じつは、そうなんだ
キエネはこんど、ガットにからだをむけ、身をのりだす。
「 ―― おれが『ワニ』をひきついだころ、海には大きな船があらわれるようになって、それがまたさらに大きくなってこの島の近くまで通るようになった。おれたち《ウミ》は、それらの船にこの島たちがみえないよう《術》をかけ続けていた」
「ちょっ、『かけ続けて』!? って、それ、むぐっ」なにかを言おうとしたラーラのくちを手でおさえたラフィーが、「あなたがたの魔力でしたら、うなずけます」と先をうながし、ラーラにかみつかれるまえに手をはずす。
「 ・・・ああ。おれたちには『島の外からの者をいれるな』っていう言葉がずっと伝わってるんだ。だから、おれたちはその言葉に従って、外からくるやつらにはずっと気をつけていた。だが、あの大きな船ができてからは、その船がここらの海で沈むと、乗っていた人間が島に流れ着いたりして、『外から』のものを、いれないわけにはいかなくなった」
「だろうな。船から投げ出された者にとっちゃ、流れ着いた島によってその先の生死が決まるだろうし、そりゃ助けてもらえたらありがたい」
ガットも船での魔物退治にでたときに、船乗りにそのたぐいのはなしはきいていた。
「そのころから、《ヂガミ》たちもようやく外の世界を気にしだした。だから、ナオとイニグは、しばらく外の国へ行っていた」
「その、『イニグ』ってのも、王族か?」
さっきから、名前だけが何度かでてくる。
「ああ、イニグもテモモの孫だが、あいつがあとをついで、ここをおさめることになる」
「あ、もう決まってるんだ。それならどっかの国とちがって『後継者』争いとかはないわけだ」
リミザがガットに親指をたててみせる。
「おれたちはそういうのを『力』くらべで決めるからな。はっきりしていて、はなしもはやい」 キエネがうなずく。
「その『力くらべ』って・・・、つまり、『魔力くらべ』か?」
ガットはリミザがたてた親指を逆方向へおさえこみながらきいた。
「もちろんそうだ」
「なら、あんただってすごいじゃねえか。そのイニグってやつと『力』くらべしたら、あんたが『代表』になる可能性もあるわけか」
「 ―― いや。おれは『ワニ』だからな。『兵士』をまとめることしかしない」
このこたえにリミザが、なんで?と首をまげてきく。
「キエネってそれだけ『力』がつよいのに、どうしてこどものとき《ヂガミ》にひきとられなかったの?」
「それは、・・・・」
『ワニ』はひらきかけたくちをとじた。
「 ―― まあ、それよりも、おれたちをここに『避難』させた理由を教えてくれねえか」
ガットのこの言葉に救われたような顔をむけたキエネが、「ああ、そうだな」と背をのばしてすわりなおした。
「・・・おれたち『ワニ』と《ヂガミ》たちでは、意見がちがう。おまえたちに依頼がいった『海の魔獣退治』は、おれたち『ワニ』は、必要ないとおもってる」
「だろうな」
ガットはうなずく。
「でしょ?やっぱほかに魔獣をとばしちゃえばいいんだもんね」
ラーラも納得する。
「ですが、船が沈んだんですよね?対処が間に合わなかったのですか?」
ラフィーが肝心なところを確認する。
「・・まあ・・・、たしかに、まにあわなかった、・・・・」キエネがうつむいて、ぼさぼさの頭をかく。
「あ!わかった!」
リミザがパチンと指をならす。
「なんだかこの流れからいくと、あれだろ? ―― じつはその船、あんたたちが、沈没させちゃったんじゃねえの?そのすごい『力』でさ」
顎をあげてあいてをばかにしたような笑みをうかべたリミザが、鳴らした指の先を、たのしそうにキエネへむける。
リミザの指を逆方向へまげてやろうとガットがつかんだとき、「ああ・・・」とキエネがおおきなため息をついた。
「 ・・・じつは、そうなんだ。 船は魔獣が沈めたんじゃない。おれたちのせいなんだ」
「ほら、あたった~。あたったんだって。ガット、きいてる?おれがいったこと、あたったんだって、ゆび!なんでそんなほうに曲げんの?逆!そっちには曲がんない!いたい!いや、感じないけど、ぜったい痛いやつ!」
ガットが最後まで曲げなかったのは、優しさではなくキエネに止められたからだった。




