商談
このハバーツ王国の大きな港は、ガリオーの船をむかえるようになってさらに大きくなった。
ガリオーはもとはこの国の商人ではない。
もっと小さな船で商売をしていたとき、このハバーツ国へ陶器や香辛料、質のいい織物をもちこんで王様に気にいられ、そこで王族たちがめずらしがったり喜ぶものをもとめここを拠点として他国と商売するようになり、造船がさかんな国からこの大きな船を買い、それにのって帰国してからは、この国の貿易を完全に牛耳るようになっていた。いまではここの港には漁船などはつけられない、完全に他国と商売をするための港となった。
他国からきた船がいくつもの荷をおろし、この国から買ったものを積んでかえってゆく。国の特産品は白く美しい石で、どこの国も王宮をつくるのにこの石を手に入れたがったが、ガリオーの提案で、一回でもちかえれる量は制限されており、許可もすんなりとださない仕組みにした。おかげで石の価値はさらにあがり、値もあがっていった。それとともに、温泉もでるこの国に他国の者を船でよび、金をおとしてもらおうと、港を中心とした街づくりも進言した。王室はガリオーを大臣としてむかえたいといったが、それは断わった。
《 国が潤う=じぶんの商売も潤う 》というだけで、この国の王室に付くつもりなどまったくない。このおおきな港ですきなように商売できて、こういう世間知らずな客たちをあいてにしたとき、いかにあいてからうまくしぼれるかが、ガリオーの腕のみせどころなのだ。もちろん、あいてには最後まで、いや、金を払わせた後でも、この商談に違和感をもたせることはない。どちらも笑顔で終われることができる商売を(たとえあいてのそれは錯覚だとしても)めざしているのだから。
先に港についた《戦士》は、そこに荷をおろすためによこづけにとまった大きな船をしげしげとみつめたあと、船にそって歩き出した。
「 でっかい船だなあ。ホルス共和国から持ってきたのか?」
「なんだって?ホルス共和国をしってるのか?」つい、声が出てしまった。
なんだこの男?このあたりの戦士ではないのか?
船をみあげ、歩いていた男がとつぜんたちどまり、それほどのびていない髭をひっぱりながら船乗りたちが上げ下げする荷をながめながた。
「 でかいよなあ。おれの歩幅が87、8センチってとこだ。三分の一くらいまでで二十歩くらいだったが、全長はこれの三つ分ぐらいだろ?長さと幅は3:1ってとこか?」
「ま、まあ、そんなものかな・・・」
「 ―― あんた、この船の積載量、どれくらいで登録してるんだ?この港でいちばんでかい船の持ち主ってことは、この港でもそれなりの顔なんだろうが、まさか、ごまかして申請してねえよなあ?さっきの荷下ろしも、なんだか二か所に分けておろしてたが。 ・・・まあ、おれはこの国に世話になってねえし、なんだか栄えてそうな国だから『税』だとかそういうのに口だす気もねえけどな。 ―― あ、それでさっきのはなしのつづきなんだが、 ゼロがいくつだって? 」
この日の日記にガリオーは、『見た目で人を決めつけるようでは商人失格である』とかきつけ、おのれをいましめ反省した。
ただし、『ゼロの数を調整し、わたしもむこうも笑顔でおえることができ、おたがい満足な結果となる商談だった』ともかきそえ、商人としてのおのれもほめることをわすれなかった。
船の積載量など、船の持ち主がしっていればいいことだ。
あの《戦士》も税金にたいいしてなにかおもいがあるのか、ガリオーに「あんた、いまもじゅうぶん払ってんだろ?」とわらってうなずいてみせた。
しかも、《ペット》をいっしょに乗せたいといって、その分の料金は、ガリオーがいままで見たこともない上質な宝石で払ってきたのだ。さすがにこの《戦士》でも、その宝石の価値には気づいていないようで、汚いものでもつまむようにして渡してきた。
ガリオーはここでまた、おもいついたことを日記にかきそえた。
『 ―― 今後は《ペット》をつれて、小さな船で沿岸をまわるだけの観光を王室関係の上流階級に提案する。もちろん、《ペット》の料金もしっかりとる 』
この、『あなたのかわいい《ペット》といっしょに 海からの景色を楽しんじゃう船の会』の企画は、数か月後に大ヒットすることとなる。




