第45話 幕間 6
その日は、王国の最高学府である学園の卒業式であった。
学園が執り行う学園最後の卒業式典が昼まで行われ、その後、王家が主催する祝賀パーティーが開かれる。
祝賀パーティーは社交界への第一歩だ。
学生気分を捨て大人になったことを披露するとともに、
貴族の世界で学園で学んだこと
―――服装、同行者のエスコート、序列による入場から開催者への挨拶、ダンスなどの社交術―――を閉会までに確実にできると、これから先正しく行動すると示すことが目的だ。
初めての社交界。
誰もが穏便に、新参者として目立つことなく、品行方正な姿を見せるのが、普通だ。
そんな祝賀パーティーで、揉め事が起きた。
国王陛下と王太子殿下の到着が遅れるとの連絡で、招待客たちは開会を会場で待つことになった。
遅れたのはほんの十分ほど。
だがその短い間に、諍いが起こった。
始まりは会場の前方、その日の招待客では最高位の侯爵家の令息と、婚約者の伯爵令嬢の間だった。
「君との婚約を解消したい」
国王陛下を待つため静かだったホールに侯爵令息の声はよく響いた。
「君が悪いわけではないが、私には君以上に愛する人が出来てしまった。だから君との婚約を解消したい」
令息は周囲の状況など見えていないのかそう続け、会場の真ん中あたりにいた赤いドレスの女性を見たという。
すると、どうだろう。
あちこちで男性の同じような声が上がり始め、言われた女性側は多種多様な反応を返した。
頬を張るもの、罵詈雑言を吐くもの、倒れるもの、泣き叫ぶもの……とそれぞれで、さらには彼らの保護者も加わり、厳かだった会場はあっという間に大混乱となった。
ざわめく会場に国王陛下が到着し場は収まったが、パーティーは中止となり、会場にいたものはみな捕縛され、王宮へ連行後、調査された。
婚約解消を望んだ男たちの言い分はこうだ。
婚約者よりも愛し、守りたい女がいる。
女が王太子殿下を愛し、求めているのはよく分かっている。
自分が選ばれないなら女を想う気持ちを抑え、あきらめようと思った。
だが、パーティーでたった一人立つ女が不憫だった。
今日の卒業式に王太子殿下は出席されなかったし、パーティーにも表れなかった。
きっと、王太子殿下は女に気持ちをむけることはないだろう。
ならば、自分が女のそばにいてもいいのではないか、と思った。
しかし女のそばにいるためには、婚約者がいるなど不誠実だ。
だから婚約解消を求めた、と。
女性側は、報復した者もそうでない者も、いつかこうなるだろうと思っていた、とみな諦め顔であった。
そして、件の女は、まるで他人事のように、美しく微笑んでいた。




