服の表現法がわからない
「何か…今日一日で動物の知識がめっちゃ増えた」
「お疲れ様でした、ミーヤ様」
「ありがとハニー」
夕方、仕事時間が終わった為獣人部隊と別れ、現在王都の広場で休憩中である。このまま直行で帰ったら気絶するように眠りにつく予感しかしないからね。今日一日でポンコツな私の頭の容量はかなーりオーバーしておるのですだわよ。
ハニーが差し出してくれた蜂蜜入りのジュースを飲んで少しメンタルを回復する。あ、このジュース美味しい。へー、あの屋台のジュースに蜂蜜入れたの?良い屋台だね。
「ジュースあるぞ!美味いぞ!フルーツ直絞り!ちなみにカットフルーツもある!プラス料金払えばフルーツに砂糖を掛けるのもオッケーだ!」
「嘘つけおっさん!砂糖なんて高級品どうやってそんな値段で売れるんだよ!明らかに違う何かだろ!小麦粉とか!」
「おっまこの砂糖見てみろ?これ小麦粉に見えるか?この世に生を受けて67年、ジュースとフルーツで稼いで来た俺はそんなケチ臭え嘘は吐かん!」
「じゃあどうやってゲットしたんだよ」
「ああ、うちのカミさんが虫系魔物の研究者でな。シュガーバタフライの繁殖に成功したから広めるついでに稼いで来いって」
「それジュースやフルーツよりも最重要事項じゃねえか!」
「んなわけねえだろジュースとフルーツが最重要だ。ちなみに繁殖した分のシュガーバタフライはもうちょい時間が経ってから野生にお帰りの儀をするから、そん時にジュース買ってくれたら籠の蓋開ける役やって良いぞ」
「マジかちょっと待ってろダチに広めてくるから!それ何人までオッケー!?」
「シュガーバタフライ入りの籠は四十個くらいある」
「ダチより先にギルド行って来るわ!」
な、何か凄い屋台だった!?
シュガーバタフライって確かハイドが狩った、あの、何か、勇者が作ったとかいう砂糖菓子系の魔物だよね?鱗粉が砂糖で羽が飴細工っていう。繁殖するんだ……。いや、そりゃ魔物っていう生き物だから繁殖くらいするんだろうけど……へえー…。
「それでぇ、この後どうするのぉ?ミーヤ」
「どうしようねー」
ジュースを飲みながら考える。まだ夕方なんだもん。折角の王都なのに即行で宿屋戻るのは勿体無いし………。
「イースはどっか行きたいトコある?」
「私はどこでも楽しいからどこでも良いわぁ」
「買い物も景色も知識も全て糧になるものねぇ」とイースは妖艶に微笑んだ。そういやイースってその時その時の流行りの物とか普通の食材とか色々買うの好きっぽいもんね。どこでも楽しいってのは事実なんだろうな。良い事だ。
「皆は?」
イース以外の従魔達にも聞いてみると、
「私は特に……強いて言うならこのジュースのように、甘い食べ物や飲み物を売っている屋台を色々見て回りたい……ですかね」
ジュースとは別に買ったらしいカットフルーツを指で摘まんで食べつつ、ハニーはそう言い、
「…ラミィ、薬屋……気になる。…毒、に、薬……色々、見たい……」
手に零してしまったらしいジュースを先が二股になっている舌でチロチロと舐めながら、ラミィはそう言い、
「お、俺は別に本でよく特集されてたりする観光名所に行きたいとかは思ってないからな!?ま、まあ、ミーヤが気になるってんなら俺も一緒に行かなくも無いけど……」
途中で買ったらしい王都の観光用パンフレットをぐしゃりと握り締めながら、コンはそう言い、
「僕は図書館かな。王都の図書館って蔵書数凄くて生前から気に入ってたんだよね。あ、本屋でも可だよ!知識はあって損しないし!」
わくわくした様子で骨の人差し指をピンと立てて、アレクはそう言い、
「我は服屋だな。縫い方や刺繍を色々と見てみたい」
ジュースを飲みながら通行人の人達の服を見ていたらしく、ハイドはそう言った。
ふーむ……。
「イース、王都の図書館って何時までやってる?」
「あと二時間は余裕あるわよぉ」
「なら今日はまず図書館かな。どうせまだ数日あるんだし、他の要望はまた明日以降って事で。そうすれば図書館で下調べも出来るしね。どう?」
私の案に、全員が頷いた。オッケーのようで安心だ。良かった。
「じゃ、図書館行こうか」
ジュースを飲み干し、コップを屋台のおじさんに返してから図書館へと移動する。
すると、途中でアーウェルに会った。
「あれ、アーウェル?」
「ミーヤ。偶然だな」
「偶然だね………何か、荷物多くない?」
アーウェルは、弓以外にも荷物が入った重そうな袋を背負っていた。
「もうすぐ出るツギルク行きの馬車に乗って帰るんだ。だから荷物多め」
「なるほ…え!?早くない!?一週間宿屋にお泊まり出来るのに!?」
勿体無いよ!?と私が言うと、アーウェルは不敵な笑みを浮かべながら右手でVサインを作った。
「大丈夫だ、残りの日数は他の観光客に金で売った。俺の目的は達成してるから王都に長居する理由も無かったしな」
「金で売ったんだ……売れた?」
「バッチリ。食い放題もプラスだったからかなりの値段で売れた」
「そりゃ良かったね」
良かったね以外にどういうコメントをしたら良いのかわからない。まあ、確かに無駄にするよりは良いけど。アーウェルの目的は宝石掴み取りで金ゲットして良い弓を買うって事だったし、宝石掴み取りも弓もゲットしてるから目的を達成してるのも事実だしね。
微笑むと、アーウェルはふにゃりと少年らしい笑みを零した。
「全部、ミーヤのお陰だ。ありがとな」
「いや私何もしてない」
「弓。矢入れ。矢」
「してたわ」
その三つを出されると頷くしかない。プレゼントしたのは事実だし。
「ミーヤのお陰で武器屋を巡って合う弓を探す必要も無くなったし、矢の出費も必要無くなるし、掴み取りでゲットした宝石を弓買うのに使用しなくて良かったお陰でリーンやブラウンさん達にお土産も買えたし、宿屋の宿泊の権利とかを売ったお陰でかなり金が稼げたし………」
「本当に、ありがとな」と、アーウェルは微笑んだ。
「…どういたしまして。全部アーウェルの運と才能と頭の回転とその他諸々の恩恵な気がするけどね」
「いや、ミーヤのお陰だ」
「いや全部アーウェルの」
「ここでまた延々とそれ繰り返してたらアーウェル馬車に乗り過ごすんじゃないの?」
私の頭の上に骨の両手を置き、その上に顎を乗せるような体勢のアレクに言われて「確かに」と私とアーウェルは頷いた。前の二の舞になるトコだったね。
「じゃ、宿屋も無いのに乗り遅れるのは勘弁だからもう行くな。色々ありがと、ミーヤ」
「こっちこそ。その子達を引き取ってくれて助かった。ありがと、アーウェル」
私の言葉にアーウェルは一瞬きょとんとした顔を見せ、アーチャー三種セットの事を言ってるのに気付いたのかニッと笑った。
「こいつらの事は任せとけ」
そう言い、手を振ってアーウェルは馬車の方へと走って行った。
……うん、アーウェルなら安心だ。悪用しないだろうっていう安心感があるしね。
アーウェルに手を振り返してから再び私達は図書館に向かい、閉館の時間までそれぞれ好きな本を読んだ。
図書館凄いね!勇者が書いたんだろう地球の物語とか置いてあるもん!まさか異世界でロミオとジュリエットがあるとは思わなかった。うわ、糸くり三人女まである。これマイナーじゃないの?
多分、孤児院にあの絵本をプレゼントした勇者とは違う勇者なんだろうな。趣向が違うもん。孤児院は日本の昔話が多かったけど、この図書館は外国の童話が多めだった。
ちなみにイースは最近出た本を、ハニーは花や虫の本を、ラミィは毒や薬や食べ物の本を、コンは伝記や観光の本を、アレクは歴史とかの難しそうな本を、ハイドは刺繍や縫製についての本などを読んでいた。
…私一人だけ童話の絵本に夢中っていうね。しかも読んだ事ある本だし。もうちょい冒険者の心得みたいな本読めば良かった。
さて、そんなわけで図書館も閉館したから大人しく宿屋に戻って来てご飯にしようぜ、って感じで皆で飲み食いしてたわけなんだけど。
「なーなー、俺も一緒に飲んで良い?自分の分の金は当然出すからさ!」
ヒイズルクニの清酒を飲んでみたら思った以上の辛さにえづき、果実酒で口直しをしていたタイミングで見覚えの無いお兄さんにそう声を掛けられた。
長い緑の髪を高い位置でポニーテールにしている黒い瞳の……多分、男。顔は女顔?っぽいけど。
何故曖昧なのかというと、この人口元を口布で覆ってるんだよね。忍者みたいに。しかもその上から首のところに黒い…マフラー?襟巻き?ストール?を巻いていて、口元から首周りをまったく露出していない。
瞳が大きいから女性かな?って一瞬思ったけど、声が完全に男なんだよね。あと胸元の露出ゼロなのにはだけてて、胸が無くて胸板なのが確認出来る。え?胸元の露出ゼロなのにはだけてるってどういう事だって?事実そうなんだから仕方ない。
なんというかこの人、着物っぽいのを着てるんだよね。でも袖を見る限り日本の着物じゃなくて中国っぽい着物って感じ。着こなしは日本の甚平っぽいっていうか、作業着っぽいけど。
「あれ、駄目?」
その着物の胸元をヘソ辺りまでガッバァと開いていて、襟の部分を肩のギリギリの所で引っ掛けてある感じ。アレどうやって引っ掛かってるんだろう。そして腰辺りで帯?のような紐…いや、太さ的に男用浴衣みたいな帯、かな。帯で結んである。
着物の裾の長さは膝丈だからか、下には和風作業着みたいにシンプルなズボンを履いてるらしい。
ここまでじゃまだ露出ゼロの意味がわからないって?あのね、インナー着てるのこの人。黒くて肌にピッタリしてるタイプのインナー。しかも…何だろう、あの、あれだ。ノースリーブ。
口布と繋がってるのか、首辺りからひし形みたいに布が伸びていて……ああもう!私ってば服にそこまで興味無かったから表現が苦手なんだよね!あれだよ!つまりあれ!金太郎の前掛けの洋風おしゃれ版!アレ!肩とか脇とか恐らく背中もガッバァ開いてる感じ!そんな感じのインナー着てるのよこの人!
それを着たうえで上の着物の胸元をガッバァ開いてるんですよこの人。首の…とりあえずストールね。ストールも合わさって寒いのか暑いのかよくわからない格好をしている。しかも着物をめっちゃ開いてるから胸元は露出ゼロなのに肩の辺りはチラチラと地肌が見えるという露出。チラリズムか?チラリズム推しなのか?
「おーい、もう酒が回っちゃってる感じ?」
「おっと」
目の前の見知らぬお兄さんの服装が意味わからな過ぎて思わず思考がトリップしてたぜ。とてもフェチ心をくすぐる性癖狙いの服で良いと思います。
「すみません、見慣れない服装に驚いてて前後の会話が記憶から飛びました」
「ぶはっ、何だそれ」
うくくくく、とお兄さんは笑い、
「君達がめちゃくちゃ楽しそうに美味しそうにしてるからさ、まーぜて♡って言ったんだ」
と、ウインクをしながら改めて言ってくれた。
う、ううーむ。これはどう返答するのが正解なんだろう。
「うごっ、先を越された…!」
「今日こそミーヤちゃん一行と酒飲みたい!って思ってたけど、あの楽しそうな雰囲気を壊しちゃうんじゃ?って思って足踏みしてたのに……何てメンタル!」
「羨ましくて恨めしい」
「なあなあ、今日のあの子達どんだけ酒飲むかな?酒瓶何本開けるか賭けね?」
「よっしゃ俺十五本以上開けるにこのポテト賭けるわ」
「お前それずるくね!?」
「先輩、何か武道大会終わった後はちょっと客足微妙かもって言ってましたけどそんな事無いですね」
「いつもなら武道大会が終わったら皆帰るんだが、今年はあの嬢ちゃんの一行が目立ってるからな。飲みっぷりも食いっぷりも良いし見てて楽しいしで客寄せになってるらしい。今の内に稼ぐぞ」
「先輩、お礼としてあの子達にお酒プレゼントしちゃ駄目ですかね」
「既に王様負担で食べ放題飲み放題だから意味無いぞソレ。部屋の掃除の時に花瓶に花生けといたりするサービスとかにしとけ。ここ宿屋だし」
あっれ!?解決策ないかと思って耳を澄ましてみたら思った以上に視線を集めてた!?
……いや、そりゃそうか。昨日の時点でめっちゃ視線集まってたもんね。そのうえで淫魔とかキラービーとかラミアとか狐獣人とかリッチとか闇毒スパイダーとか……そりゃ視線集まるのは当然だわ。
イースが淫魔って事とかハイドが闇毒スパイダーって事は知られてないから抜きにしても、視線集めやすいビジュアルが多いしね。
うーん、でもどうしよう。ミサンガも特に反応してないから本当に興味があって言ってるだけっぽいし、害意も無いみたいだし……。
「皆の意見は?」
一応従魔達の意見も聞いてみると、
「酒を飲む時は人が多い方がミーヤ様は楽しそうな様子ですし、良いのではないでしょうか」
「ラミィ、を、嫌がったり…してない……なら、ラミィ…も、気にしない……」
「まあ…敵意とかの匂いじゃねえし、良いんじゃねえの?」
「僕は賛成だよ!というかリッチとしての視界からするとお酒飲んで清めるの推奨したいなって感じだしね」
「我からミーヤを奪おうとするなら敵だが、そうじゃないなら興味ない。好きにしろ」
上からハニー、ラミィ、コン、アレク、ハイドの順である。
アレクの言動からするとこの人めっちゃ取り憑かれてるんじゃないのっていう悪寒が走るが、まあ、うん、大丈夫でしょ。リッチであるアレクが居れば少なくとも私達に影響を及ぼしたりはしないだろうし。つかそもそも頼りになり過ぎる淫魔のイースも居るから余裕か。余裕だったわ。
「何か良いっぽいんで、良いですよ。一緒に飲みましょう」
「よっしゃ!」
許可も出たし、と微笑みながらそう言うと、お兄さんはガッツポーズをしながら笑みを見せた。いや、口布とストールで口元見えないけどね。目元が笑ってたから多分笑ってたと思う。多分だけど。
ちなみにさっきから喋っていないイースだが、絶賛撃沈中である。私の思考を読んでた結果、金太郎の前掛けの辺りで限界が来たらしく未だに大笑い中。
声は聞こえないし周りの人も反応してないから多分また音の遮断と認識阻害の魔法を使ってるんだと思うけど、凄い魔法だろうにその使い方で本当に合ってるんだろうか。
「あ、私はミーヤです。それでこっちが」
「イースにハニーにラミィにコンにアレクにハイド、だろ?武道大会見てたからそんくらい覚えてるって」
お兄さんは椅子に座り、ヒラヒラと手を振りながらケラケラと笑う。
「一回戦の時のミーヤのインパクト凄かったし」
「忘れてくんろ」
「くんろ?」
語尾は気にするな。
うぐおお……そうだよね、あれはね、インパクト凄かったよね、そりゃね…。私としてもインパクトがデカ過ぎる黒歴史だよあれ。お陰で嫁に対してデレまくりだけどさ。
「とりあえずあの戦いは忘れてください。愛を確かめ合った重要なシーンではあるけど私からしたら性癖を叫んだだけなんで」
「ぶっはははは!」
私の言動がそんなにも面白かったのか、お兄さんは思いっきり吹き出して笑った。そんなに?そんなにか?あ、イースの痙攣がさっきより悪化したからそんなにだったらしい。ごめんイース。また復活遅れるね。
お兄さんはひーひー言いながら笑い過ぎで浮かんだ涙を指で拭い、ふぅと一息ついた。
「いやー、端から見てても面白かったけど、実際に話すと本当にミーヤって面白いな!」
「嬉しくないですお兄さん」
私が少し不機嫌気味に酒に口を付けつつそう言うと、お兄さんはきょとんとした後うくくくと笑った。
「そういやまだ俺自己紹介してなかったな。俺はローラン。これでも結構、冒険者のランク高いんだぜ?」
そう言い、「よろしくな」とお兄さん…ローランさんは笑った。
うわあ、ミサンガが反応してないからマジでランク高いのかこの人。もしや武道大会のプロ部門に出てたりしたのかな?
「よろしくです、ローランさん」
「俺もミーヤ達の事呼び捨てにする気満々だからミーヤ達もローランで良いよ。気にしないし」
そう言って、ローランはいつの間にか頼んだらしい酒を従業員さんから受け取って掲げ、
「何より、酒の席にそういうのって邪魔じゃね?」
とウインクしながら言った。
成る程、そういう考え良いと思う。




