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016 バンカーとなんとやら……

「面白ぇ」

 バルガスさんはそう呟くと、口元を吊り上げながら腕を組んだ。

 その目は、さっきまでの「客を見る職人」の目ではなく、何か面白い玩具でも見つけた子供みたいな、そんな好奇心に満ちた目へと変わっている。

 

 うん、なんだろう……

 急に嫌な予感がしてきたぞ。

「趣味で剣を振ってただけの奴が、そんな止め方をするか」

「いや、本当に趣味ですよ?」

「ティア、お前こいつが何やってたか聞いてるか?」

「ううん。『アッチ』にいた時は山菜採ってたってことしか聞いてない。でもティアを助けてくれた時はあっという間にキペンベの群れを蹴散らしちゃったんだよ」

「ほう……そのキペンベをやった時は何を使ってたんだ?」

「キペンベをやった時ですか? えーと、その時は……」

 俺は訓練場の隅に置いてあった肩掛け袋からボシ・ケンゲの雑刀を取り出すと、バルガスさんに見せた。

「……ボシ・ケンゲの爪か。こんなもんでキペンベをやったのか?」

「はい」

「このボシ・ケンゲの爪はどうやって手に入れた?」

「それは木の棒で殴って倒しました」

「……!? 木の棒だと!?」

「はい。こうガツンと。あれっ?ティア、そんな顔してどうしたの?」

「……」

 うっ……、なんかまずかったのかな? ティアさん、そんな目で人を見てはいけないよ。おじさん、傷ついちゃうからね?

「ウェポン……いや、スキル持ちか?」

「ええ、まぁー大したもんじゃないですけど、どっちもありますね」

 バルガスさんは顎髭を撫でながら、改めて俺を観察し始めた。

 いや、そんなに見られても困るんですけど。

 こちとら、つい昨日まで蚊遣り豚してた若者の皮をかぶってる普通のおっさんですよ?

 

「まあいい。だが、剣の扱いがわかってるのは確かだな」

「それじゃ、俺にバンカー売ってもらえますか?」

「焦るな。剣が振れるのと、バンカーを扱えるのは別だ。それに属性も見なきゃならん」

「属性ですか?」

「ああ。お前の属性は何だ?」

 おっと、ここは火属性でいいよな?

 いまだにステータスは『か属性』のままだけど、少なくとも魔導板は火属性になっていたしね。

「火属性です」

「なら、まずは火属性のバンカーだな」

「自分の属性と同じものを使う方が良いんですか?」

「基本はな。違う属性でも動きはするが、相性が悪くなるほど出力は落ちる。せっかくのバンカーも、扱い手と噛み合わなきゃ高い鉄クズだ。バンカーを取ってくるから少し待っていろ」

「なるほど……」

 やっぱり、属性って大事なんだな。

 属性の相性についてはクラリスさんも言ってたな。

 確か、月 < 火 < 水 < 雷 < 風 < 土 < 月 …… だったかな。

 

 ・月は土に強くて、火に弱い。

 ・火は月に強くて、水に弱い。

 ・水は火に強くて、雷に弱い。

 ・雷は水に強くて、風に弱い。

 ・風は雷に強くて、土に弱い。

 ・土は風に強くて、月に弱い。

 

 なんかゲームとかでよくある属性相性みたいだったから覚えやすかったんだよね。

 魔導具の場合は体内魔力を着火剤代わりにしてるから相性次第でたまに動作しなかったり、性能が悪くなったりすることがあるって言ってたけど、バンカーも同じなんだな。

「ティアも自分と同じ属性のバンカーを使ってるの?」

「ティ、ティアの? ティアのバンカーは……雷属性だよ。ほ、ほらっ、バルガスさんがバンカー持ってきたよ!」

 んっ? なんか聞いちゃダメだったのかな?

 あれっ?そういやティアって、キペンベに襲われていた時に見たステータスだと、水属性じゃなかったっけ?

 だとすると、雷属性との相性は最悪なんじゃないか?

 何か事情がありそうだけど、今はいいか……

 

「これを持て」

 そう言って、戻ってきたバルガスさんが差し出したのは、さっき店の中のカウンターで見せてくれたくすんだ深緑色の鞘に収められたバンカーと同じものだった。

 おおっ、また君か!? なんか君とは運命を感じるなー!

 さっきはゴツさが足りないなんて言っちゃったけど、ゴツさにもゴリとかボス猿とか、いろんなゴツさの形があるからね?君のゴツさは唯一無二だよ。安心して俺のところにおいで!

「そんなに嬉しそうな顔をするな」

「いやー、ようやく触れると思ったら、嬉しくて、嬉しくて! それて、店の中で見せてくれたバンカーですよね?」

「んっ? ああ、型は同じだが、こいつは試し振り用だ。名前は『火属性4ストロークSOHC2バルブ単気筒49cc長剣型』だ。略して、『カブ』という」

 えっ……? ええーっ!? なんか俺が昔乗ってた原チャリみたいな名前来たーー!!

 もう完全にやってんじゃん! ほぼほぼ原チャリのエンジンの構造名じゃん!

 そもそも略してとか言ってるけど、どこをどう略したら『カブ』になるんだ!?

 まさか、火の武器だから『カブ』って訳じゃないよね!。

「あ、あの、その4ストロークSOHC2バルブ単気筒って…」

「それはこのバンカーに組み込んである魔導燃焼機関の構造名だ。ちなみにバンカーの魔導燃焼機関は『エンジン』ともいう」

「エンジン!? い、いや、そのずいぶんと変わった名前だなぁーと思いまして。ほ、ほらっ、由来とか……」

「大昔にバンカーを開発したドワーフ達が決めたらしいが、詳しくは知らん」

「そうですか……」

 そのドワーフって、絶対元の世界の人じゃん!

 もしかして、あの有名な本田さんとかじゃないよね!?

 ふぅー、落ち着け。落ち着くんだ。今はバンカーに集中しよう……

 

「どうした? 早く受け取れ」

「は、はい! おわっ!? ……重たっ!」

 思わず取り落としそうになる。

 いや、何これ!?

 見た目の倍くらい重くない!?

「ふん。普通の剣と同じ感覚で持つとそうなる」

「これ、何キロくらいあるんですか?」

「4キロちょいだ」

「えっ!?」

「長剣バンカーの中じゃ軽い方だぞ」

 軽い方!?

 いやいやいや! さっきの模造バンカーの倍はあるんですけど!?

 というか、そりゃこんなもん振り回してたら異世界人ムキムキになるわ!

「カトル、大丈夫?」

「だ、大丈夫……。たぶん……」

「鞘からぬいてみろ。そこのガードにある留め金を外せば抜ける」

「はい」

 言われた通りにガードと呼ばれた鍔部分の留め金を外し、ゆっくりと剣身を引き抜く。

 刃渡りは2尺4寸。大体70センチちょいはあるだろうか。

 分厚い片刃の剣身は全体的に黒く、鋭く研がれた刃だけが銀灰色に鈍く光っている。

 そして、剣背の半ばから鍔(つば)にかけては小型のエンジンが組み込まれており、その側面からはまるでマフラーみたいな短い金属製のパイプが剣先方向へと突き出している。

 柄全体はナックルガードのような変形鍔に覆われており、その内側には柄とは別にレバーのようなものが付いていた。

「重心を感じろ。普通の剣とは違うだろ?」

「……確かに」

 普通の剣よりも明らかに手元が重い。

 けれど、少し持ち方を変えると意外と安定する。

 ……なるほど、これはこれで理屈がある重さだ。

「面白い……」

 つい呟いてしまった。

 振る前からわかる。

 これ、普通の剣とは別物だ。

 でも、だからこそ燃える。

「よし。軽く素振りしてみろ。まだシェルは入れてない。暴発もしねぇ」

「了解です」

 

 俺は肩をぐるぐると回してからバンカーを正面に構えた。

 普通の剣ならもっと自然に手の内に馴染むのに、握りがかなり太いせいで感覚が違う。

 それにナックルガードのある剣なんて扱ったことがないから、わずらわしさを感じる。

 俺は軽く前に踏み込み、試しに縦へ振り下ろした。

 ブォン!!

「おっと」

 危ない危ない。危うく地面に叩きつけるところだった。

 思ったより振り抜けすぎる。

 とんでもなく慣性が強い。

 これ、勢い任せに使ったら普通に身体持ってかれるぞ。

「……ほう」

 バルガスさんの目が細くなる。

「初見で止めたか」

「えっ?」

「普通の新人はそのまま地面に叩き付けて、手首が折れる」

 危なっ!

 そんな危険武器なの!?

 でも確かに、スポチャンや剣道の癖で自然と手首と腰で制御しちゃった感じはある。

 長物の慣性って、わかってないと危ないんだよね。

「もう一回やってみろ」

「はい」

 次は横薙ぎ。

 踏み込み。

 腰の回転。

 肩は脱力。

 手打ちじゃなく全身。

 ブォン!!

 今度はかなり綺麗に振れた。

 ……けど、何かが違う。

 

「うーん……」

「どうした?」

「なんというか、バンカーに振られている感じがします。重さのせいじゃない……」

「ほう」

「普通の剣ならもっとこう……、自然に一体化するんですけど、これはバンカーに合わせていく感じっていうか、操る感じに近いです」

 バルガスさんの眉が上がる。

「操るか……面白いことを言うな」

「えっ、そうです?」

「普通の奴は“重い”“難しい”しか言わん」

「いや、たまたまですよ。なんとなく、そう感じただけです」

 というか、まだまだ噛み合ってない。

 こっちが合わせないと、上手く振れない。

 ……なのに、めちゃくちゃ面白いぞ。

「ティア、少し離れていろ」

「うん!」

「カトル。次はシェルを入れる」

「……えっ? シェルって、つまりは本番?」

「本番じゃない。お試しだ」

 そう言いながらバルガスさんは腰のポーチから、少し大きめの弾丸のような物を取り出した。

 その表面には、赤く揺らめく炎の紋様が刻まれている。

「火属性の極小シェルだ。出力は最低。死にはせん」

「えっ? 死にはせんって、どういう……」

「カトルならきっと大丈夫だよ!」

 ティアが笑顔で親指を立てた。

「たぶん!」

 たぶん!?

次回は7月14日午前8時20分の投稿です。

応援、お願いします。

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