ぶつける
「はあ?どういう思考だよ」
いらついたガットはおもわず髭をひっぱった。
「いっただろ?おれたち《ウミ》は海になげだされた人間を助けてきた。だがそれはみんなハバーツ王国に送り届けてやって、決してこの島には入れないようにしてる。『島の外からの者をいれるな』って言葉どおりな。 だが、《ヂガミ》たちはそこをあやしんでる。おれたちが見落としただれかが、島にはいり、《禁樹》で『病』をばらまいたんだろうってな」
「いいがかりじゃねえか」ガットは髭を一本抜いて、いらついた気持ちをそれでおさめようとした。
「まあ、でも、《ヂガミ》たちがそう思いたいのもしかたがない。『祈祷』する前、『病』で最後に亡くなったのは、ナオの両親で、テモモの息子夫婦だった。テモモがどこかに怒りをぶつけたい気持ちもわかる・・・」
「え~?おれはわかんないけどなあ。だって、テモモが船を沈めたのって、その怒りを、船にぶつけたってことだろ?」
リミザが、からだと首をかたむける。
「そうだよなあ。 さっきあんたが言ったみたいに、その船がこの国を攻めにきた脅威だと思って沈めたとはおもえねえ。 その『病』だか『呪い』を、外から入ってきた人間にばらまかれた腹いせに沈めたって感じだな」
ガットは抜いた髭を指先から弾いた。
「わたしもそうおもいます。しずめた船は『結界』の中にはいっていたのでしょう?つまり、わざと結界をなくして船を入れたってことですよね?」
ラフィーも腕をくんで険しい顔をする。
「そっか。『島を見えないように』って、その『結界』の《魔法術》なのね・・と、いうことは・・・」
ラーラは拳を顎にあてながらぶつぶつとつぶやいている。
キエネはそれらにこたえをかえせないように、頭をかきながらくちごもる。
「 それよりさあ、おれたちをこんなところへ移動させて、こんな話ししちゃって、キエネは大丈夫なわけ?っていうか、おれたち、これからどうなるの?」
不安そうな言葉とはまったく合わない楽しそうな顔でリミザが《膜》のむこうの海の中をみまわす。
陽射しがじゅうぶん届く深さではあるが、かなり大きな魚もときどき通りすぎ、そのたびに歓声をあげている。
キエネはようやく背すじをのばした。
「なに、おれは大丈夫だ。あんたたちには、このまま協力してほしい。おれはただ、あんたらには先にほんとうのことを伝えておいたほうがいいと思ったんだ」
「『ほんとのこと』なんて聞きたくもなかったけどな。だいたい、『協力』もなにも、《海の魔獣》がいねえなら、おれたちがやることなんてねえだろ?」
ガットが顎をかく。
「そうですよ。このことは外でしゃべりませんから、はやく帰してください」
ラフィーがみけんをもんでめをとじる。
「え~、もうちょっといてもいいじゃない」
「おれも、もっとここいたい」
ラーラとリミザは並んで『膜』をつつき、すぐそこを泳ぐ魚にみとれている。
「いや。おまえたちにはここでしっかり仕事をしてもらう」
いやにはっきりとキエネが言った。
「おれたちは《王様連盟》に加入したんだから、近くで船が沈んだらその原因をしらべて《王様連盟》に報告しなきゃならん。それが、《アチルゴの国王》をやってるテモモがやったなんて報告できるわけないだろう?だから、おれたち《ウミ》は、繁殖で出てきたシーワームが船を沈めたってことにすりゃいいって言ったんだ」
「シーワームって、あのでっかいミミズみたいな?いや、あいつらおとなしいし、ムリでしょ」
めずらしくリミザが常識的判断をすみやかにくだす。
「いや、繁殖行動してるときは、なかなか狂暴になる。 それがダメそうなら、迷いこんだオルカあたりのせいにしようとおれたちは考えてた。 なのに、ナオたち《ヂガミ》が《海の魔獣》をもちだして、それの《退治依頼》を《王様連盟》にだしちまった」
キエネが大きく息をつく。




