第37話 彼女のその後 7
男の話に、いろんな感情が胸の中で渦巻いた。
王子の気持ちがちゃんと自分を向いていてくれたことへの安堵と、
何故それをあの女へと示してくれなかったのかという憤り。
最初にもっと強くあの女に立ち向かっていれば……、
いや、一発くらい殴っておけばよかったという後悔。
そして、結局、死んでしまうことでしかあの女に勝てなかったという、腹立たしさ。
「そんな風に泣かないでくれ」
男に言われて頬に触れると、確かに濡れている。
いつの間にか、涙が出ていたらしい。
泣くという行為からずいぶん遠ざかっていたのと、辺りが真っ白で視界の変化がなくて涙があふれたことにも気が付かなかった。
「本当に、すまなかった」
男がそう頭を下げる。
「君を守れず、辛い思いをさせてしまった。もっと早く、君が死んでしまう前に助けられたら良かった」
苦しそうな声に嘘は感じない。
助けられるなら、きっと助けてくれていたのだろう。
「でも、助けられなかったんでしょう?」
何故、どうして、と言外に尋ねる。
「俺の世界にとって、奴とあの魂の欲望の力は毒だった。水が染み込むように世界に広がって、俺の力がはじかれた。だからあの時間軸への介入ができなくなった。君が俺の世界でも、奴の世界でも禁忌を犯したことで奴らの力が弱まって、ようやく手を入れることができるようになった」
「禁忌」
「ああ、俺の世界と、奴の世界では理由は違うが、やってはいけないことだ」
そうか、隣の神の世界は殺し合うのが当たり前だったんだっけ。自分が一番なら、自分を殺すなんて考えないのだろう。
私のいた世界では……
「そんなことが起こらない世界にしたかった」
私の疑問に、男はそう答えた。
そうか、私の世界では、最初からそんな考えはないはずなのか。
そういえば繰り返しの最後まで、何とかしよう、やめようとは思っても一度だって考えたことがなかった。
何度も殺されていたのに。
「……殺されるのは、いいの?」
「本人が望まないならそれは不可抗力だ。どんな理由でも殺される方に罪はない。殺す方が禁忌に当たる。悪意や殺す意思があればなおさらだ。少なくとも俺の世界では」
「そう、なんだ」
頷いて、ふと思いついた。
―――そっか、だから、私はここにいるのね。




