迎え
「 ああ! やっとみつけた! 」
広場のむこうから髪のながい女が少年をゆびさした。おこったように大股で近づきながら、「どこにいたのよ?ずっとさがしてたんだから・・・・ ―― だれ?」
女はこちらにゆびをむけて眉をつめ、目をほそめた。
「あ、この人がさ、これ買ってくれたんだ」
少年が二人の間にある焼き菓子の詰まったカゴを女にみせる。
「 あ、いや、 おれは、 ―― 」
名乗れば、ちょっとは知られた《勇者》なので、驚かれるだろう。
少年はこの国には初めてきたと言っていたし、この女と観光しているのかもしれない。
「 ―― パロネスだが・・・、おれがひいきにしてるパン屋ですごく悩んでるこの子をみかけてね。お節介だとはおもったんだが、ついおれのオススメを、・・・・」
ここで、女がこちらにむける視線に気づいた。
それとともに取り出した杖も。
この女、《魔法使い》か。しかも、いま一瞬もれでた魔力に鳥肌がたった。
《魔法使い》の女はひどく冷たい眼と声をむけてきた。
「 へえ。 あんたが、 こんなにたくさんのお菓子を? 『お節介』で? 『この子』に? ―― いっておくけど、『この子』、成人年齢越えてるし、さらって船にのせたところで、船酔いで吐きっぱなしだし、性格もあんたがおもってるほどかわいくないわよ」
「さ、『さらって』!? なにをいってるんだ?おれは、ただ、」
「はいはい。 まあ、手は出してなさそうだし、未遂ってことで見逃しとくわ。こっちも忙しいから。ほら、リミザ、もどるわよ」
女は少年のうしろくびに杖をかけてもちあげた。
「ちょっとまってラーラ、もらった焼き菓子を、」
「知らない人からもらわない!」
女が叱責すると、かなしそうな顔の少年はいそいで両手でつかみとった菓子を服の中へかくし、パロネスにわらって手をふった。
《魔法使い》の女が杖の頭で少年の背中をたたき、ほかの連れが怒っている、とせかす。
広場のひとごみに二人がきえてゆくのをみおくりながら、パロネスはなつかしい気持ちで笑いだしてしまった。 じぶんも子どものころ、老女たちが自慢のお菓子を持ち寄るお茶会にいりびたっていて、姉たちがよく、ああやってむかえにきてくれたものだ。
「 ―― 《天啓》にしたがってみるか・・・ 」
後年、パロネスは自書の朗読会あとのトークショーで、こう語るようになる。
「 ―― あの、パン屋で出会った少年にいわれてはじめて気が付いたんだ。 ひょっとしておれには『才能』があるのかもしれないってね。そう、『お菓子を愛する才能』だよ。 あの少年のように、おれもずっと、『おかしが好きだ』って、あんな笑顔でいってみたかったんだ」
《 勇者パロネスによる『勇者という家業をすて、おれがなぜ、菓子職人という道をめざしたの』 朗読と楽しいお茶会 サニーヒルホール講演より 》




