おまえたちなら
『ワニ』がなにか考えるようにうつむき、息をはきだす。
「 おまえらに、先にはなしたいことがあった。 ―― ナオは、テモモの孫だ」
「やっぱり、王族だ~」
リミザがパチンと指をならした。
「ああ。《ヂガミ》の家系も、一時はずいぶんと数がふえて、その数だけ島を分けた」
「あ、24もあるってそういうことか」
「そうだ。大昔はそれでよかった。それぞれの島に《ヂガミ》を名乗る《シンデン》の術をつかえる者がいて、島をおさめる。だが、 ―― そのうちに、いろいろ、うまくいかなくなった」
「うん。 ―― ちがう種族がなかよくやっていくのって、たいへんだからね 」
ゆっくりとした相づちに驚いた顔をあげた『ワニ』へわらいかけ、リミザはつづけた。
「『ワニ』って兵士をまとめる役みたいだけど、それってけっきょく『ちがう種族』の《ヂガミ》とやりとりする役目でもあるんだろ?大変そうだよなあ。そういやおじさん、なまえ、なんていうの?」
こどものような素直さで、礼儀も何もわきまえないニ十歳越えの《勇者》がきく。
「 ・・・おれのなまえをきくのか?・・・おれはあんたらの仲間じゃないが・・・」
「え?はいりたい?」
リミザが顔を輝かせるが、むかいの男はすぐに首をふった。
「いや。 おれの名はキエネだ。 ・・・おまえたちなら、ぜんぶはなしていいかもしれない・・・」
《勇者一行》をひとりひとりみたあとおおきな息をつくと、ラーラの顔をみつめ、はなしだした。
「 ・・・まず、先にも言ったが、おれたち《ウミ》は、大昔に海の生き物から人間にかえられたという言い伝えがある。それのせいか、おれたち《ウミ》はずっと、《ヂガミ》であるものたちより低く見られてきてた。 おれたちはただ、島をまもるだけのモノだっておもわれていたんだな。だから、おおむかしは《ヂガミ》の種族とは夫婦になれなかった」
「あ、それ、魔法族と人間もむかしそうだったよ。でもそれって、こっちが人間を低くみてたせいだから、理由は反対ね」
ラーラは立てた指をふる。
「だが、島のなかでは人もかぎられているし、《ウミ》と《ヂガミ》が夫婦になったからといってなにかの罰があるわけでもなかったから、自然と夫婦になるものたちもふえていった。そうしてまざったから、この国の民は、みんな、寿命がながくなったんだ」
「あ~、そういうことね。魔法族と人間は、そこまでまざらなかったからねえ。人間って、相手がじぶんよりいつまでも若いままって、なにか認められないみたい。それで、いっしょになってもあんまりうまくいかなかったってきいたわ」
ラーラのはなしにキエネはなにか納得するようにうなずくと、こんどはラフィーの顔をみた。
「だがな、夫婦にはなれたが、できた子どものことでもうまくいかなかった。さいしょのうち、《ウミ》と《ヂガミ》の子どもはみな、『兵士』にしかなれなかった。そのうちに『術』の『力』がつよい子どもだけが、《ヂガミ》のほうへひきとられて育てられるようになり、それがいまの《ヂガミ》をなのる家の元になったようなもんだ。 ナオはさっき、みんなが《ヂガミ》をあがめるから『力』がついたみたいな話をしたが、そうじゃねえさ。おれたち『力』のつよい《ウミ》とまざっていった結果なんだ」
「それってつまり、・・・兄弟で、『王族』と『兵士』に分かれることもある、ということですよね?・・・なかなか、・・・むずかしい王国ですね」
ラフィーが祈ろうかどうか迷うように、指をうごかしている。
「まあな。だが、アチルゴの島々をまもるのに、『王族』も『兵士』も関係ねえさ」
そこはあっさりと《ワニ》の男は言い切った。
「そうか。ここを『まもる』という目的があるからこそ、こんなにながいあいだ、みんなが同じほうをむき、ずっと変わらずにやってこられたわけか・・・」キエネの明快なこたえに、感嘆というよりも、どこか同情するような息をラフィーがつく。
「ああ、そうだ。 ―― みんなでながいこと、このアチルゴを護ってきた。おれたちアチルゴに生きる者の使命は、この島々をまもることだ。 ―― と、おれは思っていた」




