変なはなし
「 おれも変なはなしをきいた 」
ガットが剣をかまえながらはなしだす。「 ハバーツ王国の港でおれが交渉したおっさんによると、何年かまえから、アチルゴの島に住む動物が群れで泳いで、島から島へ渡ってるのをみるようになったってな。とくに『島ネズミ』の群れが、アチルゴの島からはなれてハバーツ国のほうを目指してるのを見つけたときは、島のどれかが沈むのかと思うほどだったってよ。だけど、どこの島も沈んでないだろ?なあ、アチルゴには『島ネズミ』がほんとにまだいるのか?」
「い、いる。そりゃあ、そういうこともあったが、あれはヂガミたちが病で死んでいってたころで、・・・島ネズミだってまだすこしは残ってる」
「あ、そういやラフィーが知り合った司祭が、そのネズミの解剖たのまれたんだって。なんか、島ネズミって泳ぎが得意じゃないから諸島の島同士くらいしか渡れないらしいんだよね。それがどうして遠くの陸地をめざしたのか調べることになったらしいんだけど、島ネズミにはべつに脳に寄生虫もいなくて病気でもなかったから、なんで逃げ出したのかはわからないままみたい」
ラーラが杖をキエネにむけたまま説明するのに、リミザは腕をくんだままふかくうなずいた。
「そっかー。それってきっと、よっぽどの理由なんだろうなあ。島がしずむんじゃなければ・・・」いいながら、リミザはキエネに一歩よる。
「 ・・・たとえば、そうだなあ・・・ ―― なにか、よくないものから逃げる、とか」
バ ンっ
音としょうげきでガットとラーラは一瞬さがり、キエネのまえから動かずにいたリミザの名をよんだ。
「リミザ!なんでよけねえんだこのバカが!」
「リミザ!キエネからはなれなさい!」
よばれた《勇者》は何かを片手ににぎっていた。
その手を上へあげると、もう片ほうの手を、キエネの胸のあたりへむける。
「 き・・・木札だ・・・。 気をつけろ!その木札にはなにか《術》がしかけてあるぞ!」
カテカの警告に、「そうだよなあ」とわらったリミザのあたまには、山羊のように細くながい角がはえていた。
「おれもこういう魔術、嫌いじゃないけどさあ、 ―― つかいかたが、好きじゃないんだよなあ」
かかげた片手にある木の札が燃えだしたが、燃える音ではないじゅくじゅくとあわだつような音をだす。
「ぐうっ」
キエネが胸をかばうようにして前へたおれこんだ。
リミザがつかんだ木札が、とつぜんおおきく火をあげるとなにものこさずに消え、その足もとにうずくまるキエネのからだがふるえだす。
するとテモモが咳き込みだした。
「 テモモ! 無事か!?」
はっとしたようにカテカがさけぶ。
「カ・・・テカよ、おまえはこのひとたちをつれて外へ出よ」
カテカがかけよろうとするのを、「くるな!!」とテモモがとめた。「かけられた術がようやっととけたわ。・・・いいか、おれのなかにはまだアレがおる。だからおれはここからはうごかぬ。このままあやつられたキエネといっしょに洞窟を閉ざす」
「そんな!テモモ、ナオたちも待ってる」
「ナオとおまえがおれば、アチルゴは国としてこのさきどうにかなる。外の国の《勇者一行》よ、どうかカテカをつれてはよう外へ っ ごっぶっ」
テモモが血を吐き、むせだした。
「 な・・・ア にを ウ、勝手な ことを、・・・ 」うずくまっているキエネがふるえ、こもった声でいうと、ゆっくりとからだをおこしはじめた。
ガットがカテカの腕をつかみさがらせる。
「 ・・・なあ、おまえたち、この国のことにくちをださないのではなかったか? どうした?あれほどカテカをうたがっていたのに、ここできゅうにおれをつるしあげることにしたのか?」
たちあがってリミザにむけた顔の、口と目から、血がながれていた。
「それがさあ、おれたちもいろいろ悩んだんだよなあ。なにしろ、まあ、情報があふれすぎちゃって、どれをとればいいのかって。ガットなんて、最後の最後までキエネのこと信用したかったみたいだし」
「うすせえぞ、クソリミザ」
「ほらね。うちの《戦士》はすごく情によわいんだ。 だからまず、こういうことは《勇者》であるおれがやらないとね」
バンっ
リミザがなげつけた木の札がキエネにあたり、はじけた衝撃がおこると、テモモがはじかれたように仰向けになった。
「くっそ、」
顔をしかめて毒づいたのはガットだった。
「うわ、聞いてはいたけど、ほんとなんだ? ―― キエネとテモモが《つながってる》って」
テモモをふりむいてみたリミザは、なげられた木札で胸元に焦げ跡だけがつくキエネに、「あんたは《身代わり》の木札をしこんであってわけだ」と感心してみせた。
「なるほどなあ」と立てたゆびさきを額につけ、「こりゃ、テモモを人質にとられたカテカたちは、キエネに手だしできないわけだ。 ―― なあ、ガット、これでじゅうぶん納得した?」
ガットは返事をせず、リミザのつぎにキエネをにらみつけた。
「なんかいやな《魔法術》だなあ。 ―― 顔をあわせて視線があった相手を、《のっとれる》んだって?」リミザは額にあてていた指をくちもとにあてる。
「 それって・・・、 ―― てっとりばやくって サイコーだっねげへっ」
後頭部にラーラの杖をくらったリミザの頭と首がすごい音をたて、前にのめった。
「なにほめてるんじゃ、《クソ魔族リミザ》が。そのいやな魔術のせいでこの国は窮地に陥ってんのよ」
「そ、 うでした。 えーっと、まずはテモモにかかってるキエネの魔法術を解かないことには、どうしようもなさそうだけど」
自分の顔を両手でおしあげて、頭の位置を調整しながらリミザがキエネをみた。
「ほお、そうか。 おまえらおれとテモモを離すつもりなのか? ならば先におしえてやろう。 ―― むだなことよっ!!」
パ パ ンっ
木札がはじける音よりもかるい、両手を叩き合わせる音が洞窟に鳴り響いた。




