交渉
2.
《商人》ガリオーは、ほくそ笑んでいた。
「 まあ、そういうわけで、これくらいですかな 」
港の酒場のなかでも上等な店にあいてを連れてきて、まあまあな酒をのませ、この国の港についての歴史と船の関係を一通り説明してやったうえで、指を立てて金額を提示してみせた。
「 ―― ふうん、それ、ゼロがいくつつくんだ?」
相手のその問いに、いっしゅん、眉をあげてみせてから微笑む。
『おや?きみはちゃんと数を数えられてすごいね』という意味の微笑みだが、相手はきっと、『商談』上でのあいそ笑いとでもとるだろう。 まあ、どうでもいい。
「七つになります。共通通貨でね。 ああ、でもあなた方が、もし《王様連盟》から金塊や宝石なんかを渡されているのなら、そういうのでもかまいませんよ」
そう。いまはなしているこの若造は、王様連盟から依頼をうけている《勇者一行》なのだといって、港ではなしかけてきたのだ。
いままでもなんどか、《勇者一行》を船にのせてやったことはある。
まあ、海に巣くう魔獣や魔物を退治してくれるなら、『協力してやろう』という気になるが、そこは商人魂が邪魔をして、『無料で』という気持ちには、決してならない。
ならないどころか、何度か船の世話をしてやるうちに、この《勇者一行》が、いい商売相手になると気づいてしまった。
いまだに家業をついで《勇者》や《戦士》などを生業にしている者にかぎっては、代々ためこんだ金やお宝などで、いわゆる上流階級の暮らしをしているものがほとんどで、世の中の経済になど、ほぼ関心がない。 いっしょにいる《魔法族》も、長く生きすぎていて、人間の暮らしには興味をしめさないし、《賢者》などは、教会でずっと質素な暮らしを続けてきたおかげで金銭感覚が普通ではなくなっており、金のはなしには口をだしてこない。
結果として、たいていの《勇者一行》では、《勇者》が代表して、船にのるための交渉をしようと、《船乗り》に声をかけてくる。
だが、この港に集まるほどの大型船になると、船は商売をしている『商人』のものであって、《船乗り》はその商人にやとわれている身分だ。船に勝手に人をのせた場合、その船乗りは罰金を課せられて、このさきずっとタダ働きになるか、気の荒い商人が船主だったばあいは、海に捨てられることもある。
つまり、この港にきて船に乗りたい《勇者一行》は、《商人》をあいてに交渉することになるのだが、たいていの《勇者》は、商人と交渉などしたことがなく、こちらのおもいのままの値ではなしがつく。
まあ、むこうも、船を使ったときの代金は船主から《王様連盟》に直接請求されるので、どうでもいいとでも思っているのだろう。




