まかせてください!
「わわわわわ、ラフィーさん、それ、『魔物』ですか?いや、『魔獣』のこどもとか?すごい!もっと全身みせて!」
また立ち上がって手をのばしそうなスコルに、ラフィーは微笑んだまま、『すわれ』と指で指示した。
「 スコルくん、わたしがこれからはなすことは、もちろん口外無用です。くちをはさまず最後まできいてください。 ―― わたしが属するパーティーは、すこしまえに、トラス王国の奥にある山に巣くうドラゴンを退治しました。それは『白銀のドラゴン』という名でおそれられていたはずのドラゴンでしたが、まあ、ちょっとした情報のズレにより、たいしたものでもなく、あっというまに退治できました。ただ、その山にはふるい・・・穴があり、そこから出てきたのがこいつです」
「おれが、その『白銀のドラゴン』だったはずなんだ。覚えてねえけど」
白いトカゲが顔をあげてスコルをみる。
「 ―― その可能性はかぎりなく低いとわれわれは考えています。きみもわかるだろうけれど、なにかでコレに封じ込められているにしても、ドラゴンにしては魔力がよわすぎるし、だいたい形がちがう。どう見ても、トカゲだろうというのは、うちの《戦士》の意見で、『湿った熱い土地』にたくさんいたトカゲにそっくりだっていうことです。ちなみにこいつも、壁や木をのぼって天井にもはりつきます」
「虫なんてくわねえぞ」
「そう。生意気にもわたしたちと同じ食事をとります。そのうえ、こうしてしゃべる。 意思があって言葉を話せる動物というと、この世では魔獣か精霊のどちらかしかいませんが、いまのところこいつはそのどちらにも属していないように思われます。 ―― スコルくんは、どうみますか?」
きゅうに意見を求められ、スコルはもういちどトカゲをみなおした。
「たしかに、 ―― 『湿った熱い土地』にいるゲッコというトカゲにかたちは似ています。でも、しゃべってますし、意思表示もひどくはっきりしてるようですね。発見した穴はどういう状態でした?でてきてからあなたたちに危害は?」
「穴は、・・・たぶん、石の板で封がされていた。ちょっとしたきっかけでそれがとれるようになっていましてね。《魔法使い》がいうには、こいつをいれるためだけの『空間』で、こいつがでてきたあとに、穴は崩れてなくなりました。出る前にはずいぶん『おれ様』なことをいってたんですが、でてきたらコレですからね。うちの短気な《魔法使い》が杖で刺して焼くところでした」
「あのときはおれも、まさか自分がこんな姿だと思ってなかったからな」
白いトカゲが《賢者》の法衣からはいずりでてきた。
「おお、これは、・・・成体より小さいかな。 ―― 魔術はつかえるんですか?」スコルはテーブルに顔をのせトカゲにきいた。
「まあ、リミザの隠してるナッツを勝手にとりだすぐらいはな」
トカゲはとくいげに鼻先をあげてみせた
「《リミザ》?」
ああ、うちの《勇者》です、と《賢者》はためいきをついた。
「 その《リミザ》が、こいつを連れて帰りたいなんていうので、みんなしかたなく許可してやったんですが、なにしろこいつの正体がわからないので、とりあえずわたしが預かることにして、聖書と『ヒモヅケ』しています。 普通のかたちをしたトカゲがしゃべると騒ぎになるので、『聖書に誓って』もらった相手の前にだけ、わたしが許可してから出てきていいことにしていますが、こんなふうに出たがりです」
「ということは、―― このトカゲの存在も、《教会博学士会》に情報提供どころか、新種の報告もしていないんですね?」
「ええ、もちろん。このトカゲの存在はごく限られた人しかしりません。そして知っている人はみんな、どこにも、だれにも、もらしません」
それが当然であるのを示すように、にっこりとわらいかけられた。
そう。スコルもいま、そうやって聖書に誓ったばかりだ。
「うわー、そんなのもったいない、もったいないよ!この白トカゲを研究してなにか解ける謎があるかもしれないし、このさきおなじような進化した新種が見つかったら、きっとすぐ報告されますよ。そしたら第一発見者のラフィーさんの名前はのこらないで、そいつの名前だけのこるんですよ!」
テーブルをたたくスコルに、ラフィーは困ったような顔をして、同じようなのは見つからないでしょう、と断言した。
「きみは誤解しているようですが、こいつは進化した新種ではなく、逆に、古すぎていまでは見つからない種族だという可能性のほうが高いです」
「『古すぎて』?古の魔獣とかとちかい種族ってことですか?そう思う根拠でもあるんですか?」
「こいつに会う前にも、『古の魔物』がいたので」
「いにしえの!?どこに!?あ、トラス王国の奥の山か。じゃあ、忘却の山の方ですか?あーざんねんだなあ・・・あの山にはさすがにはいれないなあ」
「もうあの山にはいないと思いますよ。それよりも、スコルくんに頼みがあるのですが」
にっこりとわらいかけられたスコルは、白いトカゲをつかみあげて宣言した。
「 まかせてください!まずは標本づくりからですね!こんな貴重なモノの標本をつくれるなんて、光栄です!!」
「っはあ!?『標本』だあ!?ふざけんな!おいラフィー!おれを見殺しにしやがったらリミザは号泣だぞ!」
白いトカゲは身をよじって《賢者》をにらんだ。
それに片眉をあげてこたえた男は、笑顔のままこう言った。
「ええ。 ―― やっちゃってください」
のちにスコルは学者として《教会博学士会》へむかえられ、かずかずの研究成果をのこすが、 ―― そこに『白いトカゲ』に関することは、なにも残っていない。




