食ったんじゃない紙
27.
ラフィーは法衣の胸当てをおさえ、『ニジュウサンの島』がみえる『ニジュウニの島』の高台にたち、その衝撃音を感じていた。
「テモモだ!」
「キエネの《力》もいっしょだった。なんだろう?リミザたちがいるんだよね?平気かな・・・」
立ち上がって『ニジュウサンの島』のほうをみるイニグとナオは、そろってラフィーを見た。
にっこりとほほえんだ《賢者》は、「平気でしょう」と言い切った。
実際には、ちょっと危ういとは思っている。
なにしろ、テモモはすでに手遅れだろうと考えているからだ。
なので、言い添えた。
「 ―― カテカは、かならずもどります。ですが、・・・あなたがたもわかっているとおり、テモモはキエネにのっとられ、だいぶたっています。それを切り離すというのは、・・・正直できるかはわかりません。わたしたち外の国でも、《魔族》による、相手を支配する《魔術》がありますが、・・・たいていのばあい、支配された時間がながいほど、とけなくなり、《魔術》をかけた《魔族》をたいじすると・・・、かけられた者も亡くなります」
ラフィーの説明をなにもくちをはさまずにきいている二人は、目をみかわした。つまり、テモモにかけられた《術》にも、そういう危険があることを知っているのだろう。
「 くそっ、くそっ、おれがもっとはやくにカテカに言ってればよかったんだ。キエネの気配が前と違うって」
「イニグ。それはあたしもいっしょだよ・・・。もっとはやくに、カテカに相談すればよかったんだ・・・」
ふたりは涙をうかべ悔やんでいる。
「いいですか。 これはあなたたちのせいではありません。この国をねらったその『魔物』がすべて悪いのです」
ラフィーはありきたりな慰めしかできない。
なにしろ、じぶんが知っている世界とこの国は、かけはなれすぎていて、驚くことの連続で、いまだにいろいろと理解できないことが多い。
まず、いちばんはじめの驚きは、この国の《魔法術》。
着いてすぐに、じぶんが知らない《魔法術》で移動させられ、いろいろあせっているところにきて、あんな《地図》をみせられてから、船を沈めたのは《魔獣》ではなくこの国の王様だなどという衝撃の事実を知り、つぎつぎと明らかになる情報の多さに圧倒されるように、けっきょく頼みを聞き入れてしまった・・・。
が、
ほんとうの驚きは、そのあとからだった。
初日の情報量の多さで疲れ切った《勇者一行》を《ヂガミ》がつかっていた家までキエネが移動させてくれ、夜にまた迎えに来るというのに礼を言って、その姿と気配が遠のくのをまち、《勇者一行》は顔をみあわせ壁がある部屋まで移動した。
「 ―― だしますよ」
ラフィーが胸当てに手を入れる。
カテカと青い部屋で会ったときにつまみあげられた白いトカゲが、そのあとずっと、法衣の胸当てのなかで震え続けているのはわかっていた。キエネに会ったときも顔はだしたが、それ以上出ようとはしないのも、いつもの行動からすれば、考えられない。船酔いの後遺症とちがうのはわかっていた。
なにしろ胸当ての上からおさえれば、慣れない《魔法術》の気配がずっとしている。
とりあえず、用心のためにときどき法衣の上から手をあてていたが、変わりはなかったので、《勇者一行》だけになれるタイミングを待ちわびていたのだ。
ラーラが『幕』を張る魔法をためしにつかうと、うっすらとはることができ、準備はととのった。
つまみだしテーブルにおくと、ぷるぷるとふるえていたトカゲがぴたりと動きをとめ、大きくくちをひらいて、ゴエッ、と胃液とともに丸めた紙片をはきだした。
「うわっつ、おまえなにひろい食いしたんだよ?」
リミザのことばにせきこんだトカゲが頭をふりあげ、「 食ったんじゃなくて、いれられたんだ! おれをつまみあげたあのクソ男に!」と、くやしそうに前脚をふみ鳴らした。
「いれられた?」とガットも興味をもったらしく、ぐしゃりとぬれた紙片をつまもうとするが、《魔法使い》にとめられる。
「リミザなら平気だとおもう。紙をひろげてみて」
ラーラに命じられたリミザがそれをつまみあげ、ひろげてみた。
「『たすけてくれ』だってさ」
くっきりと黒い文字をなかまへむけてみせる。
「なんだろ?こんなことしなくっても、たすけることになったのに。っわっ!」
つまんでいた紙がいきなり燃えあがり、あとかたもなくきえうせた。
「 ―― ふうん。《残さず消す》ところまでが一連の《魔法術》ってことね。 あんた、カテカにつまみあげられて、じっくり指でなられてたもんねえ」
ラーラが眉をあげてトカゲをみる。




