表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
繰り返しのその先は  作者: 水瀬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/63

第44話 兄 4




 殿下は脇目も振らず大地へ爪を立て、土をかき分けている。


 いずれ気が済むだろうと見守っていたが、いつまで経ってもやめる気配がない。


 太陽が昇り切り、これ以上見ていられず声をかけることにした。


「殿下」


 何度か呼びかけ、その肩に触れる。


「誰だっ!」


 瞬間、血走った目に睨みつけられ、強く手を振り払われた。


「殿下、私です」


「……ああ、貴方か……何故、ここ……ああ、そういえば貴方は兄であったな……」


 身を引いて告げると、私を認識したらしい殿下の表情が緩んだ。


「はい。ところで殿下は何をしていらっしゃるのですか?」


「何とは? 見て分かるだろう。私は彼女に会わなければならない。だから……」


 少しずつ目がうつろになり、止まっていた手が土を掴む。


「殿下……おやめください。こんなことをしても妹には会えません。妹はここに葬られてはいません」


「何を言っている。宰相が彼女はここにいると言っていた」


 殿下は手を止めぬまま、まるで妹が生きているかのような言葉を放つ。

 その様子に薄ら寒さを覚え身が震えたが、伝えるべきことを口にする。


「えぇ、墓はここです。妹は聖女様の御業で浄化され、この世に髪の毛一本も残りませんでした。ですから妹が生きた印として墓碑だけをここに建てました」


「せ、いじょ? じょう、か?」


 殿下の顔が曇る。


「何故……そんな……浄化など……自ら命を絶ったからか? だから……」


 ぼそぼそとようやく聞こえる声が、不思議なことを言った。


「何を言っているのです、殿下! 妹は病気でした。自ら命を絶ったりしておりません」


 それだけは否定しなければ。


「だが宰相が言っていた。私と婚約したことを伝える日の朝に自ら死んだと!」


 地面に両手を打ち付けながら、殿下が叫ぶ。

 私はそれ以上の声を張り上げた。


「違います! 妹は、病気でしたっ!」


「それは……本当か?」


「はい。ある日突然倒れ、その原因も分からぬまま、数日で亡くなりました。流行り病かもしれないと医師に言われたので、貴族として原因を調査してもらうべきでしたが、心情的に無理でした。ですから、後の憂いをなくすため聖女様に浄化していただいたのです」


「……そうか……」


 殿下は、力なく座りこんだ。


「殿下、妹は殿下の隣に立つため、幼少より努力をしていました。こうして気にかけてくださったことを喜んでいるでしょう。私からもお礼を申し上げます」


「……いや、私は……礼を言われるようなことは何もしていない。それどころか……」


 目を閉じた殿下の肩が震える。


 ―――このまま落ち着いてくれればいいが……。


「……彼女の病は何だったのだろう」


 しばらくして、そう声がした。

 他に興味が向いたなら、良い兆候だ。


「私が調べただけですので正しいかはわかりませんが、数年前、特効薬が見つかった病ではなかったかと」


「数年前?」


「はい。隣国との境あたりで子供によく見られる、致死率はそんなに高くはない病です。数年前、薬師の一家がその病を患う娘の為に薬を作ったそうです。そういえば、殿下もご存じかもしれません」


「私が?」


「薬師の娘が、一年ほど前に学園へ入学したそうです。病のこともですが、薬がもっと早くできていれば、妹も……殿下?」


 殿下は目を見開いて私を見ていた。


「……一年前に入学した娘……」


「殿下?」


「は、ははっ」


 殿下の中で何があったのか、急に笑い出した。


「そうか、そういうことか」


 その目から涙があふれるのはすぐだった。


 座ったまま天を仰ぎ、狂ったような笑い声は慟哭に変わった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ