ジュース三名、その他酒飲み
「えーと……じゃあ全員揃ったトコで、注文でもします?」
「ああ」
「そうだな」
「うむ」
気まっず!
屋台とか露店とか見て歩いて、日が暮れてきたから宿屋に戻って来たら一般部門は昼頃には終了するからって皆もう宿屋に移動してきてたんだよね!
あ、ちなみに優勝したのは里見さんで、ギルベルトは惜しくも2位だったらしい。
だからギルベルトだけは王城から普通に来たっぽい。忘れてたけど2位の賞品って王城に一泊二日と城内見学だったもんね。一人だけ王城まで戻る必要があるから大変だ。
………うん、まあ要するに私を除いて優勝争いをしたメンツなせいか、微妙に空気が気まずいんだよね。お酒でこれが消えてくれると助かるんだけど、と私はメニューを開く。
「アーウェルはまだ成人してないからお酒無理だよね?」
「ああ。折角の食べ放題だし……ジュース頼もうかな」
……アーウェルの言葉で今までの生活が大分厳しかったんだなって事がわかるね。
「里見さんは?」
「ヒイズルクニの酒があればそれを。無ければこちらの酒で……度数が高い酒が良いな」
「えーと……あ、ヒイズルクニの酒あります。じゃあ里見さんはこれですね」
メニューに書いてある説明からすると日本酒っぽい。丁度良いね。
………最初は酒関係のメニュー見てもまったくわかんなかったのに、気付いたらわかるようになってるな。町でお酒飲みまくったりしてたもんな…。
「ギルベルトは?お酒飲める?」
「……無論だ」
目を逸らしながらそう言ったギルベルトの言葉に、私のミサンガが白く光った。嘘なのね。
「下戸?それならジュースにしておく?酔っ払った状態で王城まで戻るの難しいだろうし」
「いや、飲める!」
ムキになってない?うーん、でもミサンガの反応が……って、ちょっと待てよ?
「よし、ならギルベルト、私の問いに答えたらその返答次第で酒を頼もう」
「問い?」
「ギルベルト、何歳?」
「…………っ」
私の言葉にギルベルトはギクリと硬直し、目を逸らし、汗を垂らした。
何度か口を開閉させてからギルベルトは、
「89だ……」
と言った。
「って未成年じゃん!問答無用でギルベルトはジュースね!」
「くっ……!流石はエルフの友人、知っていたか…!」
ギルベルトは悔しそうに歯を食い縛ったが未成年である事は事実だからね。えーと、確かエルフは植物系しか駄目だから……あ、うん、ジュースって大体フルーツ系だから大丈夫っぽい。ミルクじゃなくてミルールの果汁に変更も可能って書いてあるし。
とりあえずアーウェルとギルベルトは同じジュースにして、里見さんはヒイズルクニの酒で、私は果実酒かな。あと従魔の皆の分も頼まないと。
イースは他の人が注文したのを摘まむのが好きだから酒だけ頼んで、ハニーは甘いのしか食べれないからジュースとフルーツ……あ、この宿屋お高いだけあってデザート系もあるんだ。じゃあそれも。
ラミィとコンとアレクはとにかく強くて沢山のお酒と、主に肉系のガッツリした食べ物だね。
ハイドは蜘蛛だからスムージーやジュース、スープなんかの流動食系の方が食事の進みが良いからスープ系多めで……あとはタンパク質が多い食べ物かな。タンパク質が糸の元になるらしくて、タンパク質を食べたがるんだよね。
よし、大体決まった。アーウェル達の分の食べ物は適当に今日のおすすめメニューと大人数用食事セットみたいなのを頼む事にしよう。違うの食べたかったら自分で頼むだろうし、余ってもうちの大食いさん達が食べるしね。食べ放題万歳。
従業員さんを呼んで酒と食べ物を注文した。注文を取ってた従業員さんが量の多さにちょっと慌ててたのが申し訳ない。
さて、それじゃお酒が来るまで待って……と思いメニューを置くと、
「………は?」
「……………」
アーウェルと里見さんが怪訝な表情でギルベルトを凝視していた。え、何事?
「二人共どしたの?」
「いや、え、ミーヤ……えっ?」
「……89で、未成年……?」
眉を顰めてそう言う里見さんに、二人が何に困惑しているのかがわかった。
「ああ、エルフは100歳で成人なんですよ。前にエルフのお姉さんに聞きました」
「飲酒デビューが出来ると思ったのに……」
「あと11年の辛抱だね」
日本だったら未成年だから飲酒禁止な私が言う事じゃないけど。こっちの世界では17はとっくに成人済みだから良いんだよ。
そんな事を話していたら、注文した酒とジュースが届いた。それとサラダ。
酒が入ったコップを持ったら何故か私に視線が集まったので、仕方なくコップを掲げて音頭を取る。
「それじゃあ…武道大会お疲れ様でした!乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「「「「「「かんぱーーいっ!」」」」」」
全員がコップを掲げてからそれぞれ酒やジュースを飲む。ギルベルトだけ不満気な表情だったけど仕方ない。諦めてくれ。
私は酒を三分の一程飲んでから、いただきますと言ってサラダを頬張る。うん、新鮮な野菜の味。
「む、ミーヤ殿の故郷も食事前の言葉は「いただきます」なのか」
「ヒイズルクニもそうなんですか?」
「ああ。かつてヒイズルクニに住んでいた勇者様が、「動物や植物の命を「いただきます」という意味だ」と広めたらしい。ミーヤ殿の故郷も同じ意味か?」
「そうですね」
「そうか、ミーヤ殿の故郷にも勇者様が居たのかも知れないな」
ふふ、と口元を緩めて笑った里見さんに対し、私はへらっとした笑みで返す。
すみません、正確には勇者様っつーか、勇者様の故郷なんです。私の故郷。まあでも設定上ミーヤの故郷には勇者が居たって設定だし、同じように勇者が広めたって事にしておくのが良いかもね。
「…コン、サラダ……ちょうだい」
「もう自分のサラダ食べ終わったのかよ。ほら、サラダ。………助かる」
「ん」
横ではサラダをどう処理するか困っていたコンに対し、ラミィが助け舟を出していた。多分食べ足りないから余ってるコンのサラダに目をつけたってのも本当だろうけど、コンが野菜オンリーな料理が苦手って事は従魔全員が知ってるからね。従魔同士の仲が良いのは良い事だ。
「は!?あの伝説の弓と矢と矢入れだと!?な、一体どんな善行を積めばそんな、弓使いにとって最高のアイテムを手にする事が……!?」
「手に入れたのは俺じゃなくてミーヤだ。そしてミーヤは弓を使わないからって俺にくれた」
「う、羨まし……っ、いや!エルフとして人間に対しそんな事は、いやだが弓使いとしてはとてつもなく羨ましい…!」
アーウェルはあのアーチャー三種の神器をドヤ顔で自慢し、自慢されたギルベルトは今にもハンカチを噛みそうなくらいには羨ましがっていた。そんなに?そんなに凄いアイテムだったの?アレ。
「お酒で酔わないのは嬉しいような、でもちょっと寂しいような……ん?どうしたのミーヤ」
「いや、何でも」
「わ、わ、わ」
椅子に座らずふわふわと浮きながら酒を飲んでるアレクの頭をわしゃわしゃと撫でる。
よくよく考えてみると、あの時ダンジョンにアレクも……アレックスも同行してたんだよね。あの時は私の従魔でも無くて、ただの人間だった。領主であり冒険者な、一人の人間。
なのに私の異様なレアアイテムのドロップ率を見ても「凄い」としか言わなかったし、利用しようともしなかったし………。
「アレク、生前から私の事が本当に好きだったんだね…」
しみじみと呟くと、アレクが反応した。
「そうだよ!?え、ちょ、まさか疑ってたの!?死んでもミーヤの傍に居たいって思うくらいには重くて本気な僕の愛を!?」
「いや疑っては居なかったけど、改めて認識した」
「どういう事なの」
「まあ気にしなさんな」、と私はアレクの頭を撫でる。アレクは「こんなんじゃ誤魔化されないからね!?」と言いながら、ふにゃふにゃした笑顔を浮かべていた。可愛い。
そんな風にそれぞれ話しながら酒を飲みつつサラダを食べていれば、注文した食事が届き、
「あの席やべえ…」
「武道大会一般部門の上位が飲んでるって聞いて来てみたらなんかめっちゃ面白い事になってた」
「これは酒が進む」
「ここ値段高いからあんまり酒飲みたくねえのに!悔しい!でも頼んじゃう!酒のお代わりください!」
「あ、ちょっとそこの兄ちゃん、あの一番目立ってるテーブルにこれとこれとこれ匿名で。良いモン見せてもらったぜ」
「ミーヤちゃんすっげぇ飲むな……」
「あの小さい体のどこにあんな量の酒が……」
「と思ったらすっごい食べさせられてるし」
数時間後、ふと気付けば他の席から注目を集めまくりなカオス席になっていた。
「アーウェル!貴様の妹を俺に紹介しろ!魔法に関して色々と意見を聞いてみたい!」
「だから駄目だって言ってるだろ!今から妹の目が肥えたらどうするんだ!兄として良い男を見抜く目を養って欲しいとは思うけどうっかり目が肥え過ぎてその辺の男が芋にしか見えなくなったらどうしてくれる!」
「その時は責任を取る」
「よし、喧嘩だな?表に出ろ」
酒を飲んでいないはずの弓使い二人は匂いだけで酔ったのか、はたまた仲良くなったのかはわからないが軽口を叩き始め、
「ふむ、この酒は中々に度数が高くて良いな」
「ヒイズルクニの酒も美味いな。火の魔力が高まる感じがする」
「えーっと、里見さん?このお酒は何?」
「同じ釜の飯を食った仲だ。連龍で良い。……ふむ、それは焼酎だな」
「……こっち、米……。焼酎、……芋?」
「ほう、ラミィ殿は鼻が良いな。清酒は米を原料に、焼酎は芋や穀物を原料としている。正確には製造法もまったく違うものだが、大体材料が違うと考えれば間違いでは無い」
里見さん……連龍さんとコンとアレクとラミィというほぼ無限に飲んで食べ続けてる組はひたすら酒の飲み比べをし、
「ミーヤ様、このオレンジは甘みが強いですよ」
「むぐ」
「ミーヤ、口の中がサッパリしたところでこってりした肉を食え」
「ぐむ」
「ミーヤ様、ミックスジュースをお飲みください」
「んぐ」
「ミーヤ、肉の野菜包みも美味かったぞ」
「もぐ」
「うふふふふ、わんこ蕎麦みたいねぇ」
「はふへほ」
そして私はハニーとハイドにひたすら口の中に食べ物を突っ込まれては咀嚼し飲み込みまた突っ込まれるという無限ループに陥っていた。イースは楽しそうに見ているだけで助けてくれない。
一応気遣いなのか一口サイズに切った食べ物だけを突っ込まれてるけど、正直そろそろお腹膨れて来た。あと酒飲みたい。
……まあ、最初の気まずさが無くなっただけ良いと思うか。
にしても、まだ皆が冷静さを保ってた時に連龍さんと話した内容が気になるな。
「コン殿は狐獣人のようだが……ヒイズルクニ出身では無く、ツィツィートガルの出身なのか?」
基本的に狐獣人はヒイズルクニ出身が殆どらしくて、そこが気になったらしい連龍さんにそう聞かれたんだよね。それに対してコンは、
「さぁ?」
と、本気で気にしてないかのように答えていた。
……コンプレックスが殆ど無くなったみたいで安心した。本心を押し殺してるような声だったら心配になったけど、本気で気にしてない感じの声だった。どうなんだろうなーって感じで片耳を伏せてたし。
「…さぁ、とは」
「俺は捨て子だったからな」
「それは……申し訳ない」
「いや、今は気にしてないから気にするな」
コンが捨て子だったという事に連龍さんは申し訳無さそうに謝罪したが、コンは笑ってそう言った。
………色々と吹っ切れたみたいで良かった。
「……コン殿の名はツィツィートガルというより、ヒイズルクニに近いものがあったので気になったのだが……まさか、捨て子だったとは」
「ん、ああ、コンって名前は親じゃなくてミーヤが付けてくれたんだ。それまでは名無しだった」
酒を飲みながら平然とそう言ったコンの言葉に、連龍さんは凍り付いた。
「………確か名無しの獣人は、酷い迫害を受けるのではなかったか……?」
「まあいじめられはしたけど、助けてくれる幼馴染も居たし、俺を拾ってくれた親父も優しかったし。それに俺が名無しだったお陰でミーヤの従魔兼嫁になれたようなもんだしな」
「そうか、コン殿は強い心を持っているのだな」
安心したように微笑み、酒を再び飲み始めた連龍さんを見て、ふと私は思い出した。
「そういやイース、コンの実の親ってヒイズルクニに居る可能性が高いんだっけ?」
「えぇ、高いわよぉ」
「コン、実の親に会いたいって思う?思うなら次の行き先ヒイズルクニにするけど」
「いやまったく思ってない」
コンは首を横に振った。
「俺の親父はガルガだけだし、正直今更実の親に会ったところで向こうも困るだろうし、俺もどう反応すれば良いのかわかんねえし………うん、特に会いたいとは思わねえな」
「でも普通に観光なら行きたい」とコンは答えた。
本気で出会った頃のコンとは見違えるくらいに逞しく成長したよね、コン。
そう思ってうんうんと頷いてコンの頭を撫でてると、何かが引っ掛かったらしい連龍さんがイースに質問した。
「イース殿、コン殿の実の親がヒイズルクニの者である可能性が高いとは、何故そう思われる?」
「火や闇だけじゃなくてぇ、光や土、水の属性も所持してる狐獣人なんてヒイズルクニにしか居ないでしょう?」
「なっ……!?」
イースの言葉に、連龍さんは目を見開いた。
「五属性の魔力を有する狐獣人……!?」
「しかも名無し…。まさか、いや、だが狐獣人で五属性という事はお稲荷様の……」と連龍さんはぶつぶつと呟き、
「コン殿は今お幾つで?」
と聞いた。
「19」
「ぐおぉ……」
そしてコンの返答に唸り声をあげて頭を抱えていた。
その後すぐに、
「……まだ、まだ確証は無い。飲もう。飲んで忘れよう皆の者」
と言い、酒を全種類頼み、そして現状に至る、というような感じである。
結局連龍さん、それ以上は何も言わずにひたすら酒を飲み始めちゃったんだよね。まるで嫌な記憶を忘れようとする大人のような飲みっぷりだった。
やっぱコン、ヒイズルクニ関係で何かあるのかね。でも何かあると別れに繋がりそうだから嫌なんだよね。よし、私も酒を飲もう。飲んで忘れよう。この会話は酒によってデリートされます。おーけい?おーけい!どうせ今の私酒飲んでるからいつも以上にポンコツだしね!
さて、それじゃあ、
「ミーヤ様、ミツドリの刺身です。ミツドリの肉は生でも食べれますよ」
「むぉっ」
「ミーヤ、から揚げだ。味が染みてて美味いぞ」
「ぐもっ」
……この二人をどうにか落ち着けてから、酒を飲もう。




