第29話 神の世界 7
愛し子、という言葉を知ったのは世界が終わりを迎える間際だった。
どこで聞いたのかは分からない。
遠い昔に聞いたことがあったような気もしたが、記憶をたどるほど興味はなかった。
けれども、理解すればすぐにそうだと分かった。
その子は、私にとって愛し子だった。
大事に大事に育てていたのに、ある日、私が手からこぼれ落ち、弱い弱い少女の体に入ってしまった。
どんなにたくさんの恩恵を与えても、その体はいつまでも弱く、少しも自由にならないようだった。
あらゆる祝福を惜しみなく与えてみるとその一つが上手く機能したらしく、その子はようやく健やかな肉体を取り戻した。
まだ弱い体だったが、恩恵の一つで誰よりも美しくなった。
娘の美しさはすぐに人々の目に留まり、祝福と力がその願いを叶えていった。
その子は周りの者を虜にしながら、何かを求めていた。
それは私が与えるべきものであったが、私の世界から落ちてしまったために、私からはもう与えられなかった。
子の願いは、やがて一人の少年へ向かった。
子が生まれた国の第三王子だ。
私の手から余る祝福を持つ少年だ。
少年は王となる者で、その婚約者はさらに大きな祝福を持っていた。
そんな二つの大きな祝福に立ち向かう子の願いは、当然その世界でとてもいびつなものだった。
強く結びついた縁に無理やり入り込むのだ。
子にとっても苦しいことだったろう。
喜ぶべきは子が、王子によって作られた小さな綻びに、ありったけの運をもって分け入れたことだろう。
けれども子の願いは、王子の婚約者を殺し、別の亀裂も作ってしまった。
亀裂は災いを呼び、私が与えた祝福は破り去られ、子は何度も殺された。
子の罪は繰り返される度に重ねられ、私の力を削いでいく。
それでも、私は愛し子を守りたかった。
その子の願いをかなえたかった。
子の願いは、いつからか私の戦いになった。
私と、王子の婚約者が持つ祝福との戦い。
何度も何度も……何度も。
私が勝つか、王子の婚約者が勝つか。
いつか、必ず私が勝つ、筈だった。
私は神で、世界を創るものだから。
どんな願いでも、必ずかなえられるはずだった。
そう、王子の婚約者が、戦いを始める前に死ぬまでは。




