ほんとうの《退治依頼》
イシシはリミザがまだもっている木片をのばした杖でつつき、はなしを続けた。
「 《キンジュツ》をつかえるものはもうおらぬのに、そのキンジュツの、《ワタリ》で殺されるヂガミが十年少し前に、いきなりではじめた]
「あ、それが島にはいりこんだ《ストーカーな悪霊》だな?《ワタリ》って名前なのか」
眉をよせたリミザがうなずく横で、ラフィーが何かに思い当たったように顔をあげた。
「その《ワタリ》とは、もしかして・・・人を『わたる』、という意味ですか?」
としよりの顔をみると、あいてはわらったがなにもいわない。
杖をテーブルにおくと、トカゲの頭をつつきた。
「 おおうい、もういちど言ってくれ。 わしは耳が遠いんでよくきこえんかったぞオ?」
「あ、そっか。トカゲとしゃべってるんだもんな。おい、ラフィーがいったことをおまえがきいてやらないと」
リミザもトカゲをつつく。
「くそめんどくせえな。 ―― で、《ワタリ》ってのは人をわたるってことなのか?」
文句をいいながらもトカゲがきく。
「そうじゃ。 目をあわせた相手の中に入ってその相手をのっとる。そうして次にまたあたらしい相手にはいってわたってゆく。もとは逃げるための術だというが、移った相手を殺してゆくのに使われるようになった術でな。ヂガミはソレから逃れ、ここへ着いたとわしらには伝わっておる」
「で、キエネはその《ワタリ》ってのにのっとられてるんだろ?」
トカゲが年寄りのほうにからだをむける。
「ああ、半分だがじゅうぶんのっとられとる。 この《ワタリ》の術はな、渡る相手にきづかれないうちにわたりきらねば、《術》としてうごかぬ。テモモはキエネからソレがわたってくるのに気づいて断ち切ったが、半分はいられてしまった。だがテモモはそこで、半分はいりこんだヤツをおさえこみ、キエネに戻らぬようにおのれの中にとじこめる術をかけた。そうすれば、ヤツを半分もったままテモモが命をたてば、もう次へわたれないヤツは死ぬことになるからな。ところが、 ―― テモモが命を絶つ前に、キエネがテモモを『ニジュウサンの島』へ、とじこめてしまいよった」
「はあ?そこがよくわからねえ」
トカゲは首をもちあげた。
「うむ。 テモモに死なれたらキエネは死ぬ。だからテモモを生かしておくために勝手に動けぬよう術をかけとじこめたのだ。だから、いまはまだ、テモモが《ヂガミ》のだれかと目をあわせれば、そのあいてに渡れる。キエネがそのときをまっておるところへ、あんたらが来た。 テモモもすでにかなりよわっておるだろうから、キエネもあせっておるじゃろうな」
「それが言ってた『根くらべ』ってことかよ。 しっかし、どんだけ《ヂガミ》のこと恨んでるんだ?その悪霊。いままでキエネのほかに《ウミ》でのっとられたやつはいねえのか?」
納得いかないようにトカゲがきく。
「なかった。だからキエネも油断したのじゃろうな・・・。のっとられたテモモの息子と戦うのに、キエネが手助けした、あのときだろう。ヤツはキエネにわたって隠れ、ずっとテモモが油断するのをまっていたのじゃろ。 ―― トカゲよ、きいてくれ。ヤツにのっとられたあのキエネは、もうわしらの知っておるキエネではない。ナオたちはこどものころからキエネを知っておるから、あのキエネに会うたびに悲しみより怒りをかんじるのだろう。わしら《ウミ》も同じ気持ちだが、《ウミ》でいちばん力のつよいキエネがのっとられてるということは、キエネの力がつかえるということじゃ。うかつにてだしはできん」
「ああ、やっぱり、テモモと同じくらいつよいってことなんだ」
このリミザの言葉を、しかたなさそうにトカゲが復唱してやる。
「キエネとテモモは同じくらい強いのか?」
「そうよ。だから二人とも生きておる。 ―― あんたらにここでたのんでおくぞ。 わしらアチルゴの民が《勇者一行》にほんとうに退治してほしいのは、キエネとテモモじゃ」
「 な、 ・・・あんた、なに言ってるかわかってんのか?」
ガットがおもわず立ち上がった。
年寄りはそんな《戦士》をきつい眼でみかえしながら言った。
「これはな、もしわしらが『よくはなしあって』、『どうしたいか』をきめたなら、当然でてくる結果じゃ」
あの話し合いのときに自分がいったことだとわかり、ガットはうめくように両手でまた顔をおおう。
イシシはトカゲに目をもどし、つづける。
「キエネはあんたらを利用して、テモモと《ヂガミ》をあわせようとしてくるかもしれん。あんたらはそれにのって、テモモがとじこめられたところまでゆけるじゃろ。そこがねらいめじゃ。そこで、キエネとテモモをいっしょに葬れ。気が咎めるだろうが、テモモはもっとはやくに死ぬつもりだったんじゃ。どうかそれをかなえてやってくれ」
「そっかー。そうすれば、その《ストーカーな悪霊》もようやくいなくなって、この国も気にせず外の国からの人を歓迎して、アチルゴの国民みんなで力をあわせて、安心してやっていけるようになるってことだ。 ―― そりゃ、はりきって協力しなくちゃ。 なあ、ガット?」
立ち上がったリミザが腰に手をあて、顎をあげると、座る一同をみわたした。
「ック ッソ、っ・・・・」たちあがりかけたガットはリミザをにらんだままどうにかこらえた。
かわりに立ち上がったラーラの杖がスイングされ、腰にあて曲げたリミザの肘に、おもいきりヒットした。




