もぐってみる
15.
「 これはつまり・・・、 ―― 誰かが『島ヘビ』に魔法術をかけて、おれたちを襲わせたってことになる」
立ち上がったリミザが指を一本たてた。
「船が揺れるからいちいち立つな」
ガットが注意すると、リミザは指を立てたままゆっくりとしゃがんだ。
船の中にたまった水はラーラの魔法ですぐになくなり、そのまま調査を続けることになった。
「『誰かが』なんて・・・まさかまた、・・・」
船を漕ぐキエネは落ち着きなくずっとあたりをみまわしている。
「そうね。でも、さっきのヘビにかけてあったのは・・・、うちらの『魔法術』に近いとおもうわ・・・」
ラーラがなにか思い出そうとするように目を閉じて眉をよせると、リミザの肩に頭をのせた。
「と、いうことは、海の魔獣の《変形》ですか? もしくは、このあたりの魔族ではなく、海を支配している魔族が、このあたりまで出てきたか」
ラフィーがガットをみる。
「『このあたり』まで?そりゃねえだろ。 〈海の魔族》の住処は、ホルス共和国のほうの海だぜ?」
首をふったが、さきほどの『島ヘビ』をおもいだすと、ガットでも言い切れないような気がした。
キエネによると、『島ヘビ』は普通の大きさの蛇だ。それがまるでシーワームのような大きさになる魔術をかけられる魔族が、このあたりにいるのか?
ハバーツ王国の港があそこまで栄えているのは、隣の大陸との航路上に、ハバーツ王国との親交が深い、アミール王国があるからで、アミール王国は軍隊を自慢とする国だ。兵器も自国の《魔法研究所》と協力しているため、かなり強力なものがそろっており、そのむかしの魔族との戦いで、このあたりの海から魔族を追い払ったのは、アミール王国だと伝わっている。
なので、まだ今でも海に巣くう魔族がいるのは、ホルス共和国の近くだけ。・・・のはずだ。
「あの『島ヘビ』、ほんとうのかたちとはすこし違っていたが、無駄に暴れなかったな・・・。たしかに、おれたちの《術》とはすこし違うものだろう・・・。だが、このあたりでは、外の国の魔法術はつかえないだろう?」
キエネの問いに、ぱちりと目をあけたラーラが勢いよくキエネへとからだをむける。
「そう思う?じゃあ、さっきキエネが浮かんだのはどうして?」
「 あ・・・ああ・・そうだ。なんだか下から押されたみたいになって白い靄みたいな・・・浮いたのは、・・・そうか。そうだな・・・。あれは・・・あんたの《術》か・・・」
にやにやとするラーラの顔をキエネが不思議そうに見た。
「そうでっす!あれは、ここにきてから少しずついろんな術式をためして、キエネが海の中につくった『膜』をあたしなりに解釈して、応用した、あたしの魔法術でっす!」
どうだ、というように誇らしげに胸をはるラーラに、リミザだけが感心して拍手をおくる。
「あっ!そうだ!リミザに黒いハネがあったぞ!」
思い出したようにさけんだキエネが指をさす。「そうか。・・・あれもその、ラーラの《魔法術》というわけか・・・。 いやあ、やはり外の国の《術》というのは・・・いろいろなものがあるのだなあ」
「いや、あれはおれっ む」
「そうなのよー。ただしアレは、リミザにしか、かけられないのよー」
リミザのくちをガットがおさえ、ラーラがそれをおしのけるように両腕をひろげてみせた。
「ともかく、さっきのヘビの気配は感じ取れる範囲からはなくなったので、しばらくはもどってこないでしょう。用心し続けてもしかたないですし、さっさと調査してもどりましょう」
すでに、テモモが船を沈めたというあたりについていたので、ラフィーが急かすのも無理はない。
原因はわからないままだが、ヘビはもう去ったのを、ガットもラーラも感じていた。
ただ、キエネだけがまだ、落ち着かない。
「いちど、もぐってみるか」
ガットが服をぬぎ小剣のさがった腰のベルトをラーラにわたす。いつもの剣は潮風にあてるのもいやで、置いてきてある。ブーツをぬぐとそのまま飛び込んだ。
一度浮かんで船をみると、ラーラも服をぬぎ、騎士団が鎧用で着る下着の袖をなくしたようなものを着て、髪をゆわきあげていた。
「あたしもいく。残骸とか跡があったらみたいもの」
「ふたりとも、気をつけてよ~。あんなヘビがでたんだから、ここの海、ほかにもなにか、みたことないような魔獣がいるかもしれないよね」
どこか楽し気にあごをあげて微笑む《クソリミザ》をラフィーが後ろから海に蹴落とし、「溺れる!助けて!」とさわぐリミザの声をききながら、準備をととのえたガットとラーラは同時にもぐり、ぼんやりとしたひかりがさしこむ水をかきわけ、船が沈んでいる底をめざした。
目をとめてくださるかた、おつきあいくださっているかた、ありがとうございます!
ここらで半分です。。。




