シードラゴン
くっそ だから水のなかは
目をはなさずいにいたむこうの砂地が、下から風をふきこまれたように持ち上がったとおもったら、まいあがる砂をまとったその赤茶色の物体が、勢いよくこちらへのびた。
ここで、
①ラーラも気配には気づいただろうが、水のなかではどうしても反応がおくれる。
②だが、ガットとちがってラーラは水のなかでも魔法術がつかえる。
③いままでも水棲の魔物に何度か出くわしていたが、ほぼすべてラーラのおかげで助かっていた。
④この島ではいつもの魔法はつかえないだろうが、ラーラならどうにかするだろう
⑤とにかく、この赤茶色の物体は、シーワームだ
以上の条件が順番にガットの頭にうかび、かなり油断していたかもしれない。
シーワームはどこの海にも棲んでいるミミズのような節のある巨木の大きさの生物で、海底の砂地に身をひそめている。その生物がいま、ながいからだをラーラへのばしあげた。たぶん上からかぶさってラーラを飲み込むつもりだ。産卵期のシーワームはこんなふうに攻撃性を増すが、人間を食べることはできないので、すぐに吐き出す。
思った通りラーラの頭にシーワームのくちが吸い付こうとしたとき、 シーワームのからだがすごい勢いで横へひっぱられた。
ガットは油断していたことを悔やみながらラーラへ腕をのばし、水をかく。
ラーラも気づいたようで、杖をとりだした。
するどくはやく水をきる泳ぎ方で、くちにシーワームをくわえた《シードラゴン》が、ガットの背後をすぎていった。
あらためて、シードラゴンのでかさを思い知る。
《シードラゴン》のからだは小さな前足で後ろ脚が発達し、からだは鱗におおわれて、山に巣くう火を吐くドラゴンとよく似ているが、顔はもっと細くて首も長く、エラを持ち、背中の背びれは、加速して泳ぐのに適した太くながい尻尾のさきまで続き、尾びれまでしっかりある。
ほぼ海の中で暮らすが肺呼吸もできるらしく、産卵は岩場に海藻をあつめた巣でおこない、その産卵期に攻撃性を増すのは当然だ。
シーワームをのみこみながら、その目がガットとラーラを確認している。
もちろん、シードラゴンは人間も食べることができる。
ラーラがガットに、上へあがれと指で示す。
まあ、たしかにガットが囮になるかたちで上をめざせば、それを追って隙ができたシードラゴンを、ラーラがどうにかできる。
上にあがろうとしたら、とたんに目をみひらいたラーラが両手をクロスさせた。
なにか新しい魔法術におかしいポーズをつけたのかとおもったが、すぐにガットも気づく。
水をきって泳ぐものが、すごいいきおいで近づいてくる。
シードラゴンがもう一匹だ。
まずいことになった、とラーラと目をかわす。
ラーラの《魔法術》に制限があるいまの状態では、ガットを一気に水からひきあげることも、一瞬で防御することもできない。
ガットは間抜けなことに、塩水につけたくなかった小剣を船に置いてきている。
判断はすぐについた。
さっきのシーワームのときより条件は少ない。
①まぬけなおれはなにもできない
それしかないなら、せめてあたらしくこちらにむかってくるシードラゴンの気をこちらにむけるだけだ。
からだをシードラゴンへむけてから、ラーラから離れるように横へとおよぐ。シードラゴンは、軌道をこちらにそらした。
後ろの方ではもう一匹のシードラゴンとラーラが戦ってるだろう気配と水音がするが、そんなもの気にしている場合じゃない。
すぐそこまできたシードラゴンが、ふいに首をよこにまげた。
あれは長い口先を勢いよく獲物に振って当ててよわらせる、捕獲行動だ。
前に戦ったことはあるので、知識だけが先行する。
だがいまは、あのときのように水の中でも自在に動ける魔法術もかかっておらず、なにも持っていない。
真横にふられた大きなくちをよけるのに精いっぱいだった。
水圧で押され、つぎにそなえての体制がすぐにとれない。
一度とおりすぎ、反転したシードラゴンは、またすぐに来るはずだ。
こちらもからだを反転させ、向かってくるだろうほうに顔をむける。
もうすぐそこに、
シードラゴンのながいくちさきがひらいてあった。




