口布って外せるんだね
「え、ミーヤってば王の剣のメンバーすらも知らねえの?」
「かなりの田舎出身でして」
「なぁるほど…リーダーの見た目も?」
「男か女かすらも知らない」
「ぶっは!男な男!王の剣のリーダーは男!」
ローランはうくくくと笑い、
「結構知られてるからそんくらい常識だと思ってたけど、本気で知らない人間の言動予想外で面白過ぎ!」
と言った。
うん、私からするとガチで知らないからね。とんちんかんな答えを言っている事でしょう。
漫画とかも初見の人の意見聞くと「え、そんな解釈ある?」ってなる事あるし。でも結構面白い解釈の時もあるし……ローランからするとそんな感じなのかね。
「というかローラン、普通に口布下ろすんだね」
「え、口布したまんまで飯食える人間居ると思う?」
「思わないけど、何かこう、先入観…が……?」
「何だそれ。確かに顔隠してはいるけど、だからって飲んだり食ったりする時も口布しっぱなしって事はねーよ。口布ビッチョビチョになっちまうだろ?」
「まあ確かに」
でも漫画とかだと口布してる人間の顔って毎回隠されてる事が殆どだからちょっとビックリ。確かに現実だと口布とかマスクしたまま飲み食い出来るわけないよね。
あ、ローランの顔は普通に美形でした。女顔の美形。口布しててもイケメンなのは察してたけど、やっぱイケメンなんだね。異世界の人間は美形が多いな。日本顔じゃないからそう見えてるだけの可能性もあるけど。いや、連龍さん日本風だったけど渋いイケおじだったわ。じゃあやっぱ皆イケメンじゃないか。
「ミーヤ、酒を飲む手が止まってるぜ?何か考え事か?」
「ん、いやローランってイケメンだなと」
「へえっ!?」
私の言葉にローランは一瞬で顔を真っ赤に染め、危うく落としかけた酒入りのコップをわたわたと持ち直した。ギリギリ落としたり零したりはしなかったようでホッと安堵の息を吐いて、
「……か、顔が?」
と、赤面したまま言った。
「そりゃまあ、顔だね」
性格面も良さそうだけどまだそこまで親しくなったわけじゃないから断言は出来ない。なので見た目の印象しか断言は出来ないのよね。でも事実、ローランの顔かなりのイケメン。睫毛長いしおめめパッチリだから女顔系イケメンだね。
そう思って正直にそう言うと、
「顔……この顔が、イケメン……。ミーヤの好みは、この顔……」
コップを持っていない方の手で顔に触れながら、ハイライトの入ってない瞳でローランはそう呟きだした。
……あれ、何か不穏。さっきからおめめパッチリなのにハイライト小さめだったローランの瞳から完全にハイライトが消えてるんですけど。怖いんですけど。
「他は?」
「ほわっつ?」
「他」
ローランはハイライトの入ってない瞳のままで、私を凝視しながらそう言った。
「髪色、髪型、目の色も。声に骨格、体型、性別、匂い。ミーヤの好みはどんなのなんだ?」
「何その質問」
「良いから」
目が笑ってなくて怖い。何だこの人。
もしやヤバいタイプの人なのでは……と思ったけど、イースは微笑みながらこっちを見つつ酒を飲んでるからそこまで危険では無いっぽい。少なくともガチでヤバい人だったらイースストップが入ってるはずだもんね。なら酒に酔うとこうなる感じの人なんだろうか。
「え、何ミーヤの好み?」
「私も気になります!」
「ラミィ…も」
「お、俺は別にミーヤの好みが気になるとかそんな事は……ちょっとだけ、しか」
「我は気になるな。多眼がミーヤの性癖に入るって事は聞いたが、具体的な好みはまだ聞いた事が無かった」
ブルータスお前達もか。ここで口に出したらブルータスという名前の人が好みだと思われそうだから口には出さないけどさ!でもそんなわくわくの瞳で私に視線向けなくてもよくない!?
「え、何あの子の好み?」
「そういや武道大会の一回戦で守備範囲すげー広いってわかったけど具体的な好みでは無かったよな」
「髪色や髪型…か。一致したらワンチャンある可能性あるんじゃね?」
「ねーよ。一致したとしてもお前はねーよ。引っ込めロリコン」
「あの子!成人済み!俺ロリコン違う!合法ロリ好き!わかるかこの差が!」
「お前のその気迫怖い」
「性別も聞くところにローランさんの本気を感じる」
「確かに男女も歳も関係なく嫁にしてるっぽいもんね。男と女、どっちが対象なのかしら。それともどっちもいけるのかしら」
「そりゃ両方嫁にしてるんなら両方いけるんじゃねーの。でも多分バリタチだと思う」
「バリタチ?バリカタの親戚か何か?」
「すまん忘れろ記憶よ飛べ」
「いっでぇおまっ!いきなり殴る奴があるか!?」
外野まで注目をこっちに集めなくて良いよ!聞き耳を立てんなや!聞き耳立ててる私が言う事じゃないけどさ!
えー、でも…えー……好み、好みか…好みねえ。
「………いや、正直好きだなって思ったら好きだし」
「黒髪が良いとか金髪が好きとかは?」
「本人に似合ってる髪が一番かな」
日本人顔で金髪って似合わない人が居たりするからね。明るい茶髪も微妙になったり。だからやっぱり似合う髪色が一番だよ。
「髪型に関しては似合ってて、かつ本人の好みが一番だと思うし」
うん、本人の好みで、そして似合ってるってのは大事だと思う。まあ流石にツインテ好きのおっさんがベリショの髪を無理矢理ツインテにしてたら「キッツ……」以外の言葉出ないだろうけど。だからこそ似合ってるって大事だよね。
「まあ、うん、言っちゃえばその人に似合ってるなら良いんじゃないって感じかな。可愛い顔の子が格好良い系の服着ててもそれはそれで魅力的なギャップとして見れるし」
デブいおっさんがロリロリフリフリな甘ロリドレス着てたら流石に吐くと思うけどね!
でも普通に可愛い子がロックな服着てたらそれはそれで可愛いってのは事実だからね。格好良い子に可愛い服もとても良いと思うし。ベターもギャップも美味しく食べれる日本人ですどうぞよろしく。
「というか、多分私見た目は良い方が良いけどそこまで頓着しない気がする」
「そうなのですか?」
「私が見る限り、ミーヤ様は顔が良い方を好むようでしたが…」とハニーが言い、私はちょっと気まずくなった。確かにそうだけど。そうなんだけど。顔が良い方が見てて楽しいってのがあってだねってそうじゃなくて。
「確かに人型なら美形の方が好きだけどさ、もしそれだけだったらキラービー姿のハニーや蜘蛛姿のハイドを好きって言わないでしょ」
「あ」
「好きだなって思ったら、その相手の要素全部が好きになっちゃうんだよ」
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの真逆、あばたもえくぼってやつだ。
普通の人なら…そうだね、かつての蜘蛛嫌い勇者はハイドの多眼を嫌がった。でも私はハイドの多眼も可愛らしいと思える。そういう事。
「好きだから好き。あと何となく直感で良いと思うから好き。嫁が好きだから好き。そういう風に意味はちょいちょい違うけどさ、まあ基本的にはそのままの方が好きだし、変化しても好きって感じかな」
見た目なんて全部ヘアスタイルみたいなモンだからね。いつも下ろしてるロングヘアをポニーテールにしたとするじゃん?それはそれで良いじゃん?素敵じゃん?
少し巻いてみたり、短めにカットしてみたり。でもヘアスタイルが変わったってその本人である事は変わらない。私が髪をショートにしようがアフロにしようが私は私って事だ。いや、アフロは大分イメージ変わるけどね。
「例えばローランが髪を青に染めたとしても、隣に座ってんのはローランなわけじゃん」
「……まあ、確かに」
「つまりそういう事よ」
思考がいまいち纏まらず面倒になってそう締め括ると、ローランはギャグ漫画のようにガクリと肩を落とした。
「どういう事?」
今の衝撃で正気に戻ったのか、小さいがハイライトが入った瞳でローランはそう言った。
うーむ、酒で思考が纏まらんからアレなんだけど…。
「今私の前に居るのがローランで、ローランはローランでしかなくて、私は今目の前に居るローランをローランとして認識してるって感じ」
私は手に持ったコップを傾けて酒を飲み、続ける。
「緑の長い髪をポニーテールにして、大きい瞳なのにハイライトが小さい目で、口と首周りが布で隠されてて、服で露出の防御力高いかと思えば脇の辺り緩かったりしてて、そんで初対面の私達相手に一緒に酒飲もうぜって言えるメンタル」
ポカンと口を開けたローランを横目に、私は鶏の軟骨のから揚げを頬張る。うむ、コリコリ。
「とりあえず今んトコ私が認識してるローランはこんな感じ。それ以外知らんのにこうした方が好きだなーとかは無い。今の見た目が一番似合ってるぜとしか言い様も無いしね」
もうちょっとこうした方が良いんじゃない?なんて言える程私の頭は良く無いんだよ。髪形変えたってそれが今のその子として認識されるし、何か前からそうだったかな?って思っちゃって変わったのに気付けないんだよね。その子がその子である事実は変わらないわけだしさ。
大体私の好みなんてフリースタイルだからね。そうじゃなかったらこんな多種多様な子達嫁に出来んわ。淫魔にキラービーにラミアに狐獣人にリッチに闇毒スパイダーって。どうやったら一致してるものを見つけれるってんだか。
……私を好きって言ってくれてるトコかも知れない。あ、何かしっくり来た。私の好みは私を好きになってくれる子だわ。へー、初めて自覚した。
「………なんかさ」
「ん?」
軟骨のから揚げを頬張っていると、机に頭を預けたローランがポツリと呟いた。
「俺に対して、俺のままで良いって言われたの、初めてだ」
王都は皆自己肯定が出来んのばっかりか。
自己肯定っていうか、他者否定でも流行ってるんだろうか。ネズミはネズミのままで良いしローランはローランのままで良いでしょうよ。私だって私のまんまが良いもん。いや、頭良くなりたいなとは思うけどね。
ローランは恥ずかしいのか何なのか、額を机にぐりぐりと押し付けながら言う。
「リーダーも似たような事言ってたけど、リーダーは「強いなら他はどうでも良いだろう」だもんな~。これなんだよな~俺が欲しかった言葉。ありがとうミーヤ、惚れて良い?」
おい最後。こっち見んな。
「それは私の独断じゃ無理かな!というわけで酒を飲め」
「うっわはぐらかす気だ。俺の純情な恋心の芽を酒で枯らす気だ。良いけど」
そう言い、ローランは私が注いだ酒を一気に煽って、
「あー、久々に酔いそ」
と、ふにゃりとした笑みで零した。
「逸脱者のハートキャッチガール…」
「イース、ポツリと呟くの止めて。そんなつもりは無い。あと逸脱者じゃない可能性の方が高いし」
「……高ランク冒険者…。見た目…から、既に……逸脱、して…る」
「言わないでラミィ」
とにかく酒を煽りつつ、私はローランにも酒を注ぐ。飲め。そして忘れろ。
「皆もガンガン酒飲んじゃってね。無料の間にガッツリいこう」
「りょうかぁい♡じゃあ早速まだ頼んでないものとか頼んじゃいましょうかぁ♡」
そして二時間後、
「ミーヤしゃまぁ……」
「あー、まずい。ヒイズルクニの酒が俺の火の魔力と相性良すぎてまずい。火が漏れる」
「…ラミィ、も、火……ちょっと、吐きそう」
「え、何この酒凄い!濃い!魔力練り込まれまくってるよねコレ!やだ僕ってば死後初めて酔っちゃう感じ!?そうなの!?」
「むう……我は擬態だからか酔い難いな。本当の姿でも酔うくらいの量の酒を飲まないと酒が回らないのか…」
「それでさあ!リーダーってば脳筋なうえにカンで戦場生き抜いて来たタイプだからさ~!も~本当「そこガッとやれ!」とか指示出されても困るっての。わけわかんなくてお気に入りの鉤爪駄目にしちゃったしさ~」
「あらあらぁ、皆思ったより早く潰れたわねぇ」
「カオスか?」
カオスになった。
ちなみに上からハニー、コン、ラミィ、アレク、ハイド、ローラン、イース、そして私である。
ハニーは酔うから酒は飲まないようにしてたんだけど、私の果実酒とジュースを間違えて飲んじゃったんだよね。その結果がこれである。私の膝に乗ってベッタリ状態だ。可愛いからオッケー。
コンとラミィはやばい。危険。さっきから吐息の度に小さい火が漏れてるし、コンは耳と尻尾の先から、ラミィも尻尾の先から火が漏れている。燃え移らない?大丈夫?という不安。まあいざって時は水魔法で鎮火しよう。そうしよう。
アレクは霊体でも酔う酒を飲んだらしく、霊体でありながら頬を真っ赤に染めてきゃっきゃしながらどんどんお酒を空にしていっている。
ハイドは本当の姿が8メートル級だからか中々酔えずにちょっぴり不機嫌な感じ。いや、素面で居てくれるのありがたいからそのままのハイドで良いと思うよ。
そしてローランは愚痴るタイプの酔い方をする男だった。ぐだぐだと日頃の愚痴を零している。
で、特にそこまで酔ってないイースと私の二人。私としては酔った人間ばっかりの時に素面で居るのって辛いから酔いたいんだけど、謎に酒に強い体質のせいで未だ素面である。
ハニーに抱きつかれてるのは全然良いけどローランにひたすら愚痴られるの辛いです先生。
「なあ聞いてんのかミーヤ。俺ってさ、色んな武器を使うんだよ。鉤爪もそうだしヒイズルクニの忍者ってのが使う手裏剣とかクナイとか、あと……ああ、短刀とか?毒も鉄扇も使うしさ~。でもだからって武器一個壊れて良いってわけにはいかねえだろ!?用途用途で使う武器変わるし!わかるか!?」
「わかるわかる。崖上る時は鉤爪とかクナイとか、その時の状況によって変わるよね」
漫画知識だけど。
「そうなんだよ流石ミーヤわかってる!好き!」
凄い良い笑顔でそう言われても、完全に漫画の知識で適当言っただけなんでちょっと良心がチクチクする。酔っ払い相手とはいえもうちょい真面目に話を聞くべきだろうか。いやでも酔っ払い相手だしな。
「あ~……鉤爪…俺の鉤爪…。そりゃその辺で安く買った武器だったけどさ~、俺が使いやすいようにカスタマイズされてたんだぜ?あ~悲しい。勿体無い。爪の部分に毒仕込めるようにしてたからちょっと頑丈さはそりゃちょっとアレだったけどさ~」
「だからって根元からバキンだぜ~?」と、ローランは本日二回目の話をした。この話さっきも聞いたんだよね。酔っ払い特有のループが始まってしまって辛い。
というかこれ帰りどうするんだろう。アレクが生前の時は弟であるアイザックさんが迎えに来てたけど……まあ、高ランクの冒険者らしいから同じメンバーの人に連絡行くでしょ。多分。
「そんなにその鉤爪が大事だったんだね」
「いや……大事っていうよりは使う頻度が高いから無いと困るって感じ」
「でも武器屋にしっくり来るのが無くてさ~~~」と、酔っ払いローランは上半身を机に預けてぐちぐちと不満を漏らす。……日頃の愚痴、溜まってるのかな。
にしても鉤爪か…なーんか引っ掛かるんだよね。何か前に見た覚えが……あっ。
「………」
「ミーヤしゃまぁ?」
私はハニーの頭をうりうりと撫でてからハニーの座っている位置を少し調整して、アイテムポーチからとあるアイテムを取り出す。
そう、前にイルザーミラのダンジョンでゲットしたプラチナ鉤爪である。呪い付きの。
「ハイド」
「ん、何だ?」
「まだ酔えん…」と言いながら酒を飲んでいたハイドに声を掛けて、私は手に持ったプラチナ鉤爪を見せる。とても綺麗なのに黒い靄が付着しているから呪いが掛かってるのは一目瞭然だ。よくこんなのずっと持ってたよね私。
「これ、呪いどうにか出来る?」
「ああ、出来る」
ハイドはプラチナ鉤爪を受け取り、黒い靄を噛んだ。
え、噛ん……噛んでる!?
どうやって噛んでるのかはわからないが、ハイドはギザギザの歯で黒い靄を噛んでいた。そしてそのままぐいっと靄を引っ張ってプラチナ鉤爪から靄を引き剥がし、
「あぐっ」
剥がした靄に勢い良く食らい付いて咀嚼し、
「んぐ」
飲み込んだ。
「この呪いは随分と薄味だな」
一口では食べ切れず小さな黒い靄が漂っていた口元をペロリと舐め、ハイドはそう言った。
「呪いに薄味とかあるの?」
「ああ、即死級だと味が濃い。が、大して効果が無い呪いは薄味なんだ。食いでがない」
「へえー……でも呪いの処理してくれて助かったよ。ありがとね、ハイド」
「…ああ、呪いくらい幾らでも食ってやるからな。ミーヤの為なら国一つ潰せる級の呪いだって食える」
「流石にそんなもんに関わる気は無いかな!」
素面でこういう過激な事言うトコあるよね、ハイド。
まあとにかく呪いが消えた普通のプラチナ鉤爪をハイドから受け取り、私はぐだぐだと愚痴を言い続けているローランに渡す。
「……え?」
「それ、良かったらどうぞ」
酒を飲みつつそう言うと、酔っていたはずのローランは目を見開いて呆然と口を開けた。プラチナ鉤爪と私を交互に見て、無意識なのかポツリと小声で呟く。
「………………え、これ、え、プラチナ…?」
「うん」
「え、これめっちゃレアだし高いやつじゃね?」
「偶然ゲットしたけど私達使わないから良かったら引き取って」
「え、マジ…?」
「マジ」
ローランは呆然としたままプラチナ鉤爪を見つめてから、さっと一瞬でプラチナ鉤爪を服の中…袖の中へと仕舞った。
「もう返さねーよ?」
「仕舞ってから言うの性格出てるね」
返す気無いぞって行動が既に言っちゃってるよね。
「良いよ、私その子使わないし。好きにしちゃって」
「………………」
ヒラヒラと手を振ってそう言うと、ローランは袖の上から、恐らくプラチナ鉤爪を入れたんだろう位置をぎゅっと掴んだ。
「…ありがと、ミーヤ。嬉しい」
「いえいえ、こちらこそ持て余してたアイテムの引き取りサンキューですよ」
そして私達は、ローランの仲間が迎えに来るまでの間酒瓶を空にし続けた。




