召喚魔術
「さあ、これでじゅうぶん目をあわせられるだろ?」
楽しくてしょうがないというように、リミザは立てた指を左右のふたりへゆっくりむけてきく。
「くっそ・・」『リミザ』と続けたいのをガットはどうにかこらえた。
そんなガットのつぶやきもひろったリミザはさらに笑みをふかめ、テモモのほうへ近づくと、立てた指先でテモモの顎をもちあげた。 テモモはもう意識がないようだった。
「おい、はやくテモモに『渡った』ほうがいいぞ。おまえだってわかってるんだろ?テモモのほうが魔力が強いって」
ふりかえってキエネをみたリミザが、ばかにしたように言う。
「 ―― 《 きさま、何者だ? 》 」
リミザをにらんだキエネが、キエネの声とはちがう声できく。
「なんでもいいから、はやくしなよ。言っとくけどこの《檻》にながくいればいるほど、おまえっていう《存在》がなくなってくからさ」
テモモのあごを支えていない方の手で、リミザは赤黒い炎でできた檻をしめしてみせた。
「 ほんとうはもっと距離が近くないと渡れないだろうけど、ここならこの距離で『渡れる』だろ? ほら、はやくテモモにわたって、それからおれたちと戦おうよ。そのほうがおまえも楽しいだろ?」
「 《 ほう。テモモにわたったおれと戦いたいのか?このおれをおさえながら、船を沈めることのできるテモモに、完全にわたったおれが加わるのだぞ? 》 」
キエネが血まみれの歯をみせながらわらってみせる。
「いいねえ、その自信。いまこの《檻》で、はりつけにされてるくせにそんな強気なのって、好きだなあ」
「 《 ほざけっ!わたってしまえば、こちらのものよ! 》 」
キエネの目から、なにか粉のようなものがでてテモモにむかうのがガットにはみえた。
「 いにしえのまもの アイリド 」
小声でリミザがつぶやくのがきこえ、はっとしたガットはリミザをみた。
さっきまでテモモのあごを支えていたのに、いまは炎の檻にはりついたテモモの足元に膝をついている。
ボッツ シュボボボボボ
いきおいよくあがった赤黒い炎がリミザの足もとからたちあがると、いくつにも分かれて走りだし、ガットがみたことのある模様を地面につくりだした。
・・・・あれは、 ・・・魔族の・・・
とたんにさっきのリミザの声がよみがえる。
『 いまからショウカンをかける 』
・・・召喚魔術だ・・・・。
赤黒い炎が消えた地面には、炭で書いたような黒い線がのこり、それはこどものころガットが見たことがある、円形といくつもの三角形をくみあわせてつくる、『魔族の召喚術』の《魔法陣》とそっくりなものだった。
こちらの視線に気づいたリミザがガットに微笑みかけてくる。
かがみこんだリミザが立ち上がるのといっしょに、黒い線をひいてつくった三角形と丸の中に、これまたみおぼえのある、まるみのある灰色の薄い皮膚をしたものが、たてがみのようなマツゲを先にして、地面の中からあらわれてきていた。
さっき、リミザがつぶやいて召喚した『古の魔物 アイリド』だ。
その魔物は、リミザがリビングデッドになってすぐ、前回の《白銀のドラゴン退治》のときにでてきた魔物だった。 いまの世ではみることもない古い魔物だったが、なぜかそういういまはないはずの《古シリーズ》ともいうべきものが、次々とでてくる《退治依頼》だったのだ。
その『アイリド』を、ここでつかおうといいだしたのが、リミザだった。
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