天啓
「 ―― でもさあ、店をでて自分で買ったもんをぜんぶくれるって、あんたほんとにあの店のサクラじゃないの?」
じっくりと煮詰め、種をとりのぞいたチェリーがたっぷりとはいったパイを満足げにたいらげた少年は、口のはしと両手についたパイのかけらをはらいながら、まだ疑っているような目でこちらをみた。
街中の見晴らしのいい広場でいっしょに食べようとさそうと、なんの警戒もなしについてきたくせに、ずいぶんと子どもらしくないことをきいてくる。
「 いや、あの店にはよくいくが、見た通り、あのパン屋はあの年寄り夫婦でやってるんだ。いまでも、きみやおれのように、《隠れた名店》として見つけて、通う客は多いし、店主はこれいじょう客がきてもこまると言ってたよ」
「そうなんだ。《隠れた名店》なのか。あんな目立たないところにある店でも、儲かってるんだ」
またしても、こどもらしくないことをいう。
「 きみも、なにか気になったからあの店にはいったんだろう?窓からのぞきみえたパンの焼き色とか、焼き菓子のあまいにおいにさそわれたとか」
「おれ? いや、このにぎやかな広場からもちょっと離れてたし、めだたないところにある店だったから、あんま人が通らないかなーって」
「なんだ?買うのをみられるのが恥ずかしかったのか? わかるぞ。おれもきみのとしぐらいのとき、店で真剣にお菓子を選ぶのがひどくカッコ悪い気がして、何日も前から考えて考えて、いかに早く迷ってないふりで買うか、商品の配置と店内の動線まで考えて、」
「あー、ちがうちがう。恥ずかしくはないよ。だってさ、楽しいし、すごい幸せな時間じゃない?まよってえらんでるときってさ。おれ、お菓子すごい好きだから」
少年はここで、はじめて年相応の無邪気さをみせていい笑顔をみせた。
「だからさ、あんたみたいにじぶんの才能でお菓子つくれるひとって、ほんと尊敬しちゃうよ」
「 ・・・そ、そうか・・・。『才能』か?」
「そりゃそうでしょ。あんたがつくったものを見たり食べたってわけじゃないけど、お菓子にたいするその熱量、普通じゃないよね。 あのパン屋での商品説明とか、パン屋のおやじさんも『うれしい』って顔とおりこして冷めた顔してたし」
このあたりからあいての《少年》の言葉を《勇者》パネロスはきいていなかった。
なぜなら、彼はいま、『天啓』だと錯覚した『衝撃』をうけて震えているところだったからだ。




