第21話 神の世界 1
世界は十分に成熟していた。
強い力と知識を持った生き物の一族が、神の力を存分に吸収し、思うがままに世界を作り変えていた。
始めからあったものはすべてなくなり、そこから作りだされた新たなるものは、一族によりさらに強い力を与えた。
神をも超える力を!
そう願い数を増やした一族は、いつしか傲慢になり、自分たち以外の生き物を弾圧し、滅ぼし始めた。
我々はとうとう神を越えた!
一族がそう思うのも無理はなかった。
神が作ったとされるすべてのものは失われ、変わりにその世界を埋め尽くすのは一族が作ったものであり、一族が望めば世界はすぐに形を変えるのだから。
我々こそが神である。そう奢り高ぶる一族が統べる世界を、神はただ眺めていた。
それが神の仕事だった。
この世界を与えられた時、見知らぬ誰かによって与えられた役目であり、神が作るその世界で、彼らが思うがままにふるまうのを見守る事が、神の喜びなのだから。
神が作った世界をどれだけ壊し変えようとも、そんなことはどうでもよかった。
滅びたならば、また新しい世界を用意すればいいだけだ。
神がその手を一振りするだけで、その世界は真白になり、簡単に新しい世界になるのだ。
新しい世界に、“彼ら”がまた存在するかは、分からないけれど。
神は、そうして自らが作った世界が、どうなるかを繰り返し繰り返し飽きることなく眺めてきたのだ。
飽きることなく、眺め続けてきた世界から目を離したのは、なぜだったのか。
理由はもう忘れてしまったが、ふと顔を上げれば、すぐ近くに新しい世界があった。
神の世界と同じような世界なのに、そこはゆったりと時が流れているようだった。
「……どうだい、俺の世界は?」
不意にかけられた声に、眉を寄せる。
声がした方を見れば、男が一人立っていた。
――――誰だ?
「お前が今見ていた世界の、神だ。あんたが俺の世界に興味を示したから、こうして声をかける事が出来るようになった」
――――興味。
「そうだ、俺の世界が隣にあることにようやく気が付いたんだろう?」
隣の世界の神と名乗った男は、神の横に座り込んだ。
「あんたの世界は……せわしないな」
言いにくそうな男の言葉に、神は自分の世界に視線を戻した。
一族が分裂し、お互いを殺し合う。
世界の最終局面だ。
最後の一人になるまで殺し合い、最期の一人になった男が慟哭する。
その腕には、その男が守ろうとした女が、血まみれのまま抱えられていた。
「……酷いな」
男はそう言って、首を振った。
―――――いつもの事だ。
「そうか……あんたはそれで寂しくないのか?」
――――寂しい?
「せっかく作った世界がこんな風に壊れてしまって」
――――私の世界は、いつもこうだ。寂しくは……ないな。
「そうか……でも、俺の世界を気にいったろう?」
――――気にいった、のだろうか?
男が男の世界を指差した。神は自然とそちらへ視線を動かす。
緑あふれる穏やかな世界。
たくさんの生き物たちは笑顔で、そこから溢れ出すのは神への温かい感謝の光だった。
――――私の世界とは違うな。
「そうだな」
――――どうして、こんな世界に?
「どうして? 俺は自分が作ったものが壊れるのも、苦しむのも嫌なんだ」
――――苦しむ?
神は自分の世界へ視線を戻す。
見えるのは焼け野原で、屍を腕に抱き天を仰ぎ叫び続ける、一族最後の男の姿だ。
「いつもあぁなんだろう? ……世界そのものもかなり疲弊している。あそこで生きている者たちはきっと苦しいだろう」
男の世界と自分の世界を見比べた。
自分の世界の生き残りはまだ泣き続け、男の世界の人々は、たくさん集まって何がおかしいのかずっと笑っている。
神は顔をしかめた。
男の世界の人々の笑い顔がひどく気に障った。
何が違うのか……
そう考え始めた神の耳には、隣で何か言う男の言葉はもう届いていなかった。




