だれもしらんまま
「『魔法術で人間にされ』って・・・あんた、たしかに気配は変わってるが・・・いちおう、人間だよな?」
ガットはつかんでいたリミザの頭をはなし、男をよくみた。
「人間が魔法術をつかって動物をつくることは神に禁じられています」
ラフィーは小さく祈りのことばをつぶやいた。
「やだみんなー、そんなのホントにあるわけないじゃない。 さっきナオも言ったでしょ。この国には言い伝えしかのこってないんだから、なにかのたとえばなしとかー、むかしばなしとまざっちゃったとかー、よくあるじゃない?書き残されてないから、発祥とか、真偽とか、わからないまま、のちにへんな伝説とかで残っちゃったりしてびっくりすような話だけになっちゃってー、たしかめようがなくてー、ほうっておかれたままでー、だれもー、だれもー、だれもー・・・」
いやに高い声で、語尾をのばしながらここまで口早にならべたてていたラーラが、笑顔のまま固まった。
「ラーラ、こわれた?」
立ち上がったリミザがラーラの顔の前で手をふってみせると、突然その手首をつかみあげたラーラが立ち上がり、「 だれもしらんままってなんじゃそりゃ!? 」とさけんだ。
「 ―― ねえ、ねえ、だめだよ、だめ!もったいない!ここまでの《魔法術》だってすごいのばっかなんだよ?これ、ぜったいもっとひろめたほうがいいよ。研究して、こっちの術式で近いのを開発したらすごいことになりそう!さっきの砂の中の部屋だって《魔法術》でしょ?すごいよ。それにさっきからの《移動の魔法術》なんかもよく知りたいし、」
「ラーラ、落ち着いて。じゃないとおれの手首が折れる」
リミザがとらわれたままの手を開け閉めしてみせた。
「折れてもすぐなおるんだから問題ナシ。それより、ここの《魔法術》を外で研究して、記録として残さないと、」
「ラーラ。残したいのはきみで、ナオじゃない。 そうだろ?」
リミザがつかまれた手の指をたててふってみせる。
「そ、・・・うだけど、でも、」
「アチルゴ国がここまで外の国と交流をあまりもたないままやってきたのは、それなりの理由があるはずだろう? たしかにここの《魔法術》を研究して、もしほかの国がつかえるようになったら、《魔法術》はもっとすごいことできそうだって、おれも思うけど・・・、おれが思うくらいだから、実際に、《すごいこと》に『利用』できるんじゃない?」
のんきな顔をかたむけ、リミザはラーラをのぞきこむ。
「そうだよ!ここの魔法術をもっとみんなが『利用』できるようになれば、すごいことになるんだって」
ラーラはまだあきらめていない。
ガットはしかたなく、リミザがいいたいことを言ってやった。
「『利用』されるのが楽しいことだけならいいけどな。 ラーラ、おまえが純粋に研究したいっていうのはわかるが、たぶんそれだけじゃすまねえことになる」
「そうですね。あたらしい《魔法術》ができて《魔法族》がそれをつかいこなせるようになれば、《魔族》がそれをまねてつかえるようになる。そうすれば、それこそいろいろなことに『利用』する危険があります。 ―― ただ、わたしも司祭としたら、ここの《魔法術》をできれば書き残したいという気持ちもわかります」
ラフィーが、めずらしく《魔法使い》の意見を尊重するようにつけたした。
それに目をみはったラーラが、むむ、と残念そうにくちをまげてとじると、つかんでいたリミザの手首をようやくはなした。
「 ・・・だよねえ。だからこんなに、まもりがかたいんだよねえ・・・」
ラーラはため息をついた。




