説明できない
「ラーラ、無理いうな」
ガットがナオのかわりにすぐこたえてやる。
「そうですよ。どうやらここの《魔法術》にかかわる『神』は、わたしたちとはちがうようですから、部外者のわたしたちには、理解するのもきっと無理でしょう」
ラフィーはここで自分が魔力の気配も見抜けなかった理由をみつけられ、あんしんしたようだ。
ラーラだけが不満なようで、とじたくちをとがらせていたが、カテカが手をたたいてテーブルの上に地図をだすと、やはり《術式》がみぬけなかったようで、ようやくあきらめた。
「 おまえたち、《勇者》が死んでる理由は話したくないのか?まあ、おれはべつにかまわないが。ナオは知りたがってる。《外》でもみたことがない《術》だと言ってるが、めずらしいのか?」
カテカは片耳に手をあてながら、《勇者一行》をみた。
「・・・まあ、たしかに、めずらしいだろうな・・・」
ガットはめをとじ、眉間を揉んだ。
「死んだ理由をはなしたくないわけではなく、話せないだけです。わたしたちもこの現象の説明ができないので」
ラフィーはグラスのなかのジュースをにらみ両手ではさんだ。
「勝手に死んで、勝手に生き返ったの。あたしたちがなんにもしてないのに。 で、そのままだと、どんどん腐っていくだろうから、ラフィーが《賢者》がつかえる《黒魔術》の『リビングデッド』をかけて、『腐った死体』にならないようにしてるってわけ。 ―― でもそれがいまのところ有効なのは、『王様連盟』からの依頼をうけてる《勇者一行》だからなんだけど」
ラーラがカテカがだした地図を上や横からのぞきこみながら口早に説明した。
「なんだそりゃ? ああ、その『リビングデッド』っていう術が《勇者一行》にしか許されてないってわけか・・・。 ふうん、なんだか面倒そうなはなしだな。でも、仕事をするうえでは『問題』ないんだよなあ?なんか、トラス王国とかいうところの『紹介状』がついてきたってナオが言ってたが、そこの仕事も、その死んだ状態でやってきたのか?」
カテカの質問に《勇者》以外の三人が顔をあわせていいよどんでいるうちに、『問題』をかかえているはずの《勇者》が勝手におおきくうなずき、「この状態だからこその、完璧な仕上がりだったよ」と額に指をつけ、顎をあげぎみにしてつづけた。
「 だからまあ、こんどの『船を撃沈/海の魔獣退治』ってのも、おれたちに任せてくれれば、きれいに消滅させて・・・ ―― なに?みんな、なんでそんなこわい顔してみてんの?」
仲間から敵意をあらわすような顔でみられていることに気づいたリミザは、左右にせわしく首をうごかしきいた。
「 ―― いや。あんまり安請け合いすんな」
ガットがなにかを警告するようにリミザを見る目に力をいれる。
「トラス王国の大臣は、わたしたちの仕事を大いに気にいってくださったので、最近まで他国と交流もなかったアチルゴ王国ですんなりうけいれてもらえうようにと、特別に『紹介状』をつけてくれました」
両手ではさんでいたグラスをのぞきこむようにラフィーが業務的な声で説明した。
「ナオはあたしたちの魔法術を知ってるみたいだけど、《賢者》がつかう『黒魔術』はみたことなかったのね。でもあたしたちなんて、この国の魔法術なんて、まったくみたことなかったから、今んとこビックリの連続よ。ねえねえ、その地図ってこの国の島たち?やだ!雲が動いてる~、よくみると海なんて波がある~、どういう仕組みかわかんないけど、この魔法地図ほしい~」ラーラが身をのりだしてのぞきこむ紙の中には、高い上からのぞきこんだように白い雲がながれ、そのすきまに、青い海と白い砂浜をもつ小さな島々がみえた。
「地図は大事なものだからやれないが、ナオがあとでこの国についての《まとめ》説明をしたいらしい。いまナオはテモモのところへようすをみにいってる。もう100歳をすぎているから、いつ死んでもおかしくないからな。 ―― わかった、わかった、ナオ、わめくな。えーっと、わがアチルゴ国の王は、まだ死なないだろうが、いまは、あまり具合がよくない」
「100歳すぎ?そりゃあ、・・・ずいぶん長生きな王様だな」ガットが感心してジュースを飲み干し、「 ―― でもな、」と、しぶい顔をする。「『王様』の健康状態なんて、こんな旅の一行にするもんじゃねえぜ。外にもれると厄介なことになったりするからよ」魔王がたおされ、のこった魔物たちも《勇者一行》でどうにか倒せるような平穏な時代が続き、各国がいま気にしなくてはならなくなってきたのは、魔物よりも、侵攻をねらいそうな血の気のおおい王様がおさめる国だったりする。
ガットの忠告に眉をあげたカテカは、片耳をおさえながら、すごいな、と感心した。
「あんたにナオが、プラス40ポイントつけるって。こんな高ポイントなんていままでないぞ、どうしたナオ?惚れたか? っ―― わかった、わかった。あんたたち、正直で信用できそうだってさ。ただ、テモモは今日ちょっと体調がよくないらしいから、きょうは会うのは無理だな。 え?移動した?わかった」
テーブルの地図へ腕をのばしたカテカが、にぎった手を広げると、地図にあったひとつの島が急に拡大された。
『もお、カテカ、これ以上なにか勝手なこと言ったら、イニグにいいつけるからね』
地図からナオの声があがる。
「わ、地図がしゃべった!」
テーブルに両手をついたリミザがのぞきこむと、拡大された島の砂浜に、小さな人間が片腕をあげて立っている。
「まじか・・・つながってるんだな?」
ガットは、その小さな人間がナオだということに気づいた。
「どういう・・・? ―― いや、無理だ。わたしとは神がちがうんだし・・・」
くちもとを手でおおったラフィーは考えないようにしている。
「わっ、わっ、わあああ、これいい!ほしい!ナオー、そっちからもこっちがみえるの?どういう空間魔法術?」
目をキラキラさせたラーラが両手をあわせてついに立ち上がる。
ナオの声が地図からではなく天井からふってきた。
『こっちからは見えないのよ。 あ、 よぶねー』
よぶ?
その言葉にみんながひっかかりをおぼえたときには、もうカテカが両手をパンとうち鳴らしたところだった。




