研究熱心
3.
《学者》スコルは興奮していた。
学者といっても、王室付きというわけではなく、教会で司祭の手伝いをしながら、おもに動物と植物が魔物へと変わる『変種』についての研究をしている。
そう。『魔物』として人を襲うあれらは、どれももとは、普通の植物や動物だったものだ。それらが『魔物』になるには、たしかに『魔族』のかけた《魔法術》のいわゆる《呪い》のせいもあるだろうが、そのほかにもなにか条件があって、『魔物』に変異しているはずだとスコルは考えている。
この世界において、『神』がつくりだしたはずのそれらがなぜ、『魔物』になど変じるのかはとりあえずおいておくとして、スコルとしては、『魔物』になりやすい植物と動物、それに対していまのところ一度も魔物に変じたことのない植物と動物の違いがおおいに気になり、その違いをみつけることを目的とした研究をしているのだ。
植物では、畑の野菜がとにかく魔物になりやすい。だが、麦が魔物になったというはなしはきいたことがない。形状の問題かと思ったが、東のほうの国では米が魔物になったという。気候のちがいが関係しているかとおもったが、もっと西よりの国でも米が魔物になったことがあるというはなしをきき、考えをあたらめた。
動物では、山によって『魔物』になるものが異なり、国によっては家畜が『魔物』になる例もあった。
いったい、どういう条件のもとでこれらは『魔物』になるのだろうか?
『魔物』の発生は、卵だとか、木の実だとかいろいろいわれているが、うまれてくるところをみたという話はきいたことがないし、ふるい文献には『 魔物 はみな 卵からうまれる 』とあるらしいが、野菜の『魔物』が卵からうまれるなどみたことはない。きのうまでまったく普通のトマトだったものが、つぎの日には『魔物』になっているのは、夜の間に魔族に《呪い》をかけられたからだというのが定説となっているが、それは真実だろうか?
「 ―― さあ、どうでしょうかね。 わたしは植物の蔓になった青い実が、コウモリみたいな虫の魔物をだすというのを、ちょっと前に見て知りました」
「っはあ!?そ、それって、あの、イウーキってよばれる魔物のことですか?え?あれが、蔦植物からでる?それ、どういうことですか?」
スコルはつい立ち上がった。
「どういうって・・・。 そうだな、どういう仕組みなのかはわかりませんが、ようは、あの魔物は植物の実だってことでしょうね。だから死んだときに、あんな甘い匂いがするのかもそれません」
「えー?えー?なに?それ、どこでみたんですか?」
「あーっと・・・、まあ、このまえの、・・・『秘宝』がかくれてた迷宮で」
「すごい!それ、大発見ですよ、ラフィーさん!教会の《博学士会》に報告しました?」
「いや・・・その・・・。すまないスコルくん、とりあえず、すわってくれないか」
「あ、すみません」
つい興奮しすぎたのはわかっているが、それにしてもこの《賢者》、自分とそう歳はかわらないだろうに、落ち着きすぎじゃないか?
スコルのいる教会の司教にあいさつにきたこの男は、どうやらいま《賢者》として《勇者一行》にくわわり旅をしているようだった。
どのような《退治依頼》をうけてこの国へきたのかはしらないが、ほかの司祭補助たちが彼をみてささやきあったうわさばなしをきくかぎり、司祭としての昇格試験に十二歳のときに合格し、その地方ではかなり評判になったらしい。この教会の司祭であるドミートとは、そのころからの知り合いらしく、「ひさしぶりじゃないか」とドミートがうれしそうにいうのがきこえ、そのあとすぐにドミートの自室へふたりではいってしまい、おしゃべりがきらいなドミート司祭にしてはめずらしく、一時間近くでてこなかった。
へやからでてきた二人は、出会ったときの喜びの表情がうそだったように消え、ドミートなど、眉間にしわをよせたままなんども両手をにぎりあわせ、ちかよったスコルにも気づかなかったようで、声をかけると、はっとしたように顔をあげた。
「おお、スコルくんか。こちらは、 」
「噂を耳にしました。《賢者》として《勇者一行》にくわわっていらっしゃるのですよね?ということは、さまざまな種類の魔物をちかくでみて、戦ったりしているわけですよね?どうか、そのあたりのくわしいナマの情報と、貴重なご意見をうかがいたいんです!」
これまでに数回《勇者一行》をみかけたことはあるが、そこに加わる《賢者》からはなしをきけたことなど一度もない。たいていが、王室付きの教会出身者であるため、街中の教会になどは足もむけないからだ。




