防御力 30

◇耐久力 38

 

◇名前 水蜥蜴(ケンゲ)のインナー

◇防御力 12

◇耐久力 25

 

◇名前 角犬(キペンベ)のグローブ

◇防御力 10

◇耐久力 20

 

◇名前 砂翼魚(ライハ)の背嚢

◇積載量 60kg

◇耐久力 35

 

 こうして見ると装備の素材になったモスキートの名前ばかりだな。

 ケンゲとキペンベは知ってるけど、ジャダルとライハってどんなモスキートなんだろう?

 まぁー、そのうち遭遇する機会もあるだろう。

 背嚢の積載量は過積載スキルの効果で3倍だから、180キロまでいけるな。

 これなら冷蔵庫と洗濯機だって一度に運べるんじゃないか?

 引っ越し屋さんで働いたらヒーローだろうな。

 そういや昔、ドラム式洗濯機を持ち上げようとしてぎっくり腰になったんだっけ。

 あの時このスキルがあったらなぁ……

 そんなことを考えながら歩いていると、遠くに何か大きな影が見えた。

「んっ?」

 俺は咄嗟に身を低くする。

 距離は200メートルほどあるだろうか。

 草原の中をゆっくりと移動している。

 数は3匹。

 ずんぐりとした胴体に太い尻尾。

 頭部には大きな骨質の頭飾りがあり、見た目はまるで草食恐竜そのものだ。

 とりあえず、観察眼で見てみよう。

 

◇名前 ラフムンA-C

◇識別 モスキート

◇脅威度 カテゴリー1

◇属性 土属性

 

 よし。ギルドの受付嬢さんが言っていたラフムンで間違いないな。

 ……っていうか、デカくね? 大きさだけなら普通にマイクロバスくらいあるんじゃないか?

 あれが突進してきたら普通に洒落にならんぞ。

 まぁー、だからって逃げるわけにはいかないんだよね。

「ふぅー、そんじゃ狩りを始めますか」

 

 俺は風向きを確認すると、草丈の高い場所を選びながらゆっくりと移動を始めた。

 ラフムン達は相変わらずのんびりしている。

 身を屈め、草陰から草陰へ。

 慎重に距離を詰めながら、時折足を止めて様子を窺う。

 やがて十分な距離まで近づいた。

 3匹ともまだこちらには気づいていない。

 よし。

 いける。

 俺は鞘のロックを外し、静かにカブ改を引き抜いた。

 陽光を受けた刀身が鈍く光る。

 深く息を吸い込み、ゆっくりと吐く。

 まずは1番小さいやつからだ。

 

 俺は地面を蹴った。

 ラフムンAが顔を上げる。

 だが遅い。

 跳び上がりざま、前脚の付け根へカブ改を振り抜く。

 ザシュッ!!

「グオッ!?」

 鋭い斬撃が前脚を切り裂いた。

 ラフムンAの巨体が大きく傾く。

 今だ。

 俺は着地と同時にさらに踏み込み、体勢を崩したラフムンの首元へ追撃を叩き込んだ。

 ザンッ!!

 鮮血が舞う。

 巨体が大きく揺れた。

 ドシンッ……。

 ラフムンAは膝を折り、そのままゆっくりと横倒しになる。

 ズズゥゥンッ!!

 重たい衝撃が草原を揺らした。

 踏み潰された草が四方へなぎ倒され、千切れた草葉が宙を舞う。

「よっしゃあ!」

 だが喜ぶ暇はない。

「グオオオオッ!!」

 残る2匹が怒り狂ったように突進してきた。

「温厚じゃなかったのかよ!?」

 ドドドドドドドッ!!

 地面を揺らしながら迫る巨体。

 思った以上に速い。

 俺は横へ飛んで回避。

 直後。

 ドゴォン!!

 頭を下げたラフムンの頭飾りが地面を深々と抉った。

 大量の土と草が弾け飛び、周囲へ降り注ぐ。

 衝撃で足元が揺れた。

「うおっ!?」

 今のまともにくらったら普通に死ぬだろ。

 カテゴリー1だからと舐めていた。

 しかも2匹。

 左右から挟み込むように動いてくる。

「くそっ!」

 俺は距離を取りながら斬りつける。

 だが浅い。

 斬れてはいる。

 だが、巨体のせいで決定打にならない。

 だったら――

「いっちょ試してみますか……」

 俺は後ろへ飛び退きながら極小シェルを弾倉へ叩き込み、そのままナックルガードのスターターを引いた。

 ガチャコンッ!!

 ドッドッドッドッ……

 剣背側のエンジンが震え始め、短いマフラーから熱気が吹き出す。

 ラフムン達は左右へ散開しながら突っ込んでくる。

 このままじゃ挟まれる。

 先に片方を潰す!

 俺はラフムンBへ向かって一気に駆け出した。

「グオオオオッ!!」

 ラフムンBも頭を下げ、地面を揺らしながら真正面から突っ込んでくる。

 草をなぎ倒しながら迫る巨体。

 だが、ここで退けばもう一匹に轢き潰されるだけだ。

 俺は走りながらアクセルレバーを握り込んだ。

 ボンッ!!

 シェルが炸裂し、エンジンが唸りを上げる。

 ブォォォンッ!!

 ドゴッドゴッドゴッドゴッ!!

 熱を帯びた排気が吹き荒れる。

 掌へ伝わる振動が一気に重くなった。

 迫る頭飾りも、跳ねる土も、流れ去る景色も意識の外へ追いやりながら、俺はエンジンの鼓動だけに意識を集中する。

 まだ早い。

 もう少し。

 あと少し――

 ドゴッ、ドゴッ、ドゴンッ!!

「くらえぇぇぇっ!!」

 踏み込みと同時に全身の力を叩き込み、カブ改を振り下ろした。

 ドゴォォォォンッ!!

 直撃と同時に短いマフラーから真っ赤な炎が噴き上がる。

 凄まじい反動が腕から肩へ突き抜け、思わず奥歯を噛み締めた。

 ラフムンBの頭飾りが砕け、続いて頭蓋ごと吹き飛ぶ。

 鮮血と肉片が周囲へ飛び散った。

 ガシャンッ!!

 弾き出された空シェルが転がり、雑草を焦がす。

 ラフムンBは二、三歩ほど惰性で進んだあと、首から上を失ったまま、巨木が倒れるように崩れ落ちた。

 ズズゥゥゥンッ!!

「おいおい……」

 ロマン砲、完全にオーバーキルだろ!?

「グォォ……」

 低い唸り声に顔を上げる。

 仲間の残骸を前に、ラフムンCが頭を下げたままジリジリと後退している。

「悪いな」

 俺はカブ改を構え直した。

「こっちも晩飯代がかかってるんでね」

「グオオオオッ!!」

 後退していたラフムンCが腹を括ったように咆哮を上げる。

 次の瞬間には地面を蹴り、最後の突進を仕掛けてきた。

 だが、もう見えている。

 横へ半歩。

 頭飾りを躱す。

 すれ違いざまに首筋へ一閃。

 ザシュッ!!

「グォッ!?」

 鮮血が散る。

 ラフムンCが苦しげに身体を捻る。

 そこへ追撃。

 前脚。

 肩口。

 首元。

 ザンッ!!

 ザシュッ!!

 ザッ!!

 巨体が揺れるたびに草がなぎ倒されていく。

 だが、もう最初の勢いはない。

 前脚が崩れる。

 身体が沈む。

 膝を折る。

 そして――

 ドォォォンッ!!

 最後のラフムンも草原へ倒れ伏した。

 その衝撃で周囲の草が波のように揺れる。

 しばらく痙攣していた尻尾もやがて動きを止めた。

 遅れて土と青草の匂いが鼻をつく。

 さっきまで響いていた咆哮も足音も、もう聞こえない。

 静まり返った草原に、自分の荒い呼吸だけが響いていた。

「よっしゃあ!!」

 肩で息をしながら立ち尽くしていると、

 ラフムン達の身体が光の粒になって崩れ始める。

 光が消えると、そこには幾つかのアイテムが転がっていた。

 

「おおっ!? マジで肉がドロップしたぞ!」

 とりあえず観察眼で見てみよう。

 

◇名前 ラフムンの肉 ×3

◇レア度 1

 新鮮なラフムンの肉

 

◇名前 土魔核(極小) ×3

◇レア度 1

 土属性の魔力を帯びた不思議な石。

 

◇名前 ラフムンの皮 ×2

◇レア度 1

 厚手の柔らかい皮

 

 ていうか、この肉デカくね? 一塊10キロはあるだろ。

 しかも、思いっきり生肉だし……

 うーん、持って帰るにしても、このまま背嚢に入れるのは嫌だな。

 あっ、そういや肩掛け袋にしてたボシ・ケンゲの水袋があったっけ。

「よっこらせっと……あった。あった。うんうん、いい感じじゃん」

 とりあえず肉は水袋に詰めて、皮と魔核は背嚢へ放り込んでおこう。

 それにしたって、依頼は肉10個納品だからあと7個か……

 いや、待てよ。

 この依頼って、過積載スキルがなかったら詰んでたんじゃないか?

 そういやあの受付嬢さん、なんかゴニョゴニョ言ってたような……

 まぁー、いいか。

「おしっ、次行きますか!」

 そうして俺は、ラフムンを探し求めて草原を進むのだった。


次回は7月31日午前8時20分の投稿です。

応援、お願いします。

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