おもいこみ
29.
トントントン、とたたかれたのは、壁のない高い床の板だった。
それを杖でたたく年寄が、にこにこしながら《勇者一行》が壁のある部屋から出てくるのを待っていた。
「ほかのもんからきいたが、なんでもめずらしい『しゃべるトカゲ』がおるそうじゃな?わしもそのトカゲとはなしてみたいもんじゃが、はなせるか?」
ききながら、ゆかをよじのぼって年寄りがはいってきた。
白髪を頭の上で丸め紅い櫛をさし、日に焼けてしわだらけの顔に真っ白な眉と髭がちょろちょろと生えている。
でてきた《勇者一行》を部屋へと押し返し、ドアをしめるとだまったまま杖をゆっくりふりあげてみせた。
ラーラがまた『幕』をはり、親指をたててみせる。
ラフィーが、胸当てから取り出した白いトカゲをテーブルに投げおいた。
「っこのクソ腹黒賢者!すこしはおれのことありがたがれ!!」
「おお!!しゃべっとるしゃべっとる。わしは《ウミ》のなかでも一番の年寄りでイシシという。いろいろなむかしばなしを知っておるが、『しゃべるトカゲ』はきいたこともない。 どれどれ、このわしともしゃべってくれるか」
テーブルに案内された年寄りは椅子にゆっくりとすわり、杖をたてかけると、懐からいくつかの薄く四角い木片をとりだし、テーブルにならべた。表面にはみたこともない文字らしきものが書いてある。
「 ―― これは、《木札》といって、これで相手に《術》を投げつけたり、身に着けて守ることもできるんじゃ」
「あ。これってイニグからガットが攻撃うけそうだったとき、キエネが用意してたとかいうやつでしょ?」リミザが手をのばしてそれをとりあげる。
「あんたらに《術》をあてようとしたイニグを許してやってくれ。唯一のたすけになるとおもった《外からの者》たちじゃ。あんたらが来たとき、ナオはそれをテモモにつたえようとしたがやはり無理だったようだなあ・・・。 イニグはあのとき、あんたらがキエネの仲間になると思ったんじゃろ」
「『キエネの仲間』って《ウミ》・・・じゃなくて、《悪霊》のほうってことか」
リミザは手にした《木札》をガットにみせる。ガットは情けない顔でなにも言えない。
「 ではここからは、わしはこの『白いトカゲ』と話そうか」
老人は埋まったような目を《勇者一行》にむけながら、トカゲの頭をつついてみせた。
《勇者一行》は顔をみあわせてうなずく。
「 ―― この国にはむかし、《キンジュツ》とよばれる、よくないつかわれかたをする術があってな。《ハンゴン》も《ワタリ》も《キンジュツ》だが、それをつかえるようなものはもうこの国にはおらぬ」
「その《ハンゴン》って、ナオがそれでリミザが生き返ったのかってきいた術だよね」
ラーラがリミザをゆびさす。
「なるほど。《キンジュツ》つながりで、《ワタリ》のはなしでもしたかったのかもしれませんね。たしかキエネに、いまつかえるものがいない術だと断言されて終わりましたよね」
ラフィーが残念そうに言う。
「くっそ・・・いいぶんが食い違うとことか、キエネを名前で呼ばねえとか、そういう細かいことでしか異変をおれたちに知らせる手段がなかったんだもんな。それなのにおれは、ぜんぶ《ウミ》と《ヂガミ》の身分の格差だと思い込んじまった・・・」
ガットは両手でおおった顔をあおむけ、うなっている。




