王都は再会イベントの宝庫なの?
昨日の夜は色々あったけど、朝は必ずやってくる。
というわけで朝からギルドです。昼に来ると混んでるからね!早い方が良いんだよね!
混んでると従魔達が邪魔扱いされちゃうし、従魔達もストレス溜まっちゃうし。だからギルドには出来るだけ午前中に来るようにしよう、と皆で話し合って決定したのである。
いやー、それにしても我ながら昨日はあんなに飲んで食べてしたのに朝には普通にお腹空くんだから凄いよね。人体って不思議。17歳だからまだ成長期なのかしら。もしそうならもう少し身長が伸びてくれると嬉しいんだけどね。
………それはともかく、
「おいあの書類どこだ!?」
「すみませーん、冒険者の方の落し物コーナーどこですっけ?トイレに毒が仕込んである口紅落ちてたんですけど」
「うおおおおおお前何でそんなあっさりしてんだよこの元暗殺者!それは落し物コーナーじゃなくて兵士に通報案件だろうが!あっちの危険物コーナーに入れなさい!あ、ちゃんと小箱に入れて内容書けよ!」
「何でですか?」
「馬鹿野郎!危険物は混ぜたらアウトって相場が決まってるだろうが!小分けにしないと呪いと呪いが結婚してギルドがぶっ壊れる結果になるんだよ!」
「そうそう、確か本によれば四十年くらい前にガチでそんな事件が起こったって」
「こらそこのバイト雑談タイムは休憩時間にしろ!客の少ない午前中に溜まってる仕事片付けるぞ!」
「この指名依頼、握り潰せないの?」
「いや流石に無理」
「この書類やったの誰ですか!?誤字と計算間違いが酷いんですけど!」
「あ、すまんそれ二徹した俺が担当したやつだわ」
「二徹!?定時には帰ってますよね!?」
「仕事終わったぞーって酒飲んでたら気付けばオールに」
「この人馬鹿だ!ヘルプ先の先輩職員に言う事じゃないけど馬鹿!」
「ちょっと!Gランクの依頼がBランク用のボードに貼ってあるんだけどやったの誰!?」
「え、だってゴチャスメラッガパパラモヘッゲの世話って書いてあったから普通の魔物図鑑には載ってない相当やばいレア魔物の世話なんじゃないんですか?」
「そんな魔物居ないってわかってるなら疑問を持ちなさいよ!これはただの猫の名前!お孫さんのネーミングセンスがちょっとアレでこんな名前だけど!」
「わかるかあ!!」
冒険者は疎らなのに、職員の人達が大きな声で走り回ってて全然静かじゃない。
あっちこっちそっちどっちと走り回っている。うーわ、落し物コーナー山になってるし。そんだけ沢山の人が出入りしてたんだな……。
そういえばメルヴィルさんも武道大会のスタッフとして駆り出されてたし、準決勝後にスタッフさん達がギルドの人員がどうこう言ってたし………。ただでさえ裏の人を受付に回さないと駄目なレベルで人員不足だったのにそれにプラスで武道大会のスタッフだもんね。そりゃ書類とかの事務仕事溜まるわ……。
というか、ゴチャスメラ……何ちゃらって凄い名前だな。お孫さんのネーミングセンス尖り過ぎてない?言える?それ毎回ちゃんと言えてる?まだ寿限無の方が言いやすいよ。ゴチャシュ…ス…何ちゃらとか、完全に舌噛むじゃんね。
「うーん……」
大変な依頼を頼まれる可能性があるとはいえ、楽だし手っ取り早いしって事でまたメルヴィルさんに良い依頼ないか聞こうと思ってたんだけど……とてつもなく忙しそうだな。しかも全員。
「どうしよっか」
「やはり普通にボードに貼られている依頼を確認した方が良いのではないでしょうか?」
「だよね」
ハニーの言葉に頷くが、
「でもさっきの会話聞いてると依頼のランクがごっちゃになってそうで怖いんだよね……」
「……確かに、そうですね」
少し沈んだ空気でそう言うと、納得したらしいハニーも重々しく頷いた。ランクごっちゃな依頼とか超怖い。油断したら駄目なやつ。
「?我も居るから多少の誤差は問題ないだろ」
「あー……」
首を傾げたハイドの言葉に確かにそうだけど、と思う。
実際皆が居るならBランクとかの依頼もこなせるだろうとも思うし、多分ガチでこなせるとも思う。だけど……ね?
「うっかりランクを上げたくないんだよね。Cランクから上は国からの依頼を断れないっぽいから。Dランクより下をうろうろしていたい」
「成る程、だからうっかりCランクになりかねないDランクにもなろうとしないのか」
納得した、とハイドが頷いた。わかってくれて嬉しい。
さて、それでどうしたもんかね。依頼ボードは地雷が埋まってる可能性大。かといって職員の人に聞くのも……ね?何か凄い忙しそうだし……。
「………………」
「?」
ふと、コンが落ち着かない様子で鼻を鳴らしながらきょろきょろを周りを見渡しているのに気付いた。
「どしたの、コン」
「ああ、いや……何か、凄く嗅ぎ慣れた匂いが………」
ごにょごにょ、とコンは言葉を濁す。嗅ぎ慣れた匂い?と私が首を傾げると、
「お!コンにミーヤ!」
忙しそうに書類を持って走り回っていた職員の一人がこっちに来た。
…………とてつもなく見覚えがある、ウサギ獣人が。
「他の従魔も久しぶり……って、何か増えてないか?」
「ああ、うん、あれから増えて………えっと、久しぶり?アルディス」
「何だよその疑問系」
私の言動にアルディスはニッと笑い、書類を片手持ちに変えて空いた片手で私の頭を撫でた。
「武道大会見たぜ!準決勝まで進むなんて凄えじゃねえか!」
「あ、見に来てたの?」
「おう。つかそれ目的で王都に来たしな」
そう言ってからアルディスは意地悪そうな笑顔になり、コンに視線を向ける。
「コンも従魔じゃなかったら獣人部門に参加して優勝してたりして」
「俺がミーヤの従魔じゃなかったらまず王都に来てねえよ」
「だろうな!」
……あれ、もしかしてアルディスも武道大会に参加してたんだろうか。
「ごめん、私武道大会の一般部門終わった後即行で帰ったから試合見てないんだけど、もしかして獣人部門に出たりした?」
「いや?」
アルディスは首を横に振った。
「俺は予選前に落ちたから」
「予選前に落ちるって何?」
そんなんあるの?予選ってあれだよね?エントリーした人達がバトロワするあれ。私の場合は何か私以外全員が決勝戦みたいな雰囲気で戦って相打ちになってたけど。
とにかくエントリーしたらまず予選のはず。その前にって何?
私が本気で知らない事を理解したらしいアルディスは説明を始めてくれた。
「まずこれは獣人部門だけなんだが、カカシ相手に攻撃するんだよ。予選前に」
「カカシ」
どういうこっちゃと復唱すると、アルディスは少し気まずそうに視線を逸らした。
「……ホラ、獣人ってつい急所狙いの一撃必殺を狙いがちだろ?」
「そこからは僕が説明するね!」
言い難そうなアルディスに代わり、アレクが骨の右手を上げて挙手して説明を引き継いだ。
「獣人は急所狙いが多いし、結構頭に血が上りやすいっていうか……まあ、周りが見えなくなる事も少なくないんだよね。負傷すると危険度増すし。そんな獣人同士でバトルするとか、最悪殺し合いになっちゃうでしょ?」
「ああ……」
対人に慣れてないって感じかな。
「だから手加減出来るかどうかを計る為に、予選前にカカシ相手に攻撃してもらうみたい。あ、このカカシは魔法が掛けられてる特殊なカカシでね?普通の人間と強度が同じなんだ。で、カカシに対しての攻撃に手加減がちゃんとされてたかどうかで参加資格ありや無しが決定する、ってわけ!」
「俺はまずいつも通り蹴りを入れたんだが……まあ、いつも通りにやったせいで、カカシの首がもげて…………」
その時の事を思い出してるのか、やっちまったなって感じの表情でアルディスは頬を掻いた。そんなアルディスに対し、コンは可哀想なものを見る目で言う。
「アル、お前手加減って知ってるか?」
「知ってるよそんな目で見んな!ちゃんと脳じゃなくて顎狙ったし!」
「顎を狙って首を落としたと」
「お前いい性格になったなこの野郎!」
悔しそうな表情のアルディスに対し、楽しそうに笑っているコン。……うん、昔のネガティブさが無くなって良い事だね。昔のコンは本当に……うん、心配だったから。
それにしても……ゴドウィンさんも言ってたけど、獣人って本当に手加減が苦手なんだね。確か魔物を狩る時は本能的に相手の急所である魔石を壊すせいで稼ぎが少ないって言ってた。
生き残るのには強いけど、対人だとちょっと厳しいか。武道大会で死人出たらまずいもんね。………そう思うと、本当にビルさんの怪我治しておいて良かった。手負いの虎状態だと危ないからね。
「まあ、だから基本的に獣人部門は手加減が出来る獣人部隊の獣人しか出ないんだよね。他の獣人は殆どが手加減出来ないから」
「成る程……」
アレクの説明を聞いて私は頷く。
確かレオンさんとビルさんは予選に向かってた。そして獣人部隊とも言ってたし……そういう部隊に所属してないと手加減が覚えられないんだね、獣人って。まあ部隊に所属してない獣人って野生に近い感じだろうから、合ってるっちゃ合ってる気がするけど。
「それで、何でアルディスはギルドの職員してるの?」
やっとこれが言えた。そう、これがずっと気になってたんだよね。アルディスはグレルトーディアで冒険者やってたはずなのに、何で王都でギルド職員してるんだろうって。手に書類持ってるから確実に職員の仕事してるっぽいし。でも確かコルヴィネッラとグレルトーディアを行き来してたりもするんじゃなかったっけ?
そう思って聞くとアルディスは長い耳を垂らし、
「…………巻き添え食らったんだよ」
と、渋い表情で答えた。
「巻き添え?」
「見ての通り、今王都のギルドは人手不足なんだ。それで観光に来てた他所のギルド職員に臨時で働いてもらってるっぽいんだが……一緒に来てた奴が、ギルド職員でさ。自分は臨時でどうしても働かないといけなくなったのにお前だけ観光は許さないって………」
アルディスは遠い目で、「そして無理矢理働かされてる」と言った。それを聞いたコンは、あー……という納得したような表情で頷いた。
「どおりでアル以外にも覚えのある匂いがすると……」
コンがそう呟いた瞬間に、見覚えのある女性がアルディスの襟を掴んだ。
「ちょっとアル!私がこんなにも頑張ってるのに自分だけサボるなんて!……って、にゃっ!?ミーヤさん!?」
「アニスさん!?」
アルディスの襟を掴んだのは、ツギルクでお世話になった三毛猫獣人な受付嬢、アニスさんだった。




