第62話 女 12
本能だと、聖女は言った。
そんなことない、と返したかった。
けれども、口にできなかった。
私がこの世界に落ちた時、私は自分のすべてを忘れる代わりに、この子の中にあった記憶や感情を全部もらった。
そして、この子の願い―――絶望の底に残っていた―――誰か側にいてほしいという願いを叶えるために、この子として生きていた。
けれど、王都で見た、不幸な少女が愛する人と巡り合い、苦難を超えて幸せになる物語は、私の願いも刺激した。
私の願いは―――大きくなったら、お父様のような人と結婚して、お父様とお母様のようにずっと愛し合って生きていく。
誰かのものを奪ったり、そのために誰かを退けたりするようなことはなく、ただ当たり前に、≪誰か≫と出会って幸せになる、この世界ではごく当たり前の願いだった。
そんな私の願いとこの子の願い、それは似ていないようで、とてもよく似ていたのだろう。
この子が受け止めて続けて、ため込んでいた私の世界の苦しみが、私の魂に眠っていた本性をむき出しにした。
前の世界で、お父様とお母様は、大好きで大切な、私の憧れだった。
そして、確かに知っていた。
お父様にとってのお母様、お母様にとってのお父様。
二人には、何があっても離れることはない、たとえ離れ離れになっても必ず巡りあう特別な絆があって、それはあの世界にとってとてつもなく大切なものだと。
この子と私が、同時に≪誰か≫を求めた時、誰でもよかったこの子より、私の気持ちが先に立った。
この世界は、私のいるべき世界じゃない。
だから、強い居場所を求めた。
あの世界にもどらないように、この世界にいられるように。
私は、変えられる≪誰か≫ではなく、お母様にとってのお父様のような存在を―――分かつことのできない相手を求めた。
この世界の、お父様とお母様のような存在になるために。
それを求める気持ちは、本能だったのだと思う。
だから、見つけることができた。
お父様やお母様と同じ気配をもつ人たち
―――王子様とその婚約者を。




