退治あとの事
35.
だって、おかしなはなしだろ。
船をうつおだやかな波の音と、櫂が水をかく音にまじり、オウぐエエ、という胃の中のものを吐き出したいうめきがあがるが、その口からはもうなにもでない。
「だいじょうぶ?」
リミザがうれしそうにのぞいてきて、ほんとうなら尻尾で叩いてやりたかったのにそれがいま『無い』《白いトカゲ》は、無視することにした。
「ぜんぶ吐いてすこしは腹もひっこんだんじゃないですか。わたしのつくる薬が効かないのではなく、そうやって吐かれてしまうから効きようがないだけです」
リミザのむこうにいるラフィーが、むこうに見えてきた大型船をながめながらばかにする。
「うるせえ。てめえのつくる薬は不味すぎるし、クソ魔法使いの魔法はつかえなさすぎんだ」
船のヘリに干されたようにぐったりともたれたトカゲが、弱弱しく答える。
「はあ?あんたのほうが特異体質すぎんのよ。あたしの『酔い止め』の魔法、リミザにはちゃんと効きいてるもの」
小舟の舳先の方にいるラーラがふりかえってリミザをゆびさす。
リミザが首をかたむけ、「 ―― というより、からだがすっかり波に慣れたって感じかな。ほら、およげるようにもなったし」と、艫で船をあやつっているキエネをふりかえった。
片目を覆う黒い眼帯をつけたキエネは、「おまえのあれは、おれたちでは『泳ぐ』といわないがな」と、わらう。
「ありゃ、『犬かき』だ。まあ、浮かんで進めるようになっただけたいしたもんだ」
ガットが言って、「 が、 」と続ける。「 ―― ほめてもいいのはそこまでだ。てめえがアチルゴ国にしたことを考えたらな」
「え~、だからあれはなにも、おれだけのせいじゃないとおもうよー」
のんきにこたえる《勇者》を仲間はにらむ。
それはいま、リミザが指を立てて顎をあげる《クソリミザ》になったからだけではなく、その時をおもいだしているからだった。
そう、 ―― テモモとキエネの中にいた、《ストーカーな悪霊》を退治したあとに起こったことを。
―――――
『ニジュウサンの島』からテモモとガットをぶらさげて『ニジュウニの島』へゆくと、キエネが無事にラフィーたちのもとについていて、カテカの術とラフィーの回復魔法によって、どうにか眼からの出血はとまっていた。
ナオとイニグは泣きながらテモモと再会し、ようやく、ここまでそれぞれに起こった事をお互いがうちあけられる場面となった。
ナオとイニグがキエネに感じていた違和感を、はやいうちにカテカに伝えられずにいたのは、やはりカテカと二人には、すこしの隔たりがあったせいのようだった。
「 ―― おれが悪いんだ。《ヂガミ》たちは急に来たおれのことをうけいれてくれて、ナオもイニグもおれを兄のように慕ってくれてたのに、おれがひとりで、みんなと距離をとるような態度だったから・・・」
カテカが悔やむように言って、ナオたち謝ると、テモモが首をふり、「いや、それはおれが勝手に、おまえにおれのあとを継がせるのを決めたからだろう・・・」と謝った。
ここにきて、みんながお互い謝ってかばいあう光景を、ガットは目元をぬぐいながらながめ、ラフィーは自分の神に感謝するよう法衣の胸当てをおさえ、ラーラが満足そうにうなずきながら、「アチルゴ国もこの先安泰ね。これで、ここの魔法術の研究もできる!」とにぎったこぶしをつきあげたとき、地面がゆれた。
「な、なに、なに?」
「ここって火山地帯だったか?」
「いや、この島自体はちがいますよね」
「わ~、ひどいゆれ~」
《勇者一行》がさわぐ横で、アチルゴの国民たちが、からだをこわばらせ、「もどるぞ!!」とテモモがさけぶと、大きく手を打ち鳴らした。
《勇者一行》がとばされたのは、前にナオにとばされた櫓の小屋だった。
「あんたらはここにいてくれ」
いいおいたカテカが、一瞬でいなくなる。
「この櫓、こわれないかなあ」
のんきなリミザが揺れる小屋から、さっきまでいた島のほうへ身をのりだす。
「地震、・・・じゃねえよな・・・」
「ええ。磁場がどこか・・・壊れた、みたいな衝撃でしたね」
「う~ん・・・なんかどっかで感じたような、へんな『ねじれ』っていうか・・・」
仲間もリミザの横にならび、そこからみえる『ニジュウ』以降の島々をながめていたら、その島々が、かき消すようになくなった。




