こっからが、なかなか
「 でもな、こっからがややこしいというか、よくわからねえはなしになるんだがよ、 なんでもそのキエネも、なんだかに操られてるってはなしだ」
膨らんだじぶんの腹をたたきながらトカゲが言う。
「何に?」
リミザが日に焼けて赤くなった腕に白い薬をぬりこみながらきく。
「そこがおれにもよくわからねえんだが、なんだかアチルゴの国民をずっと昔から追いかけてきてる、しつこいストーカーがいるらしくて、そいつが、まず、ちょっと前に、《ヂガミ》をほろぼしかけたんだとよ」
「それって、キエネが言ってた《ヂガミ》だけかかったおかしな病のこと?島にしのびこんだ誰かがばらまいた呪いなんだろ?《キトウ》でおさまったんだっけ?」
日焼けした顔にすごい量の薬をぬりこむリミザが首をかしげた。
「それだな。その『呪いをまくやつ』ってのが、しつこいストーカーみたいなやつなんだとよ。でも、おれがおもうに、そのストーカーってのはきっと《悪霊》かなんかだぜ。どうやらそいつ、《ヂガミ》にどんどんのりうつって相手を殺していくみたいだからな」
「《悪霊のストーカー》ですか?いろんな意味でいやな相手ですね」
ラフィーが身をまもるかのように法衣の襟をしめる。
「 だが、そいつがテモモの息子にうつったところで、テモモが息子ごと、 バン、 だ」
あおむけのままのトカゲが、首をちょっと曲げる。
「息子ごと?・・・って、ほんとかよ・・・」
ガットが額をおおうように手をあて、ガクリと頭を垂れた。「 ・・・それって、ナオの親だろ?ナオはテモモのこと恨んでねえのか?」
「そこがこの国の『常識』らしいぜ。そのストーカーにとりつかれたらもうおしまいってな。とにかくその時点で《ヂガミ》の数は激減だ。だがな、テモモの息子といっしょにストーカーも死んで、これでもう終わったとみんな思ったし、問題ねえだろうってことで、《キエネ》と《テモモ》が話し合って、このあたりでもう、閉じてた国をひらこうってことになったんだとよ。 あ、ここまで《ヂガミ》と《ウミ》の関係も、まったく問題ナシだ」
「なんだよ、それ、ほんとか?」
疑ったガットが、眼をほそめ白いトカゲをみる。
「おれはきいたことを伝えてやってるんだぜ? いいか、こっからが、なかなかおもしれえんだ。 ―― テモモが《王様連盟》に正式書類を送ったころ、キエネがテモモと大事なはなしがあるといって二人きりになった。そうしたら、アチルゴの国民みんなが、『おおきな力のぶつかり』ってのを感じて、あわててキエネとテモモが話し合ってる『ニジュウサン』の島にみんなが集まったら、まず、テモモの気配が隠されてて、キエネだけがそこにいた。で、そのキエネが、いままでとちがう気配のままこう言った ―― 」
『 テモモに渡ってやろうとしたのに、あやつめ、半分ほどで断ち切りおったわ。たがな、おれとテモモはもう、つながっておる。テモモは半分渡ったおれを逃がすまいとして己を閉ざす術をかけよったので、ここの岩山に閉じ込めてやったわ。 いいかよくきけ。これはテモモとおれの根くらべだ。 おれは《半分》をテモモに渡ったままで、テモモを通してしか、つぎの《ヂガミ》に渡れぬ。テモモは死ぬときおれの《半分》もつれてゆく術をかけよった。 だがなあ、そのまえにテモモが《ヂガミ》のだれかと目をあわせれば、おれはテモモを通ってすぐにその《ヂガミ》にゆけるぞ。 追いつづけた憎い《ヂガミ》どもを根絶やしにしてやるわ。さあみなのものどもよおく聞け。 《おれのこのはなし、だれともひとつも話すなよ》 』
「つまり、ストーカーはまだ残ってて、集まってこれをきいてたアチルゴの民みんなが、この大事件についてだれとも話せねえっていう呪いの魔術をかけられたってことだな。 さらにいえば、この国の王様テモモを人質にとられてるようなもンだからな。なにもできない。 ―― ところがなんとそこで、」
「テモモが、船を沈めたんだな?」
先にくちにしたガットを身を起こしたトカゲはにらみ、「いいとこをとりやがって!!」と抗議した。
「そっか。《王様連盟》に入ったからだ」
ラーラが指をならし、トカゲがまたにらむ。
「《クソ魔法使い》だまってろ。 ―― そうだ、《王様連盟》にはいってりゃあ、国の近くで船が沈めば、かならずその経緯の説明をもとめる書類が届く。不備がありゃあ調査団もやってくるからな。人質にとられたままのテモモは、外の国と手っ取り早くつながれる方法をとったってことだ。 ―― だがここでさらに、若い《ヂガミ》三人は考えたわけだ」
「なるほど。船が沈んだ原因が『海の生物』との事故ぐらいでは、軽い調査で終わってしまうと思ったのですね。 そこで《退治依頼》をだしたのか」
ラフィーがうなずくのに、ちっ、と舌をならしてから、白いトカゲはトカゲらしい腹ばいの姿勢にもどった。
「そうだ。 《魔獣退治》として依頼すりゃあ、大ごとになって、《勇者一行》が退治にやってくる。で、その《勇者一行》に、じつは船を沈めたのは国王であるテモモで、そのテモモが行方不明になってるからさがしてほしいっていうことも依頼するつもりだったらしいが、キエネが先におれたちをかこいこむためにいろいろ吹き込んで、あの初日の夜の話し合いになったってことだ。 ―― どうした?ガット?」
トカゲはおもしろそうに、テーブルに伏せた顔を腕で囲い込んでいる《戦士》の名をよんだ。
「・・・うるせえ。おれはいま反省中だから声をかけるな」
「まあまあ、あのときガットはイニグにやられそうになったりしたわけだし、しかたないよ」
むかいのリミザがテーブルに身をのりだし、ガットの頭をなでる。
「あたし、あのときナオに手をはたかれたでしょ?でもあれ、あたしの手にあった手紙をとるためにナオがわざとああやったの。ここの書庫でみつけた紙束からは、《ヂガミ》と《ウミ》の格差なんてよみとれなかったし、あの話し合いのとき、ガットの前でイニグの魔力を『はじきとばした』みたいなキエネの《演出》も、気にくわなかったわ~。あんな感じだから、魔法をつかわないで普通に紙にかいたのを渡すとかには、キエネは気づかなかったしね。とりあえず『たすける』って書いといたの。万が一見つかっても、《退治依頼》についてだとか言ってごまかせそうな言葉でね」
「まあ、あなたがどや顔で《してやった自慢》するのはいいかげんウザいのでそこまでで。 ―― ともかく、現状でいくと、アチルゴの国民はテモモという人質をとられていて、呪いをかけられ、外から入ってきたわたしたちに直接助けは求められない、ということですね」
ラーラにふりおろされた杖をつかんで、ラフィーは困ったようにうなずく。
「そういうことだな。 さあ、どうする?あしたはキエネといっしょに海にでるんだろ?そこでキエネをやっちまうか?」
顔をあげ、テーブルの左右にすわる《勇者一行》をみまわして白いトカゲがきく。
「 ―― そうだなあ。やるしかないよなあ。だって、そうすれば、《ストーカーな悪霊》もこんどこそ片付いて、ほかのヂガミも安心安全。ってことになるんだろ?で、それをやれるのは、おれたちだけだもんなあ 」
あごをうわむけ、額に立てた指をつけたリミザが、仲間をみまわしてわらった。
「いや、ちょっと待てよ。まだ情報がたりねえだろ」
テーブルから身を起こしたガットが片手をあげる。
「なんでよ?まだキエネのかたをもつつもり?」
不満げにラーラがガットの手をつかんでさげさせる。
「ガットのいうことも一理ありますね。《ヂガミ》を呪って、キエネにとりついてる悪霊が、どういうものなのかわたしたちにはわかりません。どの程度操られているのかとか、いまのキエネの魔力も、どこまでが本人のもので、どこからが悪霊のものなのか・・・」
ラフィーが考え込むように言葉をとぎらせたとき、トントントン、と外で木をたたく音がした。




