心配
23.
森の中に続く細い道をたどり、どんどんと奥へむかうキエネの背をガットは追った。
後ろではラーラが茂った草に文句をいいながら魔法をつかうこともなくついてくる。
ここではきっといま、《魔法術》がつかえないのだろう。
ガットもこの森にはいるときに、結界ではられた《魔法術》のようなものには気づいた。一歩あしをふみいれたとたん、からだが急に重くなり、先をいそぐキエネのあとにつくのもしんどかった。
キエネはいちどもふりかえらない。
テモモのことが心配か ――
もうすでにあしもとに道はなく、ガットたちはただ、キエネのあとを追って進む。
「カテカ!いるのか!」
キエネがさけんでとつぜんとまり、片手をあげて手のひらを立てると、押すように動かした。
ビ キン
なにか分厚いものがわれるような音がして、景色がななめにずれる。
「 なんだよ・・・」
ガットが目にしていた景色は粉々にとびちって、代わりに目の前に現れたのは、黒い岩が集まったような小山だった。山の岩肌はボコボコとして堅そうで、ちかよってゆくと洞窟の真っ暗なくちがあいていた。
「 ―― テモモはこの洞窟のなかにいる」
キエネが身をかがめてその黒い穴へとはいってゆく。
あとを追ったガットたちをやっとふりかえると、「カテカの気配はなさそうだ」とうなずいてみせた。
「なんでこんな洞窟の中にいるんだ?」
ひんやりとくらい洞窟にガットの声がひびく。
進む先にところどころおかれた皿には、火がともっている。
「なにここ?牢屋じゃないよね?隠れ家ってこと?」
ラーラが寒そうに腕をこすり、あたりをみまわした。
「 ―― テモモは国をひらいて外と交流するのをきめたが、外から入ってくるものにたいしてひどくおびえてな。なにしろ『外からいれるな』という言い伝えをずっとまもって生きてきたんだ。おれたち《ウミ》がずっと、外の国の人間はそれほどおそれるものではないといっても、《ヂガミ》のテモモは信じなかった」
先をあるいてゆくキエネの声にはどこか怒ったような響きがある。
「それで、こんな岩の中に自分から隠れたのか?それとも、 ―― とじこめられたのか?」
「いいや、そんなわけはない。テモモがここにすみかえたときにおれも会ったが、おのれできめたことだとはっきりくちにした。だが、そこからからだをこわすことがおおくなってな」
「そりゃそうでしょ。こんな陽もあたらない穴に閉じこもってたら。からだどころか、あたまだっておかしくなるわ」
ラーラがあきれたようにいうと、「もしかして・・・」とガットがつづける。
「・・・もしかして、ここに閉じこもってからテモモが船を沈めたのか?」
「ああ。なんだかだんだんと外の国に対するおそれがふくらんでいってな・・・」
残念そうにキエネがいって、背をまるめた。
「 ・・・カテカがなにかをたくらんだとしても、この状況ではしかたがないと思わないか? もし、ナオとイニグがカテカにおどされているのだとしても説得すればどうにかなる。おまえたちがこの国のことを心配してくれるのはありがたいが、あとはこのおれにまかせてくれないか?」
まるめた背のかたごしにキエネがふりかえる。
「 いや、おれたちはべつに、カテカやこの国を、おれたちでどうにかしてやろうとはおもってねえんだ。 ただ、もしなにか困ってることが起こってる最中なら、せっかくここにいるんだから、それもいっしょに片付けるのを手伝おうと思ってるだけで」
「そうそう。この国のことは、この国のひとたちでどうにかしないとね」
「そうだよ。それよりさあ、テモモがいるとこに、まーだ着かないのオ?」
ガットとラーラのあとに、リミザの声が洞窟内に響き渡った。




