第28話 幕間 5
切れ切れの悲鳴は男の足元から聞こえていた。
その足元を見下ろす男の顔に表情はない。
一直線に結ばれた唇はぴくりとも動かず、濁った瞳は揺れることなく一点を見つめていた。
声をかけようと少しだけ男に近づくと、ひときわ高く泣き叫ぶ声が聞こえた。
それは終焉の声だ。
自分の世界では絶対に聞くことがない、聞いてはいけない音。
その切ない響きに、ぶるりと身が震える。
―――男の創った世界が終わろうとしている。
耳をふさぎたくなる、心を引き裂く声に、男がどんな顔をするのか視線が自然とそこに向かう。
無表情だと思えた面が、ほんの少し動いていた。
悲しみはない。
苦しみでもない。
喜びでもない。
怒りでもないだろう。
どう表現すればいいのか……無理に当てはめるとすれば、なにかをやり遂げたというような、どこか満足げな心情が感じられる顔だった。
男が、ふうっと長い息を吐いた。
吐息は、男の世界が完全に消滅し音が無くなった白い世界に、余韻を残しながら消えていく。
名残惜しそうに。
その音に男にも少しは後悔があるのかと思った。
だが男は一瞬濁った眼を細めた後、世界を創り始めた。
悍ましい悲鳴が、間を置かず聞こえてくる。
これは触れてはいけないものだ。
そう思ったが、同時に見なかったことにしてもいけないと直感が告げていた。
だから声をかけた。
「おいっ!!」
けれども男には聞こえないようだった。
「おいっ!! もうやめろっ!!」
何度叫んでも、男は自らが創る世界以外に興味がないのか、こちらを見ようともしない。
たまらずその肩をつかもうとさらに近づくと、男の世界が見える。
生み出されたばかりのはずなのに、世界はすでに真っ赤な炎に焼かれ、あちこちから断末魔の叫びが上がっていた。
息が止まりそうなほど凄惨な光景だ。
見る間に世界は終焉を迎え、男はふうっと息を吐きまた新しい世界を生み出した。
―――それは生み出されたと同時に終わりを迎える、救いのない世界の繰り返しだった。
男にはもう意思はなく、惰性でそれを繰り返しているのだ。
男は疾うの昔に力を失っている。
何度も、何度も苦しみだけが繰り返される世界を創り続けているせいで、男の力はそぎ落とされ、世界を維持する力も、世界そのものも疲弊して、ただ消えるのを待つばかり。
世界の規模ももうずいぶん小さくて、終わりはすぐそこのようだった。
―――もしこのまま世界が終わったら、あの命たちはどうなるのだろうか。
それは、この残忍な男に巻き込まれ泣き叫ぶしかできない命たちへの憐憫だった。
何とかしなければ、と思った。
そして助けられる場所にいるのだから、助けるべきだという、義務感だった。




