じゅうぶん戦えるのか?
18.
おそわれたその日の夜、《勇者一行》は、キエネといっしょにまた『イチの島』の大きな家でイニグたち三人の《ヂガミ》に会い、巨大な『島ヘビ』と《シードラゴン》におそわれたことを伝えた。
「そっか~、大変だったんだねえ。だから『乱れ』が伝わったんだ」
ナオがねぎらうようにうなずきかける。
「ちょっと待てよ。それ、ほんとうにここの『島ヘビ』が巨大になってたのか?」
カテカは冗談をきかされたような半わらいの顔を、キエネにむけた。
「ああ、まちがいない。もとは『島ヘビ』だ」
このこたえにナオは眉をよせてイニグをみたが、イニグの方はあせったようにキエネに身をのりだし、「シードラゴンって、うちの島のほうにはこないよねえ?きいたことないよねえ?」と確認する。
答えたのはガットだった。
「まあ、シードラゴンは、ただシーワームをおいかけてこんなほうまできただけかもしれねえな。そろそろ繁殖期だろ」
「そうですね。獲物を追いかけて浅瀬にあらわれることもあるっていいますし」
ラフィーも考えられることをくちにした。
たしかにシードラゴンは本来こんな小さな島がつらなる海域ではめったにみられない。そんなせまいところにはいらずとも、だだっ広い海で獲物を捕れる能力があるからだ。
だが、ちかごろでは海をゆきかう大型船がふえ、、その船を護るためにやとわれた魔法使いによって、海獣や巨大生物が、おもいもよらない方向へ追いはらわれることがある。
「でもな、あの『島ヘビ』は、あきらかに誰かが魔法ででかくしたやつだ」
ガットの断言に、イニグはこわばらせた顔をナオにむけた。ナオはそんな従妹にいらついた目をかえした。
「『だれか』って、誰だよ?」
カテカが《勇者一行》の返事をたのしむような顔できく。
「そこが謎なんだよなあ」
リミザがガットより先にくちをひらいた。「なんかさあ、魔法術をかけたのは《魔族》じゃないかって、ラーラがいってるんだよ。まあ、たからとりあえずは、テモモじゃないみたいだよ」
イニグとナオは、ほっとしたように力をぬいた。
どうやら『島ヘビ』が巨大化したと聞いて、テモモのしわざじゃないかと疑うのは、キエネだけではなかったようだ。
なにしろ船を簡単に沈めるくらいの年よりだもんな、とおもいながらガットは続ける。
「 ―― 大型船を人間からのっとった《魔族》がそれにすみついて海を漂ってるっていう噂がこのごろある。つまり、住処ごと、つねに移動してるってことだ。これがほんとうなら、気まぐれでこの近くにきたそいつが、おれたちをからかうためにしかけたとも考えられるってことだ」ガットはくちにしながらも、その確率は低いと考えている。
あのヘビがもし《魔族》によってつくられたものなら、船をひっくりかえしたら、そこからこぼれた人間をかならずのみこんでいるはずだ。
つまり、いまのところ島ヘビに魔術をかけた相手は、不明のままだ。
「おれたち《ウミ》があのでかい島ヘビをさがしまわったが、どこにもいなかったし、そんな《術》をかけられたようなヘビもみつからなかった・・・」
キエネが納得いかないように握った拳をにらむ。
「《術式》がばれないように、つかったヘビはそのまま海に捨てちゃうよね。 あたしだったらそうするもん」
ラーラが指先でなにかはじきとばすようなしぐさをする。
「まあ、だれがしかけたにしろ、おれたちがまた海に出たらまたその島ヘビがでてくるかもしれねえし、あの船が沈められたときの魔力がまだあのあたりに残ってるんで、《海の魔獣》をよびやすくなってるんだ。 明日また出て、シードラゴンがまたきたら、おれたちはそれを退治して、『船を沈めたのはこいつでした』って報告をする」
ガットがそう宣言すると、イニグは、やった!と両手をあげた。
ナオは《勇者一行》にくれぐれも気をつけるように心配そうな顔をむけ、カテカは「おまえたち、海の上でも戦えるのか?」とガットの顔をみた。
「こいつらたいしたもんさ。じゅうぶん戦える《勇者一行》だ」
こたえたのはキエネだった。
カテカは目だけをキエネにむけると、ガットにめをもどし、「そうか。『じゅうぶん戦える』のか」とわらった。
「 ―― いや、じゅうぶん戦えるなんてねえよ。 あんた、よかったら協力してくれねえか?」
「おれが?」
「ダメだ。カテカは《ヂガミ》だぞ。海にでるのに、あんたたちが《ウミ》たちといっしょがいいって言ったんじゃないか」
とつぜんイニグが立ち上がり、ガットのまえで両手をひろげた。
「おれはべつにいいけどな。外の国の人間が、どう戦うのかも見たいし」
「カテカ!」
イニグは裏切られたような顔をふりむけた。
「そっか~、そうだよねえ。カテカは外の国にもまだ出たことないんだし、こういう機会めったにないもんねえ」
ナオがうなずくと、「いいんじゃない?」と立っているイニグの背をたたいてすわらせた。
「もしかしたら、また島ヘビの化け物が襲ってくるかもしれないし、シーワームにシードラゴン、オルカとかのでっかい生き物がいっぺんにくるかもしれないもんね。そしたらリミザたちだけじゃ大変だろうし」
ナオがなまえをだしながら立てた三本の指をみたリミザが、なるほどなあ、とうなずき、「一種類につき一匹ともかぎらないしなあ」とさらにいやなことをくちにして、仲間から刺すような視線をもらった。




