沈んだ船
16.
輪郭がすべてぼやけたようなそれに近づいてゆくまでもなく、ところどころに岩棚がある以外は、大きく無骨なものなど存在しないこの海の中で、それが違う世界から放り込まれたものだとわかる。
ガットはもぐる寸前、ラーラにくちにつっこまれた魔法道具のおかげで息ができたが、それをずっと噛んだままでいろという命令を、やぶりそうになった。
沈んだ大型船よりむこうがわ。ちょうど砂地がひらけた場所に、この船をすすめるために立っていた大きくながい立派な柱が、ほんとうに『つきささって』いたからだ。
とまどっているガットとはちがい、ラーラはその柱へと先にむかう。
近づいてみた柱の上の部分は、それこそ巨大な槌で打ったように、柱の角がすべてつぶれ、割れてはいないが、まっすぐ縦に亀裂がはしっている。他の二本の帆柱は、沈んでいる船体についたままだった。
ラーラは刺さった柱にふれながらひとまわりしてから、ガットにうなずいてみせた。
二つにわかれて船が沈むあたりには、まだどうにかひかりが届いている。このあたりから、海底に岩場が多くなり、むこうには切り立った崖のような岩場が見えた。
キエネも言っていたが、『シ』と『ゴ』の島の西側では、とつぜん深い場所がはじまるらしい。もし、あの崖のむこに船がいたときに攻撃をうけていたなら、こんなふうに陽の明るさをたよりに沈んだ船をみることはできなかっただろう。
どうにか、という感じでとどく光の量だが、巨大な船体内のわかれた層や舵につながる仕掛けが見て取れるほどで、積んでいて持ち出せなかった樽や袋に入った荷物、まるでぶちまけたようにちらばる木材と布類があたりの崖の上や岩につみあがり、砂がまさった砂地の底には、船室にあったであろうランプや食器などが散っているのがみてとれる。
むこうとこちらの二つに分かれて沈んでいる船体の残骸を、ラーラと二手にわかれて確認することにした。
船の中に入る必要はない。ラーラはつかわれた魔法術がどういうもので、どう働いたかをみればいいし、ガットは本当にささっている帆柱をみたときから、こんなことができそうな海の魔獣をどうにかひきだそうと考え続けている。
近くの様子もみて、もう、ひきあげようと、ガットがラーラのほうへより、上にむかってゆびをさしたときに、その《気配》が、海底の砂地を『はしって』やってきた。
まにあわない
肌で感じたガットはラーラのほうへ、ひとかきしたが、おそろしいくらいにゆっくりとしか、からだがうごかせない。悪態をつきそうで口から泡がこぼれる。




