『しなくてもいい依頼』
「なに?なんでもいってよ。国は閉じてたけど、共通の通貨ならあるし、本当の《魔獣退治》でもらえるほどは出せないけど、《お礼》はそれなりに出す用意はしてあるから」
「金じゃねえ。ここから先、おれたちはキエネたち《ウミ》といっしょに行動する。それをあんたら《ヂガミ》に認めてほしいってだけだ」
「えっ!どうして《ウミ》たちと?あたしが案内するって」
「いや。このあたりの海を知り尽くしてるのは、《ウミ》たちだろ?《王様連盟》に出す報告書のために、細かいところまで知る必要がある。巨大化されたタコとかウツボの『魔獣』のせいにするなら、船の壊され方も種類によって違うし、このあたりの海で、それが本当にどのへんにまで来るのかなんてのも調べねえとならねえ。いっしょに調べるなら《ウミ》のほうがはなしがはやいだろ」
「まあ・・・。うん、そうだけど・・・。でも、依頼したのはあたしたちだよ」
「しなくてもいい『依頼』をな」
「そうだけど・・・。しかたないじゃない・・・だって・・・ おじいちゃんが・・・」
いきなりナオの声がふるえだし、くちもとに手をあてる。
「あー!あー!あー!ナオを泣かせた!ナオを泣かせたな!」
とつぜん、大声でさけんだイニグが立ち上がり、ガットに指先をむけた。
バン!
ガットの目前でなにかが当たって弾け散った。
「 落ち着けイニグ。今日はテモモたち長老はいないんだぞ。客人が怪我してこれいじょう大ごとになったらどうする? カテカ、おまえがここで一番年かさなんだから、おまえがイニグをなだめなきゃいかんだろ」
立ち上がったキエネが、ガットに「だいじょうぶか?」ときくと、椅子の下にはさんであった薄い木の札をたしかめた。札は二つに割れている。
「もしものことを考えて札を仕込んでおいてよかった」
「ご、ご、ご、ごめん、ごめんなさい、ぼく、ぼく、わざとじゃなくって、」イニグがまた聞き取りにくい小声にもどり、ガットにあやまる。
「なんだ、イニグ。またキエネに助けられたな。これであの《戦士》が負傷してたら、この国も終わりだったろうよ。わざとだろうとそうじゃなかろうとな」
カテカが、イニグの椅子の背に上半身をのせ、にやけた顔をキエネにむける。
「やだあ~、ごめんね~。イニグってちょっと怒りっぽいのよ。リミザみたいに人が変わったみたいになっちゃうの。 リミザならわかってくれるよね?いまの、わざとガットを狙ったわけじゃないんだよ」
泣きかけたのがうそのようにナオがイニグの肩に手をのばし、なだめるようになでながらリミザをみた。
「 あ~、わかるかも。 要は、《魔力》をもてあましてるから、そういうことになっちゃうんだろ?そうなんだよなあ。おもってもみないところで、ほとばしりでちゃうかんじ?おれもさあ、ちょっとまえにそういうのあじわったよ。でもあのときは、こう、空から落ちる落下の現象もうまいこと組み込んでみようと思ってさあ・・・」
あごをうわむけたリミザが、立てた指を二本額につけ、なにかを思い出そうというように目を閉じる。
そのあいた喉元に、ラーラの手刀が真横にはいり、「 っ ごッ 」と声にならない音をだしたリミザはのけぞるように椅子の背にもたれ、反動でだらりと両手が下がった。




