ヒイズルクニの国民性は粘着質らしい
「む、ミーヤ殿」
「あ、連龍さん」
王城へ向かう途中で、同じく王城に向かっている途中だったらしい連龍さんと会った。
「連龍さんも王城に用事が?」
「うむ、1位の賞品である願いを言いに、な。昨日は色々と忙しかったから今日に持ち越しだったのだ」
「成る程」
納得だ。にしても……。
「連龍さん、本当にお酒強いんですね。あんだけ飲んだのに朝から動けるなんて」
私の言葉に、連龍さんはふっと笑った。
「それは私の台詞だ」
「まったくもって同意見だわぁ」
「うぬぅ。ごもっとも」
連龍さんとイースの言葉にぐうの音も出ない。
確かにハニーとハイドを落ち着けた後、お酒を飲みまくったもんね。……再び何かのスイッチが入った二人にお酌され続けて。
本当にあれ辛かった。嫁からのお酌は嬉しいけどわんこそばペースではいはいはいはいはいはいとお酌され続けるのは辛い。トイレに行く隙も中々無くて困ったよ。そんだけ飲んでもあんまり酔わなかったけど。
「ところで、ミーヤ殿はどんな用件で王城に?」
「ああ、私は依頼ですよ。獣人部隊から洗濯とか回復魔法をお願いしますって依頼が来てたんです」
「ほう、獣人部隊……」
連龍さんは顎を撫で、何度か頷いた。
「我が国の獣人は牙や爪以外では魔法を使う事が多いゆえに、剣を持って戦うという獣人部隊はとても興味深いな」
「ああ、確かに基本的に獣人って牙や爪ですもんね、武器」
そう言われてみると我の強い獣人が一箇所に集まって剣を持って戦うって中々珍しい事かもね。コンも魔法と牙と爪が武器だし、アルディスも蹴りがメインって感じだったし。
「それで、連龍さんは何を願うの?」
「強い好敵手とか?」とアレクが聞くと、連龍さんはふっと笑った。
「否、私はヒイズルクニの代表として来たのでな。当然、国に関してだ」
「国に関して?」
「うむ」
連龍さんは頷いた。
「同盟を組んでもらいに、私はこの国へ来たのだ」
同盟、とな。
「勿論正当な書筒なども持って来ているが、大会で優勝する事によってヒイズルクニは武力も有しているという表明、そして賞品を用いる事によって頷きやすくさせるなどの考えでな。変に争いが起きそうな芽は先に摘んでおけという上からの指示だったのだ」
はー、交渉役としての仕事とはいえ、ガチで優勝飾った連龍さん凄いな。
「まあ、二度も女性と戦う事になるとは思わなかったが。ミーヤ殿があの時降参してくれなかったら、私はまた心に傷を負うところだった」
「ははは」
これはブラックジョークなんだろうか。
確かに、私の前だかその前だかに女の人と戦う事になって、降参を勧めたら「馬鹿にしてるのか!?」と怒られたって落ち込んでたもんね。仕事でどうしても優勝を狙わないと駄目だったんならより一層心へのダメージキツそう。良かった私が棄権したがってて。
……まあ、私が参加してなかったらアボットかオルコットのどちらかと連龍さんが戦う事になって、違う意味での心の傷をこさえてた可能性高いと考えると本当に参加してて良かったなって思うよね。
「…あの、ところでなんですけど、本当常識的な事かもしれないんですけど」
「何か?」
「ツィツィートガルとヒイズルクニって、同盟組んで無かったんですか?」
私の言葉に、連龍さんは思いっきり吹き出した。くっくっく、と笑いながら、連龍さんは答える。
「っく、くく……ああ、今は組んでいない。…くくっ」
「今は?」
「500年程前までは組んでいたらしいのだがな」
「勇者の取り合いでツィツィートガルに喧嘩を売られ、キレた我が国の者によって同盟を止めたのだ」と笑いが収まったらしい連龍さんは言う。
「我がヒイズルクニは何と言うか……粘着質なんだ」
「粘着質」
日本っぽい国が粘着質とは一体どういうこっちゃと復唱すると、アレクが「あ、僕知ってる」と挙手した。
「一回受けた恨みは死ぬまで忘れないし、死んでも末代までその恨みを継承するって聞いた事あるよ」
「………まあ、あまり認めたくは無いが……事実だ」
ああ、そういう…。
確かに日本も七代祟るとか末代まで祟るとか、言うもんね。恨みつらみが募り過ぎて祟り神になる事もあるくらいには粘着質で恨みを忘れない傾向にある、かも。
「ゆえに五百年という年月を経て、ようやく上が「そろそろツィツィートガルとの関係も見直すか」と。それまでは何度かツィツィートガルからも使者が来ていたのだが、全て「貴様らの暴言暴挙その他諸々、忘れておらぬぞ」と言って追い返していたという……」
「わあ粘着質」
うん、まあ、確かに死ぬまで恨みを忘れないってトコはあるよね、日本人。子供の時の恨みとか結構覚えてたりするし。
でも成る程、だから良い印象を与える為にまずは向こうの大会で優勝しようぜ!って事になったのね。もう恨んでませんよーって意思を伝える為に。そしてそのうえでこっちに喧嘩は売るんじゃねえぞという牽制の為に。
「ちなみにヒイズルクニの粘着質以外の特徴は、食に貪欲というところだな」
「食に」
「うむ、食に」
ま、まあ、うん、確かに日本人は食に貪欲だけど。
蒟蒻なんて、生だと食べられないからって加工しまくって作り上げた作品だもんね。人間を殺す事も出来る毒を持ったふぐすらも毒を取り除いて食ってるし。そんな感じなんだろうか。
「あ、それも聞いた事ある。確かヒイズルクニは生の魚も食べるんだっけ?」
「刺身の事か?それなら正解だ。魚を捌いて大豆を加工し作った醤油で食べる」
「それをツマミにしながら清酒を飲むのが最高なのだ」と、連龍さんは遠くを見て笑いながらそう言った。気持ちめっちゃわかる。刺身美味しいよね。
「他にもタコやイカなど、他国では食用としては見られない生き物も食べるな。虫も根っこも加工次第で食える」
「行きたい」
タコの酢の物とかあるかな。あれ好きなんだよね。
そう思いながら言うと、本心からの言葉という事がわかったのか連龍さんはにんまりと心の底から嬉しそうな顔で微笑んだ。
「食に興味があるなら是非来ると良い。国民の殆どが、魔法を食い物関係に使っている国だ」
「ああ、そういやヒイズルクニを書いた本に「あの国は食えない物を食える物にする為に凄まじい氷魔法や火魔法を使うから本気でやばい。でも喧嘩したら食い物あげれば許してくれるから助かる」って書いてあったな……」
遠い目で呟いたコンに、連龍さんは「それは確かに」と頷いた。
……うん、確かに食べ物は偉大だよね。喧嘩しててもお菓子で仲直り出来たりするし。
そんな事を話していれば、いつの間にか王城は目の前だった。門番さんにそれぞれの用件を伝え、王城に入る。連龍さんはこれから王様と謁見だとかでここでお別れした。
連龍さんを見送ってから門番さんに獣人部隊の人達が居るトコどこですかと聞こうとしたら、レオンさんが迎えに来てくれた。流石紳士。日にち的に一週間は無理です。六日ならいけます。と言ったら期間を六日にしてくれたし。優しい。
そんなわけで、
「本日から六日間世話になる魔物使いのミーヤだ!全員、礼!」
「「「「よろしくお願いします!!」」」」
百人くらい居るんじゃねえのっていう獣人さん達の前でご挨拶である。声の圧が凄い。
ところでなんだけど、どうもレオンさんは獣人部隊の隊長さんらしい。凄くビックリした。ライオンだし似合ってるけどマジかよって感じだ。ちなみにビルさんは副隊長。凄い人に道案内してもらったんだな私。
「よろしくお願いします!」
頭を下げてから、イースを始めとする従魔達の事も紹介しておく。勿論、私の嫁である事も。色目を使うのは許さんぞという牽制ですよ。何か問題でも?
さておき、まずはとレオンさんに洗濯物を見せてもらう。仕事は大事だからね!
と、思ったんだけど、
「……それが、だな」
レオンさんは申し訳無さそうな、気まずそうな表情で言う。
「見てもらえばわかる通り、思っていた以上の量で……」
「うわーお」
見せてもらった洗濯物は、籠いっぱいに入った洗濯物だった。……それも大きめの籠が十個くらい。
汗と土の混ざった臭いに、鼻の良いコンは勿論、他の皆も鼻を押さえて顔を顰める。
「流石にこの量はミーヤの負担が大き過ぎるだろうという事で、特に汚れが酷い物を選別して光魔法のクリーンを掛けてもらう、という形で頼めるだろうか。残りの洗濯はこちらでやっておく」
「…流石に、この量を洗ってくれと言うのはな……」と、レオンさんは鼻を押さえながら遠い目で言った。うん、この量はね……。
………でも、一着一着にクリーンするのは面倒だけど、籠一個一個にクリーンするならそこまで問題無いんじゃないかな?良し、試してみよう。
「レオンさん、ちょっと試しにクリーンを使っても良いですか?」
「ん?ああ、勿論。汚れ具合で消費する魔力量も違うだろうからな」
許可も出たので、一番手前の籠に向かって魔法を発動させる。
「光魔法、クリーン」
籠が、というか籠の中の洗濯物達が一瞬光り、次の瞬間には綺麗な状態の服が籠の中に居た。
「よっしゃいけた!」
「何だと!?」
驚愕にレオンさんは口をあんぐりと開けた。うわ、大口開いてる姿めっちゃ似合うなレオンさん。流石ライオン。その口に骨付きの漫画みたいな肉を突っ込みたい。
「何と……いや、獣人ではなく人間であるミーヤならこのくらい出来る…のか…?」
ううむ、とレオンさんは鬣を撫でながらそう言った。
多分妄想癖の効果だと思うけど、まあ出来てラッキーって事で。魔力消費はそれなりだけど、それは後でハニーの蜂蜜飲めば良いし……うん、
「じゃあ他の籠もやっちゃいますね!」
「あ、ああ、頼む。報酬は頑張って弾もう!」
「いや報酬は適正価格でお願いします」
「わかった」とレオンさんが頷いてくれたのを確認して、私は十個くらいある籠に入っている洗濯物にクリーンを掛けていった。
そして十分と少しの時間で、山盛りの汗塗れ土塗れの服達はピカピカの服になりました。
「あとは畳めばオッケーですね」
「そうだな。ああ、問題無いのであれば皆が鍛錬している近くで畳んでくれるか?」
近くで?
「えーと、それはどういう」
「皆が鍛錬しているすぐ横には休憩所があるからな。ミーヤにはそこで待機してもらって、怪我人が出たら回復してもらいたいと思っていたんだ。なので、怪我人が出たらそっちの仕事、怪我人が居ない時は洗濯畳み、という感じで畳めるだろうか」
「おお、無駄が無い。良いですね」
怪我人を待機してて暇する事も無いし、洗濯畳みで怪我人を待たす事も無い。良い案だ。
レオンさんの案に賛同して、洗濯物を持って休憩所へと移動する。持ってというか、全部アレクが不思議空間に収納してくれたんだけどね。
容量無限なの?って聞いたら、
「いや、僕の魂の容量分しか無理」
って言ってたけど、アレどういう意味なんだろう。イースはうんうんと頷いてたけど、私達肉体ありの種族にはさっぱりだ。というか少し前まで人間だったのにアンデッドに馴染み過ぎてるよねアレク。カルチャーショックが少ないようで何よりだけど。
それと休憩所に向かう途中でレオンさんが、
「既に大量の魔力を消費してしまっただろう?回復魔法が無理そうなら普通の手当てをしてくれれば充分だから、無理はしないように」
と言って頭を撫でてくれた。紳士カッケェ。
まあでもハニーが作る蜂蜜あるんで大丈夫ですよ、と説明しておいた。魔法は使えば使うだけ使い方を覚えれるからね!使うチャンスが来たら出来るだけ使って感覚掴みたいよね!
特に回復魔法はあんまり使わないからとても良いチャンスだ。何で回復魔法をあまり使わないのかって?うちの嫁には出来るだけ怪我して欲しく無いからですよ。無茶はさせないようにしております。そんな気遣い不要ってレベルで皆強いけどね。
さて、そんなわけで休憩所で座りながら洗濯畳みタイムだ。
「ハニー、めっちゃ畳むの速いね」
「そうですか?腕が四本あるからでしょうか」
「いや、普通にハニーの家事レベルが高いからだと思う」
ハニーが洗濯物を持つと、ひょいひょいひょいっと洗濯物が畳まれ、気付くと畳まれた洗濯物が置かれているのである。しかも腕が四本あるから一回で二着も畳んであるという。うちの嫁凄い。
ラミィは自分の下半身をアイロン台代わりにして、手を火魔法で熱くしてシャツなんかにアイロンを掛けてるし、コンはチラチラと鍛錬の様子を見ながらも大きめの服なんかを畳んでくれてるし、アレクはイースの教えの下魔法を使って複数の洗濯物を一気に畳んでるし、ハイドは穴が開いてる服なんかを繕ってくれてるし………。
それに対して私はただ普通に洗濯物を畳むだけである。地味。一般人なんて所詮この程度よ。
んー、でもコンがチラチラと鍛錬を見てるのが気になるな。獣人さん達の兵士としての戦い方に興味があるのかな?洗濯物畳むのが終わったら、レオンさんに頼んでコンも鍛えてもらえないかって頼めないかな。報酬減らして良いんでって言ったらいけないかな。どうかな。言ってみないとわかんないな。
どう言い出そうかな、と考えていると、
「よう、ミーヤ。ちょいと手当て頼んでも良いか?」
「ビルさん」
お客さん第一号が来た。これだとめでたい感じが出ちゃうから良く無いな。被害者一号…も良く無い。まあ普通に怪我人一人目が来た、が正解かな?
「怪我ですか?」
「ああ、腕をな。つっても俺じゃなくてコイツなんだが」
「ど、どうも……です」
ビルさんの巨体で見えていなかったが、ビルさんの後ろに居た彼が怪我人らしい。ネズミの獣人だ。可愛い。ネズミって害獣のイメージも強いけど、同時にハムスターなんかのイメージも合わさって可愛いって印象もあるんだよね。
あと猫とネズミのアレで私のネズミへの好感度は高めである。ネズミ被害に遭った事が無いからそう言えるってのもあるけどね。
「こんにちは、ミーヤです」
「あ、えと、僕、ネヴィルです」
「ネヴィルさん。じゃあ早速患部見せてください。回復しますので」
「は、はい!」
ネヴィルさんは袖を捲り、患部を見せてくれた。うーむ、これは鍛錬用の剣が当たったって感じかね。痣になっちゃってる。
とりあえずさっさと魔法掛けないと、と回復魔法を掛ける。良し、痣は消えて綺麗になった。というかネズミの特徴なのか手が小さくて可愛いなネヴィルさん。
「良し、オッケーです!」
「あ、ありがとうございます……」
そう言った次の瞬間、ネヴィルさんは「…うっ……」と泣き出した。
泣き出した!?
「え、ちょ、どうしました!?まだ痛いトコありました!?それとも痛み残ってます!?」
「ち、違う、んです!僕、僕、全然、強くなれなくて、辛くて、剣、上手く使えなくて、鍛えてもあんまり筋肉付かなくて、もう、向いてないんじゃないかって思ってた、から、優しくて、嬉しくて……!」
ひっくひっくとしゃくりあげながら、ネヴィルさんは袖でぐしぐしと涙を拭う。
「僕、僕は、ネズミ獣人だから、力、弱くて、っく、卑しいって、馬鹿に、されて、て!だから、見返してやるって、思って、へいっ、兵士、に、なってっ!」
「よーしよし、落ち着いて喋ってくださいね」
「ジュースもあるわよぉ♡」
ネヴィルさんはイースが渡した蜂蜜入りのジュースを受け取り、一口飲んで少し落ち着いたようだった。ぼろぼろと零れ落ちていた涙は、ほろほろという感じに威力が下がっている。
あービックリした。めっちゃ焦ったよ。イースマジありがとう。グッとサムズアップするとイースもサムズアップで返してくれた。可愛い。
……うーん、でもネヴィルさん、ここまで泣くって事は相当思いつめてたご様子。これは相談室を開いた方が良いかしら。というか開いた方が良い気がする。さっきからコンが凄い反応してるんだよね。心配そうというか、おろおろしてるっていうか。……自分と被るのかね。
「僕」
ネヴィルさんはぽつりと呟く。
「僕、強くなりたいんです。でも、力無くて、弱いままで……剣も全然、扱えなくて……」
「確かにな」
椅子に逆向きに腰掛け、背もたれを肘置きのようにしてビルさんは言う。
「剣の重さで重心がブレるのか、すぐに剣に遊ばれちまうっつーか。動きを少しでも崩せばすぐに倒れちまうしな」
「う、っうう……」
ぐすぐす、とネヴィルさんはまた鼻を鳴らし始めた。
「や、やっぱり、ネズミは、弱いままなんですかね…。強くなんて、なれないのかな……」
静かに無くネヴィルさんを見て、私は首を傾げる。
「いや、それは無いと思う」
「え?」
思わずといったように顔を上げたネヴィルさんの目を見ながら、私は言う。
「ネズミは既にめっちゃ強いと思います」
これ、マジで事実だから。




