《話し合い》は終わり
「 ―― それって、ただ単に、魔力をつかいこなせてないだけでしょ」
リミザを黙らせた片手を振り払うようにして、ラーラが冷たい目をイニグにおくる。
「そうですね。それなりの魔力があるのなら、それを使いこなせるよう自分を鍛えていかないと。 外のこちらでは、《魔物》につけこまれるという危険があります」
ラフィーも同じようにイニグをみた。
「う、うん、そ、 それは、わかってる。 ぼくも、 がんばってるんだ 」
責められたようになったイニグはどもりながらナオをみるが、やはりナオには無視されたままだ。
ガットはおもわず立ち上がった。
「いいか、このさき外の国と交流していこうと思うなら、まず、《ヂガミ》同士で、もっとよく話し合え。 テモモがイニグにあとを譲ったとしたって、このままじゃこの国はずっと変わらねえぞ。 まずは、これからどうしたいかを話し合ってそれを、ここの民みんなで共有して、どうすればそれがかなうかをよく考えるんだな。 ―― おれたちはこの依頼をやることにしたが、この先おなじようなことが起こっても、『同じ手』は通じねえぞ。 だいたい、あんたらが沈めた船には用心棒の戦士くずれのやつしか乗ってなかったみたいだが、船には魔獣や魔物対策で、魔法使いをのせてることが多い。船主の国が短気なら、へたすりゃ兵隊つれて乗り込んでくるぞ。外の国の船がこの国の島のそばへ来たっていうなら、それを歓迎するぐらいの気持ちじゃねえと、このさき交流なんてとても無理だ」
言い切ったガットを、くちをあけてみあげるイニグと、顔を真っ赤にして怒りをあらわすナオをみて、言い過ぎたか、と反省するがもう遅い。カテカは腕を組み、なんの表情もなく《ウミ》たちをみわたしている。
そのガットの肩をいきなり勢いよく椅子から立ったリミザがたたいた。
「まあ、まあ、なにもガットは文句をつけてるわけじゃなくて、この国の問題について、ナオたち《ヂガミ》が、ちょっとゆるく考えすぎってのを指摘してるだけなんだって。いままではずっとこの島の中でなにも考えないでやってきて、これからさきも、島にいるかぎりなんの問題もないって思ったんだろ?だけどそうはいかないって。いくら謎の国アチルゴだからって、もう《王様連盟》にはいっちゃったんだから、謎は謎のままってわけにはもういかないよ。これからは《王様連盟》かんけいの書類が増えて大変だとおもうよ。《王様連盟》に加入するためのにアチルゴに関する書類とか整えるの大変だったろ?って、あ、ナオたちは知らないか。そういうのもぜんぶキエネがやってたのかな。じゃあさあ、船が沈んですぐに《王様連盟》から経緯を確認する書類が来たろ?アチルゴ国からまだなにも連絡してないのに。それは見た?」
立てた指をむけられたナオとイニグは、お互いの顔をみてからゆっくりうなずいた。
その様子にラフィーがため息のようなものを出してから言った。
「そういうことです。国をひらいたのですから、これからは相手があるということです。船を沈められた船主の国が、すぐに《王様連盟》に連絡したのでしょう。外の世界はそういうことになっているのです。あなたたち《ヂガミ》はこの先、もう少し《ウミ》たちから学んだ方がよさそうですね。 ―― わたしたちはなにもキエネたち《ウミ》に、なにかふきこまれてこんなことを言っているわけでもなく、もちろん、この国の内情によけいな口をはさむつもりはありませんが・・・、とりあえず、外の国からきた者としては、現状、あなたがた《ヂガミ》より、《ウミ》たちと、《海の魔獣退治》がしたいということです」
ラフィーも立ち上がり、法衣の胸当てをおさえるようにして一礼した。
ラーラもたちあがると、すこし考えるようにくちをまげてから、ナオに手のひらをさしだした。
「ナオたちが悪いんじゃないと思う。ずっとそういうふうに育てられてきたんだし、自分たちの種族に誇りをもってるのよね。 ―― でもね、まずは国の中でみんな力をあわせないとね。あたしたちも今回は協力するから、この先っ」
パン
とラーラの手をナオがいきおいよくたたいてはらった。
「わああああ、ラーラー、暴力反対!」
ラーラが動き出す前にリミザが速攻でうしろから羽交い絞めにし、ガットとラフィーがラーラの左右の腕をとって、てひきずるようにして《勇者一行》は帰っていった。
のこったアチルゴの民のなかで、キエネが立ちあがるとほかの《ウミ》たちも立ち上がり、みな口も開かずに帰りだす。
ひとりだけ残ったキエネが、イニグの前に立った。
「イニグ、悪く思うな。客人たちだって、おまえたち《ヂガミ》の顔をつぶそうとおもったわけじゃない」
「 ―― ぼくの前に立つな。許さないからな」
《勇者一行》がいたときとはちがい、はっきりとした声でいいはなったイニグは、キエネをにらみあげる。
「イニグ、落ち着いて。・・・とにかく、リミザたち《勇者一行》が選んだことなんだから、しかたないよ・・・」
ナオが椅子の上で膝をかかえてすわりなおし、両手の拳をつよくにぎりなおす。
「どうして!?そんなのおかしいよ!そりゃ、ぼくが動揺しちゃったのは悪かったけど、でも、いまのこれがおかしいんだ!ぼくはみとめない! あ、そういえばカテカからきいたぞ。ナオはあの髭の男が好きかもしれないって。そうなのか?あんな汚らしい髭面が?いきなり立ち上がってあんな無礼な事いいだすやつがいいって?」
隣の椅子から身をのりだすイニグを面倒そうに押し返したナオは、うしろにいるカテカを一度にらんでから、キエネをみあげた。
「《勇者一行》がテモモに会いたいって言ったら、どうするの?」
「無理だろう。お前たちにも会えないくらいなんだ」
キエネはわかっているだろうというように息をつく。
ナオは立てた膝のあいだに息をおとすようにうつむいた。
「しかし、あの年で船を沈めるなんてほんとうに驚いたな」
キエネのこの言葉になにかをいいかけたナオより先に、イニグが立ち上がる。
「じいちゃんをなめるな!あんなもんたいしたことないんだからな」
「ああ、そうだな。だが、だからといって船を沈めるとはなあ・・・。 いや、いまごろはきっと、さすがにやりすぎたと思ってるだろう」
すこしわらうように腕をくんだキエネの前に、椅子の後ろからでてきたカテカが立った。
「テモモはいつだって考えるのはあとだ。いや、代々の長たちみんながそうだった。それのせいでおれたちはここに取り残されてる」
どこか他人事だというような笑みをうかべてから、キエネをみた。
「 ―― あの《勇者一行》は、すっかりおまえのことを信用してるみたいだな」
「だからなんだ?」
「いや、おまえといっしょに行動する《勇者一行》がどんなものかみておくさ」
むかいあうキエネに挑戦するような目をカテカはむけた。




