外の様子
10.
「 テモモたちの世代は、だれも外の国にいったことがない。だから近くを通るようになった大型船は、ここを攻めるための船だと思ってるんだろう」
キエネはぼさぼさの頭をかいた。
「『行ったことがない』って・・・、一番近くのハバーツ王国にもか?」
ガットがあきれたようにきく。
リミザが首をまげて「ハバーツ王国?」というのに、「おまえが迷子になってたでかい港のある国だ」とガットがこたえてやる。
「おお、あそこか。なんだかいろんな人がたくさんいる国だったけど」
「港街にいたのがみんなハバーツ王国の民ってわけじゃねえけどな。あそこの港は大型船がつけられるから、中継地にもなってるし、商売も盛んだ。あの港をめざす大型船はみんな商売用だろう?」
貿易船ってやつですね、とラフィーがつけたし、大型船って人間の大発明よね、とラーラがうなずく。
「 ああ、そうだ。・・・その、おれたち《ウミ》のほうは、ここでとれた魚や、織って染めた布なんかをずっとながいことハバーツ王国に売りに行ってて、その金で、ここではとれない食べ物なんかを買ってかえって《ヂガミ》にとどけてる。 たから、まあ、外との交流は昔からずっとあったんだが・・・、《ヂガミ》たちは外の国の様子なんて、もう何世代もしらないままだった」
「うーん?・・・なんかさあ、さっきからちょっと気になってたんだけど、アチルゴ国ってこんな閉鎖的なのに、中での《ヂガミ》と《ウミ》の差がひどくね?《ウミ》がハバーツ王国で商売して、買ってきたものを《ヂガミ》にタダで渡すんだろ?しかも兵士だって、・・・なんか、労働に見合わないって言うか・・・」
リミザの意見にガットもおもわずうなずく。
「もしかして、《ウミ》はみんな《ヂガミ》のために働くってことになってるのか? ―― 『力』のつよいあんたが《ヂガミ》に引き取られなかったことといい、ナオがあんたのこと、名前じゃなくずっと『ワニ』としかよばなかったのとか、どうも、おれたち『外の人間』としちゃ、ひっかかることが多すぎるな」おもわず怒ったようないい方になってしまう。
キエネはすこしわらった。
「あんたらが怒る事じゃないだろ。そういう仕組みがこのアチルゴ国だ。 おおむかし、《ヂガミ》がこの島をこの世界に移したからこそ、おれたちがあるんだ。 ―― とにかく、外の国をしらないテモモにとって、大型船の出現ってのは、いきなり現れた《シードラゴン》みたいなもんだった。だからそこで、じぶんの孫たちを外の国へだして、『外』はどうなってるかみてこいって命じたんだ」
「それじゃあ、ナオたちも外の国にでるのは初めてだったのか?」
「いや、ナオは、おれたち《ウミ》のところに小さいころから遊びにきていたんで、外の様子もすこしは知っていた。だが、イニグはすべてが初めて見聞きするものばかりだったから、ひどく驚いたようだ。もどった二人からはなしをきいたテモモがすぐに『イチの島』を外の国と交流するための『いりぐちの島』にすることにして、《ヂガミ》から選んだカテカを『見張り番』としておいた」
「そうか。カテカも《王族》のほうってことか・・・『見張り番』なんていうんで、兵士のほうかとおもったが・・・」 ガットはいいながらも、対面したときにカテカを『王様にしては若い』と考えたのを思い出す。
「まあ、 ―― カテカは他の島からきたテモモの遠縁でな。こどものころは『力』はそれほどでなかったが、十八をすぎてから強くなったので、テモモがここへ呼んだんだ。いちおう《ヂガミ》ということになってはいるが、おれたち《ウミ》とおなじように島をまもるのをまかされている」
「はあ?『まかされてる』ってなんだよ、ようは兵士だろ?『遠縁』ってだけで、ほかの《ヂガミ》と扱いが違うのか?」
ガットのケンカ腰のききかたに腕をのばし、落ち着いて、となだめたラフィーが続けてきいた。
「 ―― たしかに、国内での差が激しいようですが、そもそも、《ヂガミ》である王族って、『いりぐちの島』である『イチの島』にはどれくらいいるんですか?」
キエネはこの質問にこたえたくないように閉じた口端をさげたが、しかたなさそうに、「四人だ」とくちにした。
「よにん?って・・・ちょっと待てよ。それって、テモモとその孫、それとカテカじゃねえか・・・」 うそだろ、とガットは仲間たちと顔をあわせる。
「まってください。この国は小さい島の集まりで、それが24あるんですよね?そこに、『それぞれの島をおさめる』ため《シンデン》をつかえる《ヂガミ》がいるっていいましたよね?」
ラフィーがあせったように確認した。
キエネはさらにくちをまげて閉じたが、また、しかたなさそうにひらく。
「そうだ。・・・昔はそれぞれの島に、《ヂガミ》がいて、それぞれの島をおさめていた。 ―― だが、十数年前からおとなの《ヂガミ》たちにおかしな病があらわれて、かかったものがつぎつぎに死んでいき、いまでは18の島に《ヂガミ》である王族はいない。そこでは残った《ウミ》たちをその島の『ワニ』がまとめて暮らしている」
「なんでよ?だって、あんたたちなら、それなりの《回復魔術》とかもあるでしょ?」
ラーラがにぎった両手をもどかしそうに振る。
「だから言っただろう?『必要』とされれば術は磨かれる。おれたち《ウミ》はめったに病にかからないし、丈夫なんだ。《ヂガミ》たちも重い病になんてめったにかからない。病には昔から伝わっている『薬』をつかってきた。その『薬』も効かずに、ほかのいい手当てもみつからないままだった」
「その病って・・・、報告を・・・してないのか・・・。そのときはまだ、《王様連盟》に入っていないから・・・」
自分の失敗のように顔をしかめたラフィーが額に手をあてる。
「《王様連盟》にはしなかったが、ハバーツ王国にはおれたちが伝えた。あの国で漁師をしているものたちは、アチルゴのかなり近くまで来るからな。昔から漁船が沈めば助けてたが、正体のわからない病が流行ってると知れば来なくなるだろうとおもったんだ。それに、《ヂガミ》はきっと、《外の人間》のほうに近い体質だろうから、うつるかもしれないしな」
そこでキエネはニヤリとして《勇者一行》を一人ずつゆびさした。




