この感じ
生き返ったら性格が変わる《魔法術》?
そんな、いままで聞いたこともない魔法がこの国には伝わるが、文献はなにもないという。
意外なところでリミザのいまの状態に関する情報が得られそうになったが、資料がなければ調べようがない。一瞬で希望の光が消えたような、なんともいえない気持ちで《戦士》と《賢者》と《魔法使い》は《勇者》をみる。
「 ―― なーんて、《外》のひとがこっちの術で生き返ってるわけないっか。リミザはちょっと情緒不安定な《勇者》ってだけみたいね」
変に黙り込んでしまった《勇者一行》の気配を察したのか、ナオがわらいながら手をふってみせた。
「う~ん、そういうことになるのか・・・」
当のリミザはなんだか納得いったように何度もうなずく。
「おい、ナオ、ほんとにこの《勇者一行》でいいのか?」
『ワニ』が立てた親指をこちらへむけてきた。
「なんでよ、そりゃちょっとリミザは問題ありそうだけど、それなりにまとまってそうだし、それに、トラス王国からの紹介状の、『口のかたさ』と『個別対応力』のところ、ポイントすごく高かったよ」
「え、やだ。『紹介状』ってそういう形式?」ラーラがガットに小声できくが、ガットだってそんなもの見たことないので知らない。ラフィーが、教会をうつるときの司祭の紹介状もそんなかんじですよ、と小声で教えてやる。ひとりだけ立ったままだったリミザが思い出したように「タルトン元気かなあ」と、小屋から身をのりだして海をながめた。
「それにねえ、《王様連盟》に《退治依頼》をだしたのはこっちなんだから」
「だからおれは、それやめろといっただろう」
「そうはいかないって説明したでしょ?いい?船が沈んだんだよ?」
「それは、 」
ここで男が、《勇者一行》の視線に気づき、くちをとじたので、言い合いは終わった。
ナオがたちあがり、海をみていたリミザの服をひきよせた。
「 いい?外にツテのないうちの国が、問題を解決できるのはこの手段しかないの。それで送られてきたのがこの人たちなんだから、もう、頼るしかないって、ことなのよ」
ナオと『ワニ』の男がにらみあう。
「 ―― まてよ、まて。 なんだかさっきからいやな雰囲気で、いやな言葉がでてきてんぞ」
こういう内輪の言い合いは、みえないところでやってほしいガットが、みじかい髭をひっぱる。
「そうですね。『船が沈んだ』のは、きいていましたが・・・。 よく考えると、いままで外の人間をいれていないのに、いきなり《王様連盟》に加入して、これがすぐの《退治依頼》ですか・・・」
腕をくんだラフィーがしぶい顔をする。
「なんか、さっきからあたしたちを『移動』させる魔法術からすると、術も魔力もじゅうぶんだし、ここの人たちみんながそれをつかえるんなら、海に《魔獣》がいても、遠くへとばしちゃえばどうにかなりそうな気がするんだけど・・・」
ラーラがふつうに思いつく解決策をくちにする。
「 あ!わかった!」
ナオとならんで立つリミザが、パチンと指をならし、目をとじた。
「 なんだかこの感じ、トラス王国にいたときも感じたよ。 つまり、―― 国内になんだか問題がもちあがってて、ちょっとした混乱状態のところに、おれたちがひょっこりのりこんで、・・・その混乱にまきこまれるって感じかな?」
顎をあげてから首をかたむけ、立てた指先をもったいぶるようにじぶんの額にあててみせる。
本来ならば、そんなポーズをみせられたラーラがリミザの腹に拳をうめこむところだが、ほかの三人も感じているものは同じだった。
「 ああ・・・その、よければおれたちをもう一回『いりぐちの島』にとばしてくれりゃあ、そこであんたらの話し合いが終わるまで待機してるぜ」ガットが立ち上がりながら、ベルトにさがる小剣の位置をなおす。
「ええ、それがいいかもしれませんね。まずはそちらの意見をまとめたほうがよさそうです」ラフィーはお辞儀をするようにして立ち上がり、法衣の胸当てを片手でおさえた。
「そうね。えっと、こっちはそっちの『術』を、ひとつも『はかれなかった』んだし、ここの《魔法術》をみたとはいえ、なにも知らないと同じなわけだし、あたしたちがもし、 ―― このまま一旦帰ったとしても、なんの問題もないわけだし、ね 」
ラーラがにっこりわらった顔をたもちながらゆっくりとたちあがり、ナオの隣に立っているリミザの腕をつかむと、一瞬でとりだした杖をふった。
「 ざーんねん。ごめんね、ラーラ。ここではあなたたち外の人たちの《魔法術》って、効かなくなっちゃうんだよねえ。 だからあなたたちはもう、ここから勝手に出られない」
ナオがリミザに腕をからませてひきよせると、ほかの《一行》にほほえみかける。
「おれとしちゃ、そいつらの提案に賛成したいところだがな」
うしろからでた『ワニ』の低い声にナオが背を打たれたような勢いでふりかえった。
「ワニ!ダメ!」
「イニグにいいつけてもかまわねえけどな。わすれるなよ。『シンデン』をつかえるのはなにもおまえらだけじゃねえ」
ナオがさらになにかいいかけたが、『ワニ』が打ちあわせた手は、ナオやカテカが打った音よりも一段強い破裂音のような衝撃をはなち、ガットがひどい耳詰まりを感じ、立ち眩みにおそわれたときにはもう、
―― 《勇者一行》は、海の中にいた。




