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002 ステータスとなんとやら……

 あれっ? 真っ暗で何も見えないぞ……

 意識があるってことは、助かりはしたけど瓦礫に埋もれちゃってるのかな?

 なんだか身体の感覚が、蚊遣り豚の時とは違うような……

 

「ブヒブヒブヒ。ブヒブヒブヒブヒ……」

 んっ? 何か聞こえてきたぞ。これはブタの鳴き声かな?

 ……って、ま、まさか! 俺の鳴き声なのか!?

 今度は本物のブタにでもなっちゃったのか!?

 ああっ! なんてこったい! こんちくしょう!

 もしかして、死に際に茶々入れてきたあの陰険ぼっち野郎の仕業か!?

 そうだ……そうに決まってる!

 何が「達者でな」だよ!

 結局、ブタにするんだったら何に生まれ変わりたいかなんて期待持たせることを聞くんじゃねえよ!

 馬鹿にしやがって! 次に話しかけてきても絶対に返事してやらないからな!

 そんで、ご近所様から1人寂しくブツブツ言ってるヤバい人認定されればいいさ!

 ざまぁーみろ! わはははは!

 あれっ? ちょっと待てよ……

 もしブタになったなら、なんで何も見えないんだろう?

 あっ! まぶたを閉じたままでした。

 まぶたのデフォルトは閉じるだったのね。

 いやあ、20年もまぶたの開閉なんてしていなかったんで、忘れてましたよ……あははは。

 よーし、開けるぞー。開いちゃうぞー。えいっ!

 

「ベロベロベロベロ」

「うわっ! な、な、な、何だ!? 目に何か入ってきた!

 ああっ! 目が! 目が――!!」

 くそっ! 目が焼けるように痛いぞ!

 この昔から売ってるトイレ洗剤みたいな臭いのするヌルヌルは何なんだ!?

 今すぐ目ん玉をほじくり出して丸洗いしたいくらいだ!

 ……って、あれっ? 今、俺の声、出てなかった……?

 それに、これは人間の手だ……

 というか、人間の身体だ……

 服は熊に襲われた時に着てたやつだ……

「俺、人間に戻れたのか……?」

「よっしゃ――!! 人間に戻ったぞ――!!」

 やべっ、涙が込み上げてきた……

 俺、もう蚊遣り豚じゃないんだ……

 思えば、幸せそうに談笑する妻と子供達の傍で、素っ裸の四つん這いになりながら、口の中に蚊取り線香をぶち込まれ続けた過酷な日々。

 幾度となく繰り返される羞恥プレイに、人としての尊厳はガリガリと削られ、時には新たな快感に目覚めそうに……じゃなくて、時には心折れそうにもなりました。

 それでも、愛する家族を守りたいという一心で、必死に蚊取り線香の煙を吐き続けました。

 お父さん、頑張ったよね……?

 お父さん、人間に戻れたよ……

 

 おっと、ついつい感傷に浸ってしまった。

 そうだ。念のため、ちゃんと人間に戻れてるか確認しておこう。

 これで実はオークだったら、シャレにならないからね。

 よーし、せっかくだし、声出しも兼ねてやってみよう。

「髪の毛良し! 鼻良し! 耳良し! 腕良し! 胴体良し! 足良し! 

 最後にアソコ……あれっ? ちらほら生えてた白髪が無くなってるぞ?

 それに相棒のジョンも、なんかこう元気になってるような……。

 ま、まぁー、アソコ良ーし!」

 目視と触診だけだけど問題は無さそうだ。

 むしろ、蚊遣り豚になる前の人間だった時と比べても、若返ってる感じがするぞ。

 とりあえず、さっき疑っちゃったあの方には謝っておこうっと。

 もしかしたら、また話しかけてくるかもしれないしね。

「先程は陰険ぼっち野郎だなんて思ってしまい本当に申し訳ありませんでした。また話をする機会がありましたら話し相手になってあげるので、どうかお許しくださいませ」

 よーし、こんなもんでいいだろう。

 それなりに心も込めたし、俺の誠意は伝わったよね。

 ああ、声が出るって幸せなことなんだな。

 ありがたや、ありがたや。

 そういや嬉しさの余り忘れてたけど、このヌルヌルは何なんだろう?

 

「ブヒブヒブヒ」

「うわっ!? 後ろに何かいた! ……って、ウサギ? ……いや、ブタ、かな?」

 ウサギみたいな長い耳とまんまる尻尾が生えてるブタなんて初めて見たぞ。

 なんだか愛嬌のある顔だな。

 駄菓子屋とかで売ってるラーメンのマスコットキャラがこんな感じの顔してなかったっけ?

 すごい勢いでその辺の草を食べてるけど、ほとんど口から溢れているが、まるで芝刈り機みたいだ。

「ブヒッ!? フゴッ、フゴッ、フゴッ! ブヒッ!? ブヒブヒブヒッ!」

 あっ、むせたぞ。大丈夫かな?

 ププッ、両方の鼻の穴から草が飛び出して焦ってる。

 可哀想だから取ってあげよう。

「取ってあげるからこっちにおいで……。よーし、良い子だ。ほらっ、取れた。あんまり急いで食べるんじゃないぞ」

「ブヒブヒブヒ」

「お礼を言ってるのかな? 耳でもお辞儀しているみたいだ。いえいえ、どういたしまして」

 随分と賢いブタさんだな。

 でも人間に戻って一番最初に出会ったのがブタってのは、類は友を呼ぶってこと?

 いやいや、強いて言うなら、類は信楽(しがらき)焼のたぬきさんだからね。

 というか、ブタさんの口からトイレ洗剤の臭いがするんだけど、さてはさっきのヌルヌルはコイツの仕業だな。

「ベロベロベロ」

「こらこら、性懲りもなく人の顔を舐めようとするんじゃありません。次に目ん玉舐めたら焼肉にして食べちゃうぞ?」

「ブヒィッ!?」

「あははは、そんなビビらんでも半分冗談だよ。おっ? ブタさん、お洒落な首輪付けてるじゃん。お肉に埋もれちゃって気づかなかったよ。どれどれ、恥ずかしがらないでおじさんに見せてごらん」

 首輪は何本かの革紐を編み込んで作られているみたいだ。

 残念ながら名前の分かる物は付いてないな。

 周りに飼い主は見当たらないし、どこかから逃げてきたのかな?

 まぁー、今は大人しく草食べてるから放っておこう。

 そのうち、飼い主が探しに来るかもしれないしね。

 

 それはそうと、ここはどこだろう……?

 森の中だとは思うんだけど、こんな樹齢何百年も経ってそうな大きな木がそこら中に生えてる場所なんて、住んでた田舎にはなかったぞ。

 もしかして、どこか遠くに飛ばされちゃったのかな?

 いや、待てよ。火事に巻き込まれて死んだとしたら天国や地獄の可能性だってあるし、そんなこと言ったら異世界だってあり得るわけで……

 

 うーん、考えてもわからないものはわからないし、まずはこういう時のお約束ってことでアレを試してみよう。

 まぁー、蚊遣り豚になった時は何も起こらなかったんだけどね。

「ステータスオープン! ……おおっ! マジか!? 視界の隅に半透明のウィンドウが表示されたぞ!」

 ダメ元だったのに、まさか本当に見えるなんて、何でも試してみるもんだな。

 そんじゃ、もうちょい試してみるか。

 ステータスクローズ。ステータスオープン。状態を閉じる。状態を開く。

 なるほど、ステータスの表示と非表示はわざわざ声に出さなくても、それっぽいフレーズを念じるだけでいいみたいだ。

 何はともあれ、まずはステータスの確認からだな。

 もしかしたら、何か役立つ情報があるかもしれないしね。

 えーと、なになに……

 

◇名前 カトル

◇識別 人間

◇年齢 28歳(調整中)

◇属性 か属性

◇職業 無職

◇スキル

 ・観察眼

 ・過積載

 ・蚊遣り豚の本懐

◇ウェポン

 ・第1解放 蚊取り線香

◇装備

 ・ダウンベスト

 ・トレーナー

 ・ジーンズ

 ・革のベルト

 ・トレッキングシューズ

 

 ふむふむ、ざっと見た感じだとHPやMPとかの身体能力系統のパラメーターは無いみたいだけど、なんかツッコミどころ満載のステータスだな。

 まずは名前がカトルって、誰やねん!?

 サンドロックか!? 俺はサンドロックに乗ってるお坊ちゃんなのか!?

 そんな間違いされたら闇落ちからのツインバスターライフルぶっ放しちゃうぞ!

 違うだろ!

 俺には香取千高(かとりちたか)っていう立派な名前があるんだよ!

 間違えてんじゃねぇよ!

 それに識別が人間なのは嬉しいけど、年齢が28歳調整中って何やねん!?

 えっ!? 今、年齢が27歳に変わっちゃったんですけど!?

 めちゃくちゃ怖いんだけど、これって大丈夫だよね!?

 このまま若返りまくって胎児になって死んじゃうとか、何処ぞのベンジャミンさんみたいな数奇な人生なんて送りたくないんですけど!

 ふう、落ち着け、俺。

 こんな調子で脳内ツッコミ入れてたら身がもたないぞ。

 ここは深呼吸だ。

「すぅーー、はぁーー、すぅーー、はぁーー」

 よしっ、少し落ち着いたぞ。

 年齢は気になるけど今は、ステータスの確認を進めよう。

 

 次は属性だな。

 うんうん、か属性、か属性ね……

 あのー、か属性って何ですか?

 これは漢字変換し忘れちゃったのかな?

 さすがにこれって火属性の間違いだよね?

 大丈夫だよ。誰しもミスはするもんだ。

 大切なのはミスをした後のリカバリーだからね。

 すぐに修正してね? ……つーか、今すぐ直せ!

 ああもう。次、次。次は職業か。

 これは実際に20年も蚊遣り豚やってて無職だったわけだから、問題はなしっと。

 それでも、こうやって明示されると心に刺さるモノがあるな……

 いやいや、何を気にする必要があるんだ?

 無職=すっぴん=最強っていうのが俺たち世代の共通認識だったはずだ。

 二刀流からの乱れ打ちなんてめちゃくちゃ強かったもんな。

 VIVA無職! 堂々と胸を張っていこうじゃないか!

「ブヒブヒブヒ。ブヒブヒ」

「おっと、ブタさんはもう少しあっちで草でも食べておいで。」

 えーと、次はスキルだな。

 なんか微妙な名前のスキルが混じってるな……

 おっ? スキルを見てたら何か文章が表示されたぞ。

 

◇スキル

・観察眼

 対象物を観察することで、その簡易ステータスを確認できる。

・過積載

 指定した積載器具の最大積載量が3倍になる。

・蚊遣り豚の本懐

 モスキートとの戦闘時に攻撃力と守備力がほんの少し上がる。

 

 表示された文章はスキルの説明みたいだけど、随分と雑な説明だな。

 観察眼も過積載も、異世界モノでよく登場する鑑定スキルや収納スキルの劣化版って感じかな。

 まぁー、このふたつはたとえ劣化版だとしても、きっと役に立ってくれるだろう。合格だ。

 問題は、残りの1つだ。

 蚊遣り豚の本懐は名前からして期待してなかったよ。

 これっぽっちも期待してなかったさ……

 してなかったけど、予想通りのゴミスキルだよ。

 これって、ひどくない?

 モスキートって格好良く書いたところで、所詮それって蚊じゃん。

 何が悲しくて蚊と戦う時にパワーアップせにゃならんのだ? しかもほんの少しって……

 そりゃ寝てる時とかに耳元でプーンとかされるとブチ切れそうになるけど、そんなもんパワーアップしなくても何とかなるじゃん。

 もうさあ、ついでだから言っちゃうけど、この次のウェポンとかいう項目でも蚊取り線香とか書いてあるの知ってるんだよね。

 ウェポンが何かは知らんけど、絶対ショボいじゃん。

 おじさん、ツッコミするのが疲れちゃったよ……

 ああ、ブタさん見てると心が癒やされるなあ。

 そうだ。せっかくブタさんもいることだし、ゴミスキルなんか忘れて観察眼を試させてもらおう。

 どれどれ、ブタさんのステータスはどんなもんかな……

 

◇名前 ピートン 《ウサミミブタ》

◇識別 家畜動物

◇脅威度 カテゴリー1

◇属性 土属性

 

 なるほど、自分のステータスと同じように半透明のウィンドウが表示されたぞ。

 簡易ステータスだけに項目はかなり少ないな。

 ブタさんの名前はピートンでいいのかな?

 山カッコの中は動物としての名称だと思うんだけど、きっと誰が名付けてもこうなるんだろうな。

 だって、そのまんまだもん。

 うーん、ピートン、ピートンかぁ……

 なんか焼肉のピートロみたいで美味そうな名前だなな。

 俺、腹減ってきたぞ。ああ、焼肉食いてぇー。

 ダメだ。ブタさん改めピートンが耳の生えた焼肉に見えてきた……

 ハッ!?イカン、今はピートンのステータスを見てたんだった。

 えーと、家畜なのは首輪で気づいてたからいいとして、脅威度って何だ?

 強さを示す指標みたいなもんかな?

 カテゴリー1ってことはそんなに強くはなさそうだ。

 最後は属性か。

 動物にも属性があるんだな。

 土属性があるってことはやっぱり火属性もあるってわけで、そろそろ俺の属性も修正されて……ないな。

 っていうか、いつの間にか年齢が23歳になってるんだけど、いつまで調整中なんですかー?

 あんまりナメた真似してるとぶっ飛ばしちゃうぞ?

 うーん、気のせいかな?

 蚊遣り豚だった時に比べて少し思考がヤンチャになってる感じがするんだけど、これは年齢が若返ってるのに関係してるのかな?

 まぁーいいや。仕事のできない奴は放っておいて、続きだ。続き。

 もう少し観察眼を試してみよう。

 そうだ。ピートンの食べてる草を観察してみよう。

 

◇名前 ベンジョン草

◇レア度 2

 食べると少しだけ怪我が治る。

 

 実にふざけた名前だ。

 でもこの昔から売ってるトイレ洗剤にそっくりな臭いからして、これ以上ないくらいにピッタリな名前だ。

 おっ? レア度なんて、いよいよ異世界ファンタジーって感じだな。

 しかも、ふざけた名前のクセにレア度は1じゃないのか?

 とてもそのまま食べる気にはなれないけど、怪我が治るっていうならせっかくだし何本か採っておこう。

「よっこらせっと。おっ? 案外、簡単に根っこごと引っこ抜けるぞ。ほいっ、ほいっ、ほいっほいっ……。よーし、こんなもんでいいだろう」

 確か、ダウンベストの内ポケットに折りたたみ式のエコバッグを入れておいたはず……あれっ? いつも入れてあったはずなのに無いぞ。

 というか、今さらだけど服と靴以外は何も持ってないや。参ったな……

 仕方ない。ベンジョン草は茎でまとめてベルトに引っかけておこう。

 これで良し。

 

 ……あれっ? やけに静かだな。そういや、さっきまでそこら辺にいたはずのピートンが見当たらないぞ。薬草採取に夢中になってて、いなくなったのに気づかなかった。どこに行ったんだろう……?

「ブヒィ――!!」

「今のはピートンの鳴き声か!?」

 鳴き方からしてただ事じゃない。

 鳴き声は向こうから聞こえたぞ……

 何かあったら大変だ。行ってみよう!


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